空騎士アロイスは競鳥において優勝する必要があった

プロ♡パラ

第1話

 賭ける側の人びとは、それを祈りの強さや気合の問題として捉えているのかもしれない。十分な強さで祈れば自分が賭けた大鳥が最後の直線でぐんとのびて大逆転するだとか、あるいは、賭けた大鳥が負けてすってんてんになったのはあの大鳥の乗り手の気合が足りなかったせいだとか、そのように考えているのだろう。

 しかし、賭けられる側──つまり、競鳥における大鳥の乗り手である空騎士は、そのようには考えない。発走から入着までの全ては、物体と力学の問題なのだ。(実際、空騎士たちの調練の課程において、高度物理学を修めることは重要視されている)

 大鳥を操るということは、乗騎の体格、筋量、体調と、空騎士の技能、体重からなる高次方程式にすぎず、持てる力に見合った結果しか得ることはできない。そこに、祈りや気合などという、形がないものが介在する余地はない。

 

 その年の年賀競鳥において、空騎士アロイスは優勝を強く願った。それさえ叶えば、他には何もいらないと思った。

 打ち破らなくてはいけない相手は、空騎士カミル。カミルはアロイスにとっては同僚でもあり、幼なじみでもあり、友人でもあった。そして友人であればこそ、アロイスはカミルに勝たなければならなかった。二人の実力はほぼ互角だが、わずかにカミルが優れており──逆にいえば、わずかであったとしてもカミルのほうが優れている以上、カミルの優勝に帰着するのは必然と思われた。

 アロイスには身を捨てる覚悟があった──もっとも、覚悟というものそれ自体は物理的には無意味なものであるが──同時に、彼には作戦があった。

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