泣き虫でも夢を与えていいですか?
くうき
第一部:たとえ、造花の心でも
1章:tear drop
プロローグ:孤独の花
宮城県仙台市のある下町。バスケットコートの半分を用いてストリートバスケが行われていた。
「やっぱエグすぎだろ、あの娘。」
「あぁ、異常だわ。此処に来た3年前からずっと無敗だ。しかも体格差なんて気にすることなく、シュートを正確無比に決めていきやがる。」
1on1をする少女に、周囲は注目する。彼女の動きは誰よりもシンプルな動きに見える。無駄を削ぎ落した、綺麗なフォームでトップスピードに乗っても、追い付かれる速度なのにだ。しかし、彼女は緩急を生かし、自身の強みでもある、シュート精度を武器に戦い続ける。結果、3年間負けなしになった。
身長は、ストバスをしている人の中で一番低いが、誰よりも技術があり、誰よりも手数があり、そして誰よりも才能がある。
「どうやって勝てばいいんだろうな、あの子に。」
「正直、3on3なら可能性はあるんだけどな。」
「ただ、あの子は拒否してるだろ?」
「まぁ、そりゃあな。あんなことがあったんだ。人間不信にもなるよ『魔王姫』も。」
「………」
「おっと、退散退散。」
「そうだな、お前明日シフトだろ?」
そんな雑音に彼女、
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(一花視点)
さようならは、いつも突然やって来る、生まれて数年は、父親を知らず父が戻って来たと同時に、母親が数年入院、そして大好きだった祖母が寿命で亡くなった。小学生になって。バスケを始めた。決して私は、上手い部類ではなかった。不器用だし、泣き虫でへたくそだった。
ただ、お姉ちゃんが一緒にいてくれたから、教えてくれたから。私は、自分のやりたいバスケットの欠片に触れることができた気がする。
でも、4年前、お姉ちゃんは突然いなくなった。朝起きたら、目の前で首つりのお姉ちゃんが発見された。なんと、私が眠った後に、首吊り自殺をしたらしい。血の気が引いた。何も考えられなくなった。数か月後、お姉ちゃんの部屋から遺書が見つかった。原因は、部活動そして学校でのいじめが原因であった。
正直、信じたくなかった。
目の前にいた標は突然散ってしまった。
どこに声を掛けても、独りになった。
チームという集団行動が協調性というものが分からなくなった。怖くなった。
でも、バスケは私が生きている存在意義だった。
ストリートバスケの人たちは、ほとんどが年上で男の人だった。厳つい人もたくさんいた。
でも、優しい人が多数だった。コミュニケーションを上手くできない私を受け入れてくれた。
試合をした沢山負けた。でもここ数年は無敗で突き抜けている。でも、成長痛が出始めていて、上手くプレーができなくなり始めてきてた。感覚が狂う。リズムが一拍早くなったり、遅くなったりと、歪みが生まれ始めた。
怖くてしょうがない。私は縋るものも、頼れるものも全部がここに詰まっているから。
「帰ろう。もうそろそろ、門限だ。」
電車にのり、北仙台で降りて、自転車を漕ぐ。家に帰って、ご飯を食べて宿題やって、お風呂に入って寝る。そんなことを繰り返して、学校に行って惰性を過ごす。
で、整体でマッサージを受けて、ストバスに行く。そんな単調な毎日に、飽き飽きしていた私は久しぶりに外れの公園で一人練習をしていた。そんな時だった。
「珍しい、こんな時間に先客とは。」
「………」
「って、無視かよ~。」
正直、構う必要はないと思った。そしてスクープシュートの練習で放ったボールを、そいつは弾いた。
「は?何してんの、邪魔しないでくれない??」
「そっちが、話を無視するのが悪いんでしょ?」
「ふ~ん、どうせへたくそな人に言われたくないわよ。」
「ほう、ずいぶんと自分のプレイングに自身が御有りで。」
イラっとする。随分とお茶らけた言い方で言ってくる、口軽い男にグーパンを出しそうになった。
「なら、勝負しようよ。1on1で。」
「へぇ、いいね。なら、ハンデをあげるけど?」
「そんなもの、無くてもいいわよ。先攻は私。20点先取ね。」
「了解。じゃあ、やろうか。君名前は?」
「名前を教えてもらう前に、教えなさいよ。」
「
「柏木一花よ。それじゃ、やりましょ。」
静かな雰囲気にボールが跳ねる音だけが寒い冬に響き渡る。私たち二人は、観客のいない中、勝負を始めた。
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(真壁視点)
なんだ、アイツ。バケモン過ぎるでしょ。試合の折り返しにまで行った。現在のスコアは、12対0。俺が0だ。体格差もある、スピードもテクニックも全部俺のほうが絶対に上なはずだ!!なのに、どうして。
「ねぇ、真壁。そんな呆けてると、負けるわよ?」
「ッチ!!」
「残念だな~。相手にもならないや。」
目の前で行われた所業に俺は、困った。フローターシュートを打った柏木。普通ミドルレンジで打つ、レイアップのシュート。それを、3Pラインで打ちやがった。しかも沈めた。ありえない。ありえなさすぎる。
そして、俺の攻撃。自分のリズムに乗せて抜き去ろうとしても、的確にスティールをされ、あっけなく攻守交代をされた。
彼女の攻撃となる。柏木は、ため息交じりに話し始めた。
「チェンジオブペースをやろうとしてるのは分かるのよ。腕の力を緩めた瞬間に急加速する。上手い人にありがちよね。無駄な動きなのよ。やるなら、こうするの。」
そう言って彼女は、俺の視界から消え去った。
「は??」
そして、ネットを潜る音だけ、耳に刺さった。頭が痛くなった。それと同時に怖くなった。俺が喧嘩を売った相手は怪物だった。そして、勝利に対する執着は、誰よりも凄い人だった。後3点分の勝負だ。俺は、どうすればいいんだ?
