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第26話
もう30分は経っただろうか。
モモと一緒に帰れることが嬉しすぎてあまりにも早く着きすぎてしまった。
日が暮れかかったくらいからここにいるのに、もう日は暮れて辺りは真っ暗になってしまっていて、そのせいか少しひんやりとしてきた。
肌寒さを感じ、まだ使うことない、とリュックの奥にしまっていた部活のウィンドブレーカーを取り出して羽織る。
ゾロゾロと他の生徒も下校し出す時間になった。
背が高く、ずっと校門の前で立ち続けているからか、何人かの生徒にジロジロと見られている。
だけど、モモと一緒に帰れるのなら、そんなの恥ずかしくもない。
「あ!不審者!」
いきなりそう叫ばれて誰かが体にぶつかってきた。
急すぎて声を出せずによろける。
「なんだ、ユナかよ」
そうため息混じりに言うと、テヘヘなんて笑って誤魔化したユナ。
「今日ついに誘ったんだね。モモのこと。」
「うん。でもどうしよう緊張してなに話したらいいかわからない。」
はあ、と力が抜けて地面に倒れてしまいそう。
モモを目の前にすると、いつも頭が真っ白になって息をするのが精一杯になる。
「頑張れ!健闘を祈る!」
そう言うと、俺の肩あたりをゴンっとかなりの力でグーパンチして走っていく。
「あ、ちょっと待って」
最後にアドバイスをもらおうと引き留めたのに、そんな声聞こえていない、といったようにそのまま走っていってしまった。
はあ、やっと誘えたのはいいものの、なにを話していいかわからない。
今日、初めてモモの体に触れてしまった。アクシデントだけど。
モモの体は華奢で、この小さな体でなぜ騎馬の上にずっと立っていられたのか不思議なくらいだった。
落ちそうになった時、咄嗟にモモを抱きしめてしまったあの瞬間がずっと頭の中でループされている。
過去一番近い距離でモモを見た。
まつ毛長いな…
いい匂いだったな…
体がふわふわで柔らか…
好きな子が相手なら当然の考えなのかもしれないけど、そんなことを考えてしまう自分が嫌になり、こんな考え消えてしまえとばかりに頭を振った。
それから程なくして、長い髪をポニーテールにした小柄なシルエットが見えて、胸がトクンと跳ねた。
もう遠く離れたところからも見つけられるようになっていた。
モモはいつもは髪を下ろしているが、部活や運動をする時だけポニーテールをする。
しかも、運動中だけという特別感も相まって破壊力がえげつない。
本当に可愛い。
なのに、その横にはイ・ハニもいた。
よりによって一番嫌なやつが。
今日モモが落ちた時、真っ先に駆け寄ってきたのはあいつだった。
しかもちゃっかりモモの肩に両手を置いて、よかったと安堵の息を漏らしながらその手に自分の頭を乗せていた。
その時の俺の感情は、腑が煮え繰り返りそうだった。
知ってる。これはただの嫉妬だ。
自分では絶対にできないことをいとも簡単にやってしまうイ・ハニが正直羨ましくて仕方がないのだ。
現に今も、二人は肩と肩が触れてしまいそうな距離で歩いている。
俺なら、まずモモ相手にそんな近くにいく勇気がない。
話す勇気もないくせに。
イ・ハニを見ているとモモを取られそうで不安で、なんであいつみたいにもっとこうできないんだ、と自分の行動とイ・ハニの行動を比べて、自己嫌悪に陥ってしまう。
そんな嫉妬を含んだ視線を陰ながら送っていると、モモがこちらに小走りで駆け寄ってきた。
モモを見た瞬間、さっきまでの黒い感情は消え、気分はパッと晴れやかになる。
その代わり、緊張という重りが先程よりも重くのしかかってくる。
モモがこちらに微笑みながら手を振っている。
寒さのせいか、小走りのせいか、色素の薄い頬が桃色に火照っている。
緊張で思うように動かせない手に神経を全集中させて手を振り返す。
やばい、俺、今ニヤけてないかな。
顔の表情筋をしっかりを引き締めるように一回咳払いをした。
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