第14話 イシキ不明
「……あ?」
朦朧とする意識の中で俺は光を見る。
それは段々と人のような形をとっていく。
俺…何してたんだっけ。
ああ、勇也とダンジョン攻略してて、その帰りに…
「勇也!?」
勇也は大丈夫だったのか!?
「ッくりしたァ!?」
少し上のほうで声がした。
「…は?」
顔を上げるとそこには、触手のようなものがあった。
「…おっと失礼。」
触手がどき、視界が晴れる。
そこには一糸まとわぬ女性がいた。
「…だれ?」
俺は状況に追いつけなくなる。
確かに俺は気絶していた。しかし展開が早すぎないか?肝心の勇也もいないし。ここどこだ?
ってか服着ろよ!?
「おぉおぉ、そんなに混乱しないでくれ。私はただある提案をしに来ただけだからな。」
「…?」
「分からないか…無理もないだろうな。」
目の前の女性は触手が運んできた布を羽織りながら気の毒そうに、といっても真顔で俺を見る。
「残念なことに…お前は死んだ。」
「は?」
は?
「…ど、どういうことです?か?」
混乱して上手くしゃべれない。
「そのまんまさ、お前はあの虫にやられて、死んだ。」
彼女はさらっと、何でもないことのように言ってのけた。
「まあ飲み込めなくても仕方がないだろうさ。そこまで落ち込まなくていい。」
「そのために私はお前の元に来たのだ。」
「…」
少しずつだが、整理できて来た。まず俺が死んだというのは事実なのだろう。なにせ体のどこもいたくないし、変な浮遊感さえある。
女性は宇宙のような瞳で俺の顔を見つめる。
「ふふっ…」
「ニンゲンというのは面白い者もいるのだな。」
微笑しながらそういう彼女には形容しがたい魔力があった。
「で、あなたは誰なんですか?」
現状を理解しようと俺はそう質問する。
「私か…そうだな…簡単に言うならば。」
「このダンジョンの創作者だ。」
は?
「うむ…やはり理解できぬか…」
「いや、理解とかそれ以前にダンジョンって作るものなのか!?」
俺は今までの常識が覆されるような発言にありえないとしか思えなかった。
「まあ理解できなくともそのうち否が応でも分かるさ。」
そんな意味深なことを言った彼女の背後には大量の触手があった。
「ッ…!?」
「おっと、お見苦しいものを見せてしまったね。」
彼女が軽く手を払うと、その触手達はどこかに消えた。
「さて、話を戻そうか。お前は生きたいか?」
深緑の髪を撫でながらそう質問。いや、選択を迫られる。
ここで断れば、自分はどうなるのだろう。
ひとかけらの好奇心を摘まみだし、答える。
「そりゃ生きたいに決まってるだろ。」
俺の返答を聞いた途端。退屈そうだった表情から笑顔がにじみ出てくる。
「そうか、そうか。ふふふっ。」
ニタアと笑いながら指を鳴らす。
背後から再度触手が出てくる。
「では、また会う時まで。
後半になるにつれ、突然靄がかかったようにうまく聞き取れなくなる。
触手が俺を包む。
真暗な空間。目をつむる。
「奏太ッ!」
聞きなれた声。
「……なんだ、夢か。」
目を開けると目の前には親友。そして俺はベッドの上。
ピッピッと規則的に音がする。横を見ると心電図がある。
「…うっうっ…よがっだああああ!!」
大の高校生が目の前で号泣している。
勇也のこういうところは兄譲りなのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えているとドアが開く。
「っまさか…本当に息を吹き返すとは。」
医者…か。その医者はありえないという顔で俺を見ている。
「あっ…」
プツンと糸が切れるように意識は落ちた。
♤♠♤
彼、蓮枯勇也は柳瀬奏太と軽く話した後、病院の屋上に上がっていた。
心なしか、顔も少々やつれている。
手に持った緑茶を飲みながら、彼は溜息を吐いた。
♤♤♠
魔石を砕いたところまでは覚えている。
そこからの記憶が少々混濁している。
「ステータス」
──────────
蓮枯 勇也
status ROLE<不死戦士>LV5
HP 535 MP280
STR100 DEX86 CON107 INT56
《魔法》
none
《スキル》
【マナガード】 【隠密】 【マーシャルアーツ】
〖回復力増加〗 【不死】 【狂気】
【未知なる接触】 〖精神暗示無効〗
──────────
我ながら大分強くなったと思う。おそらくだがあのでかいボスを倒した恩恵だとは思う。
知らない間にスキルも大量に獲得していた。
話を聞くに、魔石を砕いた後、おれがダンジョンを攻略したそうだ。
おれの攻略したダンジョンはB級に指定された。
世間ではA以上はあると騒がれているそうだが、なにせ攻略したことで消えてしまったため、探索者協会も正確に判断できないそうだ。
「ッ!」
頭が割れるほどの激痛を覚える。
何とかして記憶からひねり出そうとするとこうなる。
『ダメ』
頭に響く声、この声と共に頭痛は止む。
「はぁー」
しかし勿体ないことをした。
それこそ死線を超える戦いをしたのだ。
それを思い出せないというのはなかなかに酷だ。
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