天狗になっていた。
触れてはいけない怪物を起こしてしまった。
全国大会は御遊びだと思ってた、でもホントだ。茶番だ。
こんなのを今相手にしている俺は、何を魅せられているだろうか?
俺の攻撃は、通用しないのか?正直分からない。異常に洗練され、無駄を全て省いた技術。そして、すぐさま俺の癖を見抜きオリジナルでやっていたチェンジオブペースをコピーされた。
そして、問題はシュートだ。確実に決めれる。これが一番ヤバい。特にフローターでスリーを決める人は初めて見た。正直、プロでもいない。もちろんNBAですら。
「ほらほら?攻撃しないの??」
柏木の一言に俺は、心が折れそうだ。
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(一花視点)
相手にならないな~。多分私と同じ学年くらいの男子。技術はある。スピードも私より早い。背も高い。羨ましいなと思った。それと同時にその身体を使いこなせていないことに苛立ちが募った。
「ねぇ、真壁。あんたは何でバスケやってるの?」
「は??いきなりなんだ?」
「聞いてる質問に答えなさいよ。」
突飛に質問をした。真壁は考えて、頭を掻き始める。そうして口を開いた。
「楽しいから。バスケって楽しいんだよ。チームでやって、戦略を立てて勝ちに行く。負けても、足りないものを教えてくれて、新しい一面や切込みを見つけ出してくれる。だからこそ楽しいんだよ。」
「そっか。じゃあ、君に言わせてもらうよ。私は今、失望した。」
ありきたりだった。私と同じような人だと思ったけど、そんなことは無かった。つまらない人だった。
簡単に3Pを沈めて私の勝ちを決定させた。つまらなかったなぁ~。
「それで、私が勝ったわけなんだけど、さっさと退いてくれない?」
「………」
「話聞いてるの?早く、帰りなよ。”芯のない人”。」
彼は、何も言い返さずに帰っていった。
つまらなかった。かつてないほどに。分かる訳もないけど。
「帰ろ。興ざめしたし。」
家に帰ることを決めた。理由はない。でも、正直今日はやる気が起きなかった。
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(翔輔視点)
「何も、できなかった。」
振り返れば振り返るほど、いやな光景だけがフラッシュバックする。自分の技に無駄があると指摘され、攻撃は一本もできずじまいだ。
「あの言葉、怖すぎんだろ。初めてだ。屈辱よりも悔しさよりも、恐怖が勝ったのは。」
目の奥底に広がっていたものが見えなかった。どうなっているんだろうか?つか、中学何処なんだ?あと、名字に引っ掛かりがあるんだよなぁ~。
スマホに電話番号を入力して応答するのを待ってみる。20秒経って、声が入る。
『おう、どした?サボり魔?』
「あぁ、すいません。腹痛で休んでました。」
『外にいる時点で嘘だろ。』
「………まぁ、良いじゃないですか。柏木コーチ。」
『俺は、言えることじゃないか。それでどしたの?お前から掛けて来るなんて珍しいな。』
「実は、ストバスに行って1on1したんすけど。完封されまして。」
『はぁ!?あの、中学No1プレイヤーのお前が完封??相手は?』
「柏木一花って、名乗ってましたけど。偶然コーチとおんなじ名字なんですよね。」
『………それ、マジ?』
「はい、マジです。おおマジ。ボッコボコにされた挙句、人格否定に近い発言もやられましたね。お前は”芯のない人間”だとか。」
『翔輔、今から学校これるか?』
「分かりました。20分後くらいには着くので。」
そう言った後、コーチは通話を切り上げた。俺は訳も分からず学校に行く羽目になった。
~仙壬大付属明光中~
「来たか、翔輔。」
「はい、来ましたよ。柏木コーチ。」
「それで何だがな………娘が悪いことをしたな。」
「あぁ~、やっぱりコーチの娘だったんですね。」
案の定コーチの娘だった。つか、似てないな~。こんな厳つい顔じゃなくて、もっとかわいらし………いやいや、何考えてるんだ?俺。
「おい、翔輔。」
「えっ!?なんすか??」
「娘はやらんぞ。」
「いやいやいや、錯乱したんですか?」
「………まぁ、いいか。翔輔、お前は一花が俺に教わったと思うか?バスケ。」
いきなり、何を言い出すかと思えば良く分からない質問をされた。ただ、疑問ではあった。柏木一花。彼女の動きは明らかにおかしかった。でも、洗練されていた。同世代……いや、上も下の世代であったとしてもトップだ。最強世代の牙城も軽々と崩せるくらいには上手かった。
