第4話

電車がゆっくりと減速し、俺たちの降りる駅のアナウンスが流れた。


華乃はまだ俺の肩に寄りかかったまま、静かに寝息を立てている。


「……華乃、そろそろ降りるよ」


小さな声で呼びかけると、彼女はゆっくりとまぶたを開けた。少しぼんやりとした表情で俺を見上げる。


「……ん、もう駅?」


「うん、そろそろ降りないと」


華乃は少し伸びをして、軽くまばたきをした。寝起きの顔が妙に可愛くて、俺はなんとなく目をそらした。


電車の扉が開き、俺たちは静かにホームへ降りる。


「ちょっと寝ちゃってたね、私」


華乃が照れくさそうに笑う。


「まあ、俺の肩を枕にしてたけどな」


「えっ……ほんとに?」


彼女が驚いたように俺を見上げる。その表情があまりにも無防備で、俺は思わず笑ってしまった。


改札を抜け、外の空気に触れると、電車の中の温かさとは違う、夜のひんやりとした風が頬をかすめた。


俺たちは並んで歩き出す。


「……なんか、今日すごく落ち着く一日だったな」


華乃がふと呟く。


「そうだな。塾だったのに、不思議と疲れが抜けた気がする」


「ふふ、私もかも」


足音が静かな夜道に響く。街灯の明かりがふたりの影を並べて伸ばしていた。


この時間が、もう少しだけ続けばいいな——そう思いながら、俺は華乃の隣を歩き続けた。

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