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第16話

テグァンside



「はあーーーーーーーーーーーーーーーー」


モモがマンションに入って数秒後、今までの緊張が解けたのか一気に力が抜けて、その場にしゃがみ込む。


はあ、本当に、上手く息ができなくて死にそうだった。


「今日やっと喋れたじゃん!1ヶ月目にしてようやく!しかも二人でお喋りなんかしちゃってさ〜」


そう言いながら無理やり立たせるように俺の手を引っ張るハジン。

しかも今最高にニヤニヤしてやがる。

二人でお喋り、というか、お前一切ヘルプしてくれなかったじゃねえか。


「よかったじゃん、テグァン!いや〜、本当にもどかしすぎだよ。もっとグイグイ行かないと!」


そしてユナは興奮気味に肩をバシバシ叩いてくる。

痛い。


そして三人で今来た道を引き返す。

もちろん話題は俺のことしかない。








夏休み終盤


帰省から帰り、また学校がが始まることに憂鬱になっていた部活帰り。

実家に歯磨き粉を忘れて帰り、新しいのを買うために寮へ帰る途中にドラックストアに寄る。


無事歯磨き粉を買えた俺はまた寮へと向かって歩いていた。

帰省って最初の三日まではすごい楽しみでウキウキするのに、そこからは終わりがくるのが寂しくて、カウントダウンしてしまう。

もう実家に帰りたいかも。

なんてボーッと考えながら歩いていると、



ドンっ



ボーッと考え事をしながら歩いていたせいで誰かとぶつかってしまった。

小学校の頃からずっとバスケをやってきて、もちろんそれに