太陽の似合う男の子。

みかんの実

第1話 赤い髪の男の子。



小鳥のさえずりが聞こえる。

なんて爽やかな朝なんだろう。

私の額からは汗が光りこぼれ、遠くからチャイムの音がなりだした。


……もう間に合わない、そう思うとなんかどーでも良くなった。


私、沙奈、14歳。

最近、遅刻率上昇中の中学2年生。


家は学校が近いというわけじゃないのに……徒歩だし。

朝どうしても起きられない私は、今日も遅刻決定だ。

私がダラダラ歩いている、その時だった。

後ろから猛ダッシュのチャリが来たのは。

抜かされた瞬間に見えた顔は見覚えのある顔だった。


私は澄んだ朝の空気を吸い込んで叫んだ。


「とっくに、チャイムなってるよーー!!」


その自転車は次第に減速してUターンして来た。


「マジでぇ……」


そして彼はうなだれた。

こいつは同じクラスの問題児でもあり、私の遅刻仲間でもある。

名前は高根。あんまり話した事はないけど、この暑い中に歩くのも面倒臭いので乗っけて貰おう……。

そう私が頼む前に、彼が先に口を開いた。


「暑いし、海行きたくね?」


高根は無邪気な笑顔でそう言った。

彼の赤髪が日に透けて凄く綺麗で、学校をサボるワケはいかないと思ったけど、何となく頷いてしまった。


「ねぇ、海までどの位かかるの?」


自転車を走らせながら私が話しかける。

そして彼は答えた。


「ん~、忘れちった。でも、この道は海に続いてるんだぜ。ここをずっとずっと真っ直ぐ行くと海に出るんだ」

「えぇっ、そうなの?知らなかった……」

「……てゆうか、お前さ真面目なくせに遅刻よくするよなぁ。駄目じゃん、寝坊?」

「うん、なんか最近よく眠れなくて……」

「ふぅん……、あんま夜更かしすんじゃねーぞ」

「……ん?アンタこそ遅刻魔じゃん!!」

ぶっ、彼は吹き出してこう言った。


「おせーよ、気付くの!あはは面白れー奴」


1時間程、自転車をこぎ続けたくらいでやっと海が見えてきた。

今年はじめて見る海。

エメラルドグリーン色とまではいかないケド、凄く輝いて見えた。


海はまだ冷たかったが、その冷たさが何か気持ち良い。

潮のニオイも新鮮で、高根と2人きりというのも何かドキドキする。


彼の笑った顔と太陽はよく似合っていて、太陽はより眩しく見えた。


学校をサボった事なんか全く忘れて、制服もびしょびしょになって夢中で遊んだ。

時間も忘れて……。


帰りは夜になってしまった。

夏の日差しで制服はかろうじて乾いてはいたが、海のニオイが残っている。


そして、家の前で彼が笑って言った。


「じゃぁな、楽しかった!また行こうな!」


今日は疲れたし、よく眠れるかな?

頭から高根の無邪気な笑顔が離れない。

……眠れない。


海まで続く道、潮くさい制服、太陽が似合う赤髪の男の子、思い出したら胸がドキドキした。

明日の事を考えるとワクワクする。

だから、今日もよく眠れないだろう……。


今日は恋をした日──。



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