第18話
そしていよいよ金曜日。
今までで一番近くでモモを見た。
それはそれは可愛かった。可愛すぎた。
店に入った瞬間にモモと速攻で目が合ってしまい、思わず逸らしてしまった。
急に目が合った衝撃で固まっていた俺の肩を押して、まだ心の準備ができていないのにも関わらず、モモの隣に腰掛ける。
はあ、どうしよう。
ずっと心臓がバクバクしていて痛い。
この音モモに聞こえていたらどうしよう。
少し緊張しているのか、目線を少しずらすと、俯き気味なモモの姿が見える。
はあ、このまま頭を撫でれたらどれだけ良いことか。
膝の上に置かれた可愛い小さな手を握ってあげたい。
・
「シン•ハジン、とカン•テグァン、だよね、?」
ハジンがモモに急に話しかけたかと思ったら、モモからそんな言葉が返ってきた。
モモって、俺の名前知ってたんだ。
嬉しさからニヤけるのを我慢するように口角を下げる。
でも、やっぱり無理だ。
モモが自分の名前を呼んでくれたのが嬉しすぎて、せっかく下げたはずの口角も上がってくる。
さっきから、やたらとハジンとモモがニヤニヤして見てくる。
でもモモの隣に座っているというだけで、そんなのは全然気にならない。
ハジンが俺が一番心配していた、イ•ハニと付き合っているのかということを突っ込んで聞いてくれた。
「違う違う、あれはたまたま時間が合っただけで…」
「じゃあ彼氏いない?」
「う、うん。」
その言葉を聞いた瞬間、安堵で涙が溢れそうになる。
と同時に、ハジンがニヤニヤして肩を突いてくる。
・
帰り道。
外が既に暗くなっていたのもあって、みんなでモモを家まで送っていくことに。
ハジンとユナが気を使ってくれてか、二人が先頭を歩き、その後ろから俺とモモが着いて行った。
俺よりも40cm小さいモモ。
その小柄な体型がすごく愛おしく感じてしまう。
モモのつむじが俺の胸ら辺。
もし今抱きしめたら…
なんて、できるわけないのに。
緊張とドキドキで何も考えられない。
できることなら今すぐにでもこの可愛いつむじにキスしたい。
こんなこと考えてるの知ったらやっぱり引かれるよな…
あの二人にもドン引かれそう。
でも実際のところ、俺達の間には一切会話がなかった。
距離を縮めるために何か話さないといけないのはわかってる。
だけど、いざとなると緊張で言葉が出てこない。
『それに、最近ハニ先輩がやたらとモモの近くにいるの。朝だって一緒に登校したりとか、部活の時も結構一緒にいるの見かけるし。もしかしたら狙ってる可能性あるから、そんなにモタモタしてる時間ないよ。』
ミーティングの時のユナの言葉を思い出す。
さっきイ•ハニと付き合ってないとは言っていたけど、明らかにイ•ハニはモモを狙っている。
だからこんな風にウジウジしている場合じゃない。
そんなことを考えていると、急に上を見上げてきたモモとバチっと目が合った。
考え事している時も無意識でモモのこと見てしまっていた。
身長差のせいで、自然と上目遣いになるモモが可愛い。
あの透き通るような瞳の中に少しでもあれが映ったことが嬉しい。
「…あのさ、モモって、テ、テニス部、だよね、?」
やばい!!!ついに自分の口からモモって呼べる日が来るなんて!!
だいぶ緊張してもたついちゃったけど!
頭の中は大パニックだけど、必死に平然を保つ。
「う、うん…」
どうしよう、本人と話しちゃってる!!!!
まともに顔が見れない…
「テ、テニス、上手だね。あ、いや、ずっと見てたわけじゃなくて、そ、その、たっ、たまたま見えただけ、で…」
どうしよう、部活中ずっと見てるのバレちゃったかな、
キモいとかドン引きされたらどうしよう…
「ふふっ、ありがとう。」
そう言って微笑んで、俺を見上げてきたモモ。
その瞬間に、言葉を失い、両耳に熱が集まる感覚がした。
あの笑顔が俺に向けられたなんて…
やばい、可愛すぎる。
モモの笑顔は俺が想像していたものを余裕で超えてくる破壊力だった。
「あ、耳、赤いけど、大丈夫、?」
そう言われた瞬間に、バッと両耳を押さえ、モモから背を向ける。
やばい、見られてたの恥ずかしすぎる。
もうこのまま死んでしまいたい。
本人目の前でこんなに赤くなるとかマジで無理。恥ずかしい。
「えっ、!だ、大丈夫?」
そして、そんな俺に追い打ちをかけるかのようにモモが顔を覗き込んでくる。
やめて!!!!
身体中の俺がそう叫ぶ。
そんな、わざわざ顔を覗くなんて可愛すぎることしないで。
近くに寄ってきたモモから甘くていい匂いがする。
その匂いは俺の心臓を更に加速させた。
「あ、や、な、なんでもないからっ、、大丈夫。」
かろうじて出せた声は情けないものだった。
また気まずい雰囲気が二人の間に流れる。
モモを見ると、二回目にぶつかった時と同じ、しょんぼりとした顔をしていた。
そうさせてしまった原因は全て俺にある。
今すぐにその華奢な体を抱きしめたいのに。
現実は抱きしめるどころか、まともに話せやしない。
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