「まぁ、普通に考えたら教わったんじゃないですか。親子なわけでしょ?」
「………まぁ、普通に考えたらねぇ。」
「違ったりするんですか?コーチ。」
「まぁ、半分外れかな。基礎的な部分は俺が教えた。ただな、5年前にある一件があって、うちの家族は家庭崩壊に近いんだよ。まるで冷戦下にある。」
「はい?何やったんすかコーチ。もしかして………不倫?」
「そんな訳ないだろ!今でも嫁一筋だ。俺と嫁の間は問題ない。ただ一花と俺たちの間はもう親子と呼んでいいかも怪しい。正直、無理だな。頑張っても。」
「何があったらそんなことが起きるんですか?」
俺の質問に、コーチは完全に言い淀んだ。この中学では、女子バスケ部がかつてあった。5年前に一つの事件が起きて、この中学の女子バスケ部は廃部となり、対象の女子生徒は、中学にも拘らず退学処分のような形で学校を転校した話がある。
その事件は中学生一名の自殺だった。名前はさすがに公表されていなかったが。
「まぁ、お前が知る理由は無い。」
「そうですか。なら、一つお願いがあります。柏木一花を部活動に入れさせないんですか?」
「………お前、何を言っているんだ??」
「ッ!?」
「どの口で、その言葉を発しやがった。」
コーチの言葉に威圧交じりの震えが混ざる。正直、試合の時よりも怖かった。鬼がいた。そして、親子だった。目のハイライトの消え方が全く同じだった。
「す、すいません。コーチ。」
「………いや、いい。俺の方もすまなかった。」
「そして、コーチに聞きたいことが一つ。高校で彼女をここに連れてくることは可能ですか?」
「………はっきり言うぞ。無理な相談だ。理由はたった一つ。うちの中学で廃部された女子バスケ部だ。」
「何故、そんな話が浮かぶんですか?」
「まぁ、お前知ってるんだろ?うちの女子バスケ部が廃部した原因を。つか、宮城の人のほとんどは知ってるか。」
「まぁ、そうですね。いじめによって自殺者が出たと。その年のうちの中学と高校の男女バスケ部は試合に出ることが出来なかった。」
「そうだ。そして、その自殺した女子生徒は………俺の娘だ。」
「………えっ!?」
は!?どういう事だ、コーチの娘が亡くなっている!?じゃあ、柏木一花は一体………
「俺の娘・・・もとい、
「………なんすか?それ。人がやった行いですか!?」
「残念ながら、世の中にはそんなことをして平然とした顔で生きる人間がいるんだよ。」
腸が煮えくり返りそうだった。一方で、何もできるわけがないと悟った。コーチの経歴を見た時疑問を抱いた部分があった。
「そういえば、コーチは女子バスケ部の監督だったそうですけどかつて。」
「あぁ、そうだよ。ただ、咲夜が入学する前に俺は一回この学校を離れているんだよ。その間だけ、日本代表のヘッドコーチをやっていたから。」
そう言えば、この人は良く分からないけど凄い人だ。ホントに良く分からないけど。
「脱線したな。一花が部活に入ることはほぼない、と思う。それに、アイツはこの高校は死んでも選ばんだろうな。たとえ、中学で最後の一年死に物狂いでやったとするだろ?正直アイツ一人で全国は余裕なんだよ。バランスブレイカーな訳よ。その上、俺はあいつにバスケをほぼ教えてない上に話なんて聞いてもらえない。アイツは俺と嫁さんを恨んでいる。正直無理だ。何かの気分を変えた時にだったらあるんじゃないか??」
「は、はぁ。そうですか。」
「期待してるところ、ホント悪いな……ん?すまん。着信来てたから少し出て来るな。」
「あぁ、はい。」
コーチが離席して、通話を始める。ただ、コーチの表情が芳しくは無かった。そこから数分話している間、コーチに笑顔は全く出ていなかった。
そうして、席に戻って来るや否や重々しく口を開いた。
「い、一花が。部活に……入る……らしい。」
「えっ??」
「あ、ありえないことが起きたぞ。真壁、俺は今、明日地球が滅ぶんじゃないかとひやひやしている。」
「………。」
世の中、何が起こるか分からないなと14歳でまた一つ思い知った。
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あとがき
久しぶりの新作となりました。(およそ半年ぶり)
正直、どういうジャンルで書こうとかを全く考えなかったんですが、スポーツと人間関係、家族の関係 いじめなど、思惑をたくさん巡らせるお話を書きたくて書きました。
是非、呼んでくれると嬉しいです。
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