穂垂の実り~白銀のイコㇿ外伝~
ねこぷりん(猫姫)
序章 桜の丘
春には満開の桜が咲き誇るこの丘からは、飫肥駅と、上方へと続く山間の線路が遠くまで見渡せた。秋の訪れとともに、紅葉が色づき、丘の斜面を覆う木々は赤や橙に染まり、風が吹くたびに、はらはらと舞い落ちる葉が
やがて、遠くから汽笛が響いた。明治時代の文明開花を象徴するような汽車の発車する音だ。低く長い音が山々にこだまし、静かな空気を震わせる。木々の合間から黒煙が立ち昇り、鉄の車輪が線路の上を滑るように進む振動が地面を伝わってくる。汽車はゆっくりと、そして確かに、遠ざかっていく。その後ろ姿は、燃えるような紅葉を背に、刻々と小さくなっていった。
葉を落とした秋の桜の木のそばに、一人の少女の影が佇んでいた。落ち葉の降る丘の上、細い肩をわずかに震わせながら、その汽車が視界から消えるまで、じっと見つめていた。その少し後ろには、1人の青年が立っていた。遠ざかる汽車と、佇む小さな少女、その両方を見つめるように、ただ静かにそこに立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます