第17話

その日の放課後、部活のミーティングのための教室の鍵を借りて、来た道を引き返していた時のこと。


俺はずっと今日の余韻に浸っていた。


もう会えないと思っていた相手に再会できるなんて。

そんな奇跡、この先の人生で起こることなんてあり得ないだろう。


田村モモ


名前まで可愛い。

こんな事を思ってしまう俺は、重症かもしれない。


初めて見たモモの笑顔は想像の何倍、何百倍も可愛かった。

あの顔を俺以外の誰にも見せたくない。


早く明日になってほしい。

でもその前に今日の夜にハジンから招集かかりそうだな、

そんなことを考えながら廊下を曲がった時。



ドンっ



「わっ、、」

「おっ、」


誰かとぶつかり、反射的に声が出てしまう。

あの声、誰か見なくてもわかる。


ずっと考えていた人を目の前にして、何を言えばいいのかわからなくなって声が出ない。


「す、すすすみませんっ!」


前と同じようにすぐに勢いよく頭を下げるモモ。

その反動で、モモの髪の毛からふわっといい香りがする。

モモにも聞こえてしまうんじゃないかというくらいに、心臓がドクドクと動いて止まろうとしない。


「あ、いや、別に…」


これが俺が言えた最大限の言葉だった。

これ以上は心臓が口から出てきそうだったから。

落ち着かせるために足早でその場を立ち去る。


すれ違った時、子犬のようにシュンと落ち込んだ表情のモモが目に入った。


そんな表情すらも可愛い。

今すぐにでも抱きしめてあげたい。

いつかそんな表情をした日は俺だけに守らせてほしい。







夜、いつもの共有スペースで三人で集まる。


「いやー、モモちゃんマジで可愛いな!お前が一目惚れした理由もわかったわ。」


「お前、今後一切モモのこと可愛いって言うな。」


「きゃーーーーこわーーーい」


ハジンがわざとらしく声を高くして叫ぶ。


「でも冗談抜きでマジで可愛いよね。最初アイドル来たと思ったもん。あれは一目惚れするしかないね。」


「今日なんかもうバスケ部で話題なってたよな、テグァン。日本から可愛い転校生が来たって。」


今日部活に行くともうすでに噂は広まっていた。

同じクラスで再会できて浮かれていたけど、そんな事をしている場合ではない、と現実を突きつけられたようだった。







それから毎日、無意識でモモを目で追ってしまっている。


朝も、授業中も、休み時間も、部活中だって、いつも気づけば俺の視界にはモモがいた。


「おーい、またガン見しちゃってるよー。」


そうハジンに言われるのも、もはや一つの流れになってしまった。


特に部活中。

いつも髪を下ろしているモモのポニーテールが見れる唯一の時間。

髪を下ろしているのももちろん可愛いけど、ポニーテールはその何百倍も可愛い。


だからこそ、男女混合のテニス部にいるのが心配で仕方がないのだ。

それに、そこには学校のアイドルとまで言われているイ•ハニがいる。


今すぐにでもモモを連れ出したい。

抱きしめたい。







「…どうしよう。最近めっちゃ目合うようになったもしかしたらバレてる、いや絶対キモいと思われてるどうしようもうこの世の終わりだ…」


いつもの場所に三人で集まった時に、机にダランと伏せながらそう漏らす。

集まった理由は、最近モモと目が合うようになってしまったこと。

ある日から突然モモと目が合うようになってしまった。

見つめ返すことができなくて、いつも反射的に目線を逸らすか、机に伏せてしまう。

こんなの絶対に怪しまれてるし、気持ち悪がられている。


「お前が気持ち悪いのは別に今に始まった話じゃないけど。」


ハジンにど正論を言われる。

そんなこと自分でもわかっている。


「もうバレたなら勢いでいこうよ!」


ユナの考えた作戦はこうだった。

まず、今週の金曜日にモモをトッポギを食べに行こうと誘う。

そして、そこへ時間をずらして、俺とハジンが偶然を装って店に入る。

それから俺とモモが隣に座って、距離を縮める、というものだった。


確かに、シンプルでいい作戦だ。

でも、見てるだけでも精一杯だったのに、いきなり隣に座って、会話なんてできるだろうか。


「それに、最近ハニ先輩がやたらとモモの近くにいるの。朝だって一緒に登校したりとか、部活の時も結構一緒にいるの見かけるし。もしかしたら狙ってる可能性あるから、そんなにモタモタしてる時間ないよ。」


ユナの言う通りだった。

モモが他の異性と話しているところを見たことがなかったから、少し安心していた部分もあったのかもしれない。

でも、あれだけ可愛いんだ。

現にバスケ部でも噂になってるし。

自分の考えの甘さを痛感するのと同時に、モモがイ•ハニと一緒にいる場面を想像して胸が苦しくなる。

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