第33話どうしよう?釣りしよう

 麗しきルーラ姫は珍しい魔術師らしい。狩りではクロスボウなども使うが、補助魔術などでサポートが得意なのだとか。


 現在、魔術師としての技術を学ぶには王都の学院で学ぶか、どこかの魔術師に師事して教えを請う必要がある。


 僕?

 僕はほら、魔術じゃなくて魔法だから。

 魔法と魔術と違いとかあるのかどうかとかわかんないけど。


 そもそも、僕が掘った穴を固めてるのも魔法かどうかも知らないけど。転生する人と同じぐらい考えても仕方ない、仕方ない。

 えっ? 転生者? いるんじゃない?

 誰かの心の中にさ!


 彼女は王都で学び、この生まれた街に帰って来たらしい。トマシュとは幼馴染なのだとか。

 トマシュめ、なんと羨ましい!!


 羨ましいので、トマシュが手に持っていた釣り竿を奪って、むがーと雄叫びを上げる。

「可愛い幼馴染と冒険者生活だとぉ〜!」

「生活のためだからなぁー?」

 トマシュとルーラが組んだ方が効率が良いからだ、とか。


 繰り返しになるかもしれないが、冒険者とひとえに言っても魔物討伐や危険なダンジョンを探索する者だけを指す言葉ではない。


 街での魔術や技能を使った頼まれ事を請け負うのもまた冒険者ギルドが統括している。専門家の人材派遣みたいなものを冒険者と呼ぶのだ。


 ゆえに日々の生活のために専門性を磨き、その結果で冒険者と呼ばれる者も多い。


 だが、そういうことじゃない、ただ羨ましい!!


 そこでルーラはハッと思い出したようにトマシュに呼びかけた。

「トマシュ。私たちもギルドの方に来るように言われてるから行かないと。それで迎えに来たの」

「あー、そうなのか」

 そう言ってトマシュは困ったように僕を見る。


 見た目も子供、頭脳は天才のこの僕ではあるが、自他共に認める宿なし迷子である。それを放り出して行ってしまってよいのだろうかと迷っているのだろう。


 困っている子供を助けるのは普通、という社会ではない。悲しいかな、自らを犠牲にして孤児院を守ろうとした強欲ババアのような存在は少数派なのだ。


 経済も発展している王都でも、当たり前のようにスラムの中で子供だけの集団がいたりする。いや、王が代わりよりスラムは広がり、親のない子供が増えたと聞く。


 人の心は荒み、争いの爆弾はそこかしらで爆発している。悲しいけど、ここってそんな国なのよね。


 そんな中、出会ったばかりではあるが、なんだかんだでトマシュもいいヤツだ。


「気にすることはない。別れたる道はまた交わることもあろう。その日まで壮健なれ!」

「いや、おまえほんとに子供か……? ああ、うん、おまえは大丈夫そうだな……」


 なんだか諦めのため息を吐きつつも、最後は笑顔でトマシュとルーラは手を振ってくれた。

「またな!」

「またね!」


 うむうむ、と笑顔で彼らの姿が人波に見えなくなるまで手を振りかえした。

 そうして、彼らの姿は見えなくなった。


 彼らの姿が見えなくなって僕はふと気づく。


 あれ? 僕、することなくない?


 念のため、簡易な地理情報を収集できる冒険者ギルド併設の図書館を覗いて見るが、ひっきりなしに人が出入りしている。


 帰り道を探すために聞き込みをするにも街全体がザワザワとそれどころではない。


 そりゃそうだ、もうじき街がドラゴンに襲われて終わるかどうかの瀬戸際である。


 見も知らぬ子供の世話などしている暇はない。それよりも大切な家族を親類縁者を友人を、何より己を守らねばならぬのだ。

 僕だって、巨大怪獣ドラゴンが街に来たら孤児院の弟妹や強欲ババアを優先する。


 それを割って入って世話してくれとは流石に僕も言えない。トマシュとルーラが如何に人が良いかの証明ともいえた。


 ところで巨大怪獣ドラゴンが街に来るとか、結構なパワーワードだよね? 大自然の怒り? 新兵器スーパーZとか、この街にはあるんだろうか?


 しかし、僕ができることはなにもない。

 僕ができるのは自分が潜るための穴を掘ることだけ。


 なので、釣りをすることにした。


 いやいや、ふざけているわけではない。

 晩御飯である。

 ご飯を食べないといけないので釣りをするのだ。


 保存食はあるが地上にいるのだ、地上で食べられる物が食べたい。

 地下世界でも水場があれば魚もいるけどね。


 あと繰り返すが街がこんな状況だ。

 分け合う食事に余裕があるわけもない。


 早速、来た道をそのままポコポコと歩く。

 僕が釣れた場所まで行かなくとも、手前に川みたいなのがあったからそこに釣竿をペイっと。


 早速、ヒット!


 グググッと曲がる竿。

 この重さ、この曲がり、間違いない。

 ヌシだ!!


 ヤツと僕の激しい攻防。

 僕は慎重に竿と糸に神経を巡らせ、相手の動きを感じ取る。


 ヤツはその図体にあぐらをかいて動く気配はない。

 その油断がキサマの命取りだ。


 僕は糸が切れないように緩やかに確実にヤツを水面に引っ張り上げる。

 数分か、もしくは一瞬か。

 その時はついに訪れる。


 自ら引き上げられた茶色のヤツの姿!!

 それはもう丸々とした……車輪だった。


 そう、車輪が釣れた。

 なんでやねん!

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