第3話 教室の中
「桜田くーん。何を見てるのかなぁ?」
田中が俺の目の前にしゃがみ込んでニヤニヤと口許を緩ませるから、心臓がドキリと飛び上がる。
「は?だ、誰も見てねぇよ」
「お前、あっちの女子見てただろ?」
「ばっ……」
田中のバカ野郎!!!
冗談はその立派な腹だけにしろよ。
窓際の女子グループに目を向けていた事実が当たっちゃってるだけに、自分の顔が熱を持っていくのが分かる。
しかも、俺等のやり取りが聞こえたのか数人の女子がこっちへとチラチラと視線を向けるから。
「マジで?どれ?」
「ちげーってば」
デレカシーゼロ、遠慮の無い田中の台詞に、ヤバいという思いで頭がいっぱいいっぱいになっていく。
「覗き見なんてやらしー」
「ばっ、ばーか!あんな成長未発達な女子見ても、全然面白くねぇし!」
結果、自分でも想像以上に大きくて裏返った声が出た。
「誰もお前らに興味ねぇよ」
「田中と桜田ってマジガキだよね」
クラスの女子達を怒らせるのは担任に怒鳴られるより恐ろしい。
一部の女子が冷ややかな目を向けられて、何やら悪口のネタにされるだろうと簡単に想像できる。
一度、一瞬だけ佐々木と目が合った気がしたけど、気まずさといたたまれなさもあり思いっきり顔をそらしてしまった。
***
「コウキ、お前さっきさー。佐々木の事 見てただろ?」
昼休み。
給食を早食いして、運動がてらに向かった体育館の中。タクヤがニヤニヤとして俺の前に立つ。
くっそー、田中といいタクヤまで。
厄介なのに気づかれちまったな。心の中で舌打ちをする。
タクヤとはガキの頃からの付き合いで、チビのくせにこういう勘だけは鋭い奴だ。
「はぁ?違うって」
「いやいやめっちゃ見てたから。ガン見で」
なんて、タクヤが人差し指で得意気にバスケットボールをくるくる回して見せる。
「み、見てねーよ」
なるべく平静を装いながら、タクヤから無理矢理ボールを奪い取って走り出した。
「あっ、嘘こけ!」
「お前こそカマかけんな」
「図星だからって怒るなって」
「ぜ、全然図星なんかじゃねーよ!」
なんなんだよ、俺って顔に出やすいのかな。
床にボールが弾むる音がリズムよく響く。
後ろから追いかけてくるタクヤから、逃げるようにゴールへと向うのに。
「確かに佐々木クラスで可愛い方だとは思うけどさー」
必死にドリブルに集中する俺に視線を向けて、タクヤは言葉を続けていく。
「でもさー、アイツこの間まで学校休んでたじゃん」
興味本意に、彼女の事を。
「コウキはさ、どう思ってんの?」
「べ、べつに俺は──」
「社会の倉田とデキてたってマジだと思う?」
クラスメートの女子が面白可笑しく話していた、あの噂話をペラペラと声に出した。
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