第24話孤児院を手に入れる
ほどなくグルテンと細身で雰囲気のある長髪の男が、借金取りのおっちゃんに連れられてやって来た。
待っている間、僕はあまりの暇さにキャパティに曲芸を教え込むところだった。
「無理、無理! 坊ちゃん、お玉を額に乗せてお鍋とお椀とか無理!? 鍋の具、
言葉だけ聞くと、やましいことをしている気分になるじゃないか。
「なにやってんだ?」
雰囲気長髪男が眼光鋭く僕を睨む。
僕はおっちゃん兄ちゃんを見ながら、雰囲気長髪男を指差す。
「誰?」
「て、テメェ! アニキに向かって!」
おっちゃん兄ちゃんがコントのように反応するのを、アニキが軽く手で制する。
そのやりとりに僕は感動し、ファンの如くアニメに握手を求める。
「なるほど……、キミが『アニキ』か。噂は聞いている、会えて光栄だよ」
「ほほう? どんな噂を聞いているか、知らねぇがそう言われて悪い気はしねぇな」
アニキはどこか照れくさそうにしながら人相の悪い笑みを浮かべ握手に応えてくれた。
よく知っているとも。
どの物語でも彼の登場は必須と言って良い。
時に当て馬として、時に主人公のためのやられ役、様々なアニキたちが雑魚な三下と共に登場しては退場する。
茶番劇を演出するにはなくてはならない超有名人だ。
物語の世界を超えて、ここまで常連となる登場人物はそうは多くない。
まあ、アニキを名乗るこの細身長髪男のことは初めて知るけど。
感動する僕らにグルテンが慌てて駆け寄ってくる。
「ア、アウグ様……じゃねぇ、アウグ。こりゃ一体、どういうことだ?」
うん、もうアウグ様でもいいんじゃない?
そう呼ばれる理由は知らないけれど。
面倒になった僕はさっさと状況を説明する。
「孤児院をこの我が一族に伝わる勇者の剣で買い取って、シスターを嫁にする」
「アウグ様! ま、まさか、あの伝説の剣を城から持って逃げていたなんて!?」
「坊ちゃん、結婚するんですか!? いつのまに!」
「いつから嫁になるのが条件になったんだい……」
グルテンとキャパティは驚き、シスターは呆れ顔。
グルテンに至っては、城からとか言っていることは謎だし、しきりに剣とシスターを驚きの表情で見比べる。
「はいはい、いいからこの勇者の剣を鑑定しておくれ」
気を取り直して、グルテンと細身長髪男が本題の勇者の剣(偽)を検証する。
それから目を見開いて2人で何かを一言二言話したあと、グルテンが代表して僕に尋ねる。
「アウグ……、これはほんとに城から? い、いえ、とにかく! これなら孤児院どころかこの辺り一帯を買い取れちまう」
うんうん、と目を丸くして頷くアニキ。
仲良いね?
「そう? なら、その金で改築とその古くなった家具の交換してやってよ」
周辺買い取れるぐらいならそれでも余りそうだね。それなら、えーっと……。
どうしようかと辺りを見回すと、教会兼孤児院の影から子供達がこちらを見ている。
子供達の幾人かは包帯を巻いており、あの子たちの治療代にシスターはこの決断をしたのだなと、その気高き心に僕のハートはヒートアップ。
是非、僕の嫁に来てもらおう。奴隷の嫁とか酷い罰ゲームだけど。
よくよく見るとクラウスとエメ姉も一緒に顔を出している。クラウスも片手を怪我したのか、腕に包帯をぐるぐる巻きにし、エメ姉はなんだか涙目でこちらを見ている。
僕は大丈夫よーと示すように手をひらひらして見せる。
あれ? でもなんで2人ともこの孤児院にいるんだ?
奴隷解放宣言?
僕が地下に行っている間に、どこかのエライ人が奴隷解放宣言でも行ったのだろうか。
そのタイミングを逃した僕は唯一残った奴隷となってしまったのだろうか?
そして消えた強欲ババア。
隣にいる麗しきシスターを見る。
「……なんです?」
そして、シスターは僕の扱いが少しばかり雑ではなかろうか?
まあ、良い。
この件が終わればシスターも僕を見直し、『きゃー、アウグ様素敵ー! 結婚してー!』と称賛の嵐だろう。
それとも、初夜の儀において『クッ、貴方様に助けられましたが、そう簡単に心まで自分のものとできると思わないでくださいね!』とツンを見せられるのだろうか。
どちらも良い、どちらでも素敵だ!
成人前だから僕はまだ結婚できないけれど。
ふっ、僕はなんて罪な男だろう。
「……あんた。また、ろくでもないこと考えてるわね」
「シスター、流石です。私はもうこの坊ちゃんが考えていることがわかりません」
オカシイナァ、シスターからまた強欲ババアの声が聞こえたなー。
こうして僕は孤児院を手に入れた。
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