第6話 虹色デート




「美味しいね」


佐々木が、小さな口を大きく開けて、アイスにがぶりと食いついた。


駅ビル内1階にあるアイスクリームショップ。

丸い形をしたテーブルの向かいに座っているのは、紛れもない同じクラスの女子の佐々木だ。

椅子の上には傘の入った紙袋と、ポケットには財布だけ。鞄も勉強道具も全て教室に置いてきた。


まさか彼女と学校を抜け出して、アイスを食でに行く事になるとは思ってもみなかった。



こう見えても、今までサボった事無いのに。小さな溜め息と共にチラリと彼女に目を向けると、呑気にまだアイスを頬張っている。



「早く食べないと溶けちゃうよ」


俺の視線に気付いてか、佐々木が唇を尖らせた。

はっと、手元を見れば白いバニラアイスが柔らかくなっている。ココア色をしたコーンから溶け出そうとしているから、慌ててアイスに口をつけた。





"そろそろ教室 戻んなきゃな"


"そうだね"


"て、お前。どこ行くんだよ?"


"んー"


"もう、授業はじまるぜ?"


あの後、教室に戻るのかと思いきや、佐々木は教室から反対方向に歩き出したのだ。


慌てて勝手に連いてっちゃったのは、確かに俺の方だけど。結局、一緒に学校を抜け出してしまったのが今の現状だ。




「私、学校サボッちゃったのはじめてー」


「俺もだよ」


「桜田くんの内申ヤバくなるよ」


「1ヶ月も休んでたお前に言われたくねぇし」


「あはは!まぁねー、私よりはマシかな」


嫌味の1つでも言ってやったのに、笑い声をあげられるからこっちが拍子抜けしてしまう。


佐々木って、こんなケラケラと笑う奴だっけか?




制服の裾からガリガリの腕がすらりと覗く。7月だというのに日焼けしていない真っ白な肌。


大人っぽい女子だと思ってたけど、案外子供なんじゃねーの?なんて、ちょっとだけしていた緊張が解けていく。



「外、暑いだろうねー」


「そうだな」


右手で自分自身をあおぐ俺からも、共感の声が漏れる。



「夏だねー」


「おー」


時間帯のせいか、あんまり客のいないアイスクリーム屋。外側はガラス張りだから制服姿の俺と佐々木は外から丸見えだろうな。

ピンクのサンバイザーを付けた店員達が、俺等をチラ見しては何やらヒソヒソ話をしているのが見えた。


外に目を向ければ、ネクタイを締めたスーツ姿のサラリーマンの姿が目に入る。

昼下がりの夏。最も気温が上昇するの炎天下の中キツそうだな。


そう思っていたところで――



「海、行きたいなー」


クーラーのガンガンにきいた店内に、彼女の声が涼やかに響いた。




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