第2話 全力仲裁(物理)

 ケンカらしい雰囲気のところまで全力ダッシュ。


 探索者は助け合いでしょ? ダンジョン内で仲間割れとか死に直結するんだからね?


 本当、学校より命だよ。


「いつも足引っ張って迷惑だってわからないかな?」

「アンタがいるからアタシたちも伸びないの」

「ブラークの恥だから。ねえ、モク。ねえ」


「……ごめんなさい」


「聞こえないんだけどー?」


「ごめんなさ」


「ストーップ!」


 急ブレーキ。


 砂埃を払うとケンカしている子たちの顔がよく見える。


 赤髪、青髪、黄色髪の信号機トリオが前に。一方的に言われてたモクちゃんというウェーブがかった感じの茶髪ちゃんが後ろ。威圧的にアゴを上げて立っている3人とは対照的に、モクちゃんは怯えたように猫背だ。


 さて、こんな状況。どっちにつくかは決まっている。


 かわいい女の子の方だ。

 じゃなくて、少数の方だ。


「作戦会議って雰囲気じゃない。これ、いじめだよね?」


「なにアンタ。パーティの話し合いに邪魔しないでくれる?」


 かなり直接的な表現をしたつもりだけど、赤髪ロングのリーダーっぽい子は臆せず一歩踏み出してきた。


 何もなければ女の子探索者なんてお友だちになりたいところなのだけど、今は無理だ。


「まともな話し合いなら私も止めないよ? でも、あなたたちのこれは暴力だよね?」


「暴力ぅ? アタシたちは殴ってませんけど」


「へぇ。殴ってない」


 先ほど聞こえた音に、赤くはれたモクちゃんのほほ。


 どう見てもぶっているはずだが、どうやら、しらを切るつもりらしい。


「じゃあいいよ。口げんかってことにしておこう」


「勝手に決めないでもらえます? アタシたちは」


「はあ……、口げんかもよくないなぁ。ここがどこだかわかってやってるの?」


「ひっ……」


 つかつか歩み寄ってくる3人に笑顔で一歩歩み寄ると、3人は悲鳴をあげて後ずさった。

 人を化け物みたいに見るなんて、失礼な子たち。


「今、踏み出した足で魔石を粉砕した……?」

「き、気のせいでしょ。ここはたかがBランクよ? そんな化け物いないから」

「あ、アンタねぇ。アタシたち3人を相手に無事で帰れると思ってるの? アタシたちが誰だかわかって」


「知らないから、まずはお近づきの印に握手でも」


「いいいいいいたたたたったあ! ベキベキって。ベキベキ言ってる!」


 不自然に体を捻らせながら、縦ロールの黄色髪ちゃんは手を叩いてくる。


 おや、そんなに嬉しかったかな?


 離してあげると、肩で息をしながらその場に倒れ込んでしまった。


「じゃ、次にハグかな」


「まっ、速っ」


「どうして逃げるのぉ? 仲良くしようよぉ」


「やめて、さっきの……、ね、ボコって言ったから。人の体から聞こえちゃいけない音がしてるかあぁ」


 優しく抱きしめてあげると、青髪ツインテちゃんは嬉しすぎたのか私の腕の中で脱力してしまった。


「さて、あと1人。最後はキ」


「いやああああああああ!」


「あ」


 早業だった。


 私の投げキッスを受けただけで、赤髪ロングちゃんは直接触れる前にその場にひっくり返ってしまった。


「え、そういうスキル持ち? ヤギだか羊だかみたいな? いや待って! 仲間置いていかないで!」


 それに、ダンジョン内で悲鳴をあげるなんて、どこの誰にダンジョン探索を教わったのか聞きたいくらいだ。

 最近の探索者ならもう少し学校で教えてもらえるだろうに。


 っとと、いけないいけない。3人に友愛の大切さを教えて満足するところだった。


 もう1人、可憐な女の子、じゃなくって助けたい女の子がいるんだ。


 振り返ると、倒れた3人を順番に見ているモクちゃんの姿があった。


 小刻みに震えているのだろうけど、その度に揺れる髪が優雅な感じがして愛らしい。


「ケガはない?」


「へ、わたし助かっ……」


「危ない!」


 3人が倒れたことで安心したのか、モクちゃんの体からふっと力が抜けた。


 私が受け止めていなかったら受け身も取らずに倒れるところだったよ。


「大丈夫? モクちゃん? 大丈夫? モクちゃーん!」


 呼びかけても返事はない。


 気絶4名をこのまま放置とはいくまい。


 私はモクちゃんを背負い、3人を引きずりながらダンジョンを出た。

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