第2話

「えっ、洋子さんのことを、好きか、ですか」

 おじさんに突然そんな問いかけをされて、僕はすっかりとまどってしまった。だってそうでしょう。普通、職場でそんなプライベートに踏み込んだ質問をしますか。しかもはるか年上のおじさんが。

 しかし、ただ好奇心で聞いているわけでもなさそうだ。おじさんの顔は真剣そのものだもの。

 それに「本当に」好きかってどういうこと? まるで好きなことは前提で、その真偽を問いただされているみたいだ。

 その時になって頭の悪い僕はようやく気がついた。


 そうじゃんか! 洋子さんことが好きだ、だからバイトしてるって、自分で言ったんじゃないか。それが巡り巡って本人に伝わったんだ。


 僕がまごついていると、おじさんは少し優しい口調になって言った。

「そうか、本当に好きなんだな」

「えっ、まあ、はい」

「べつに若いんだから、好きになったりするのはいいんだよ。でも、そいうことは周りに言うだけじゃなくて、本人にちゃんと伝えないと。洋子ちゃんも、君とどう接したらいいかわからなくて戸惑っていただろ」

「そ、そうですね」

「洋子ちゃん、鳥居の前で待っているって言っていたよ。今すぐ行ってあげな」

 おじさんに温かく送り出されて、僕は定食屋の裏口を出た。


 えっ、オレ、今から告白するの。


 僕は途方に暮れて、今まで生きてきた中でもっとも遅い速度で夜道を歩いていた。ナチュラルに三歩進んで二歩下がったりした。

 洋子さんのことは可愛いと思う。好きか嫌いかで言えば好きだ。つきあってみたいとも思う。逆につきあわない理由がどこにあるのだろう。

 決まっている。

 アルゼンチンの国立図書館。

 オレの異世界の扉。

 ここで洋子さんとつきあうことは、アルゼンチンの国立図書館を裏切ることになる。なぜか僕はそういう思いに取りつかれていた。

 もちろん、洋子さんとつきあって、その上でアルゼンチンの国立図書館に行くことはできる。でも、そこには偽りがある。アルゼンチンへの思いを、都合よく洋子さんへの思いにすり替えて、手に入るものは手に入れておけ、という打算。

 そんなこずるい計算をする男の前に、異世界への扉、マジックアイテムが出現することは決してないだろうという確信があった。


「ホルヘ君!」

 うつむいているところへ、聞きなれた声が飛び込んで来た。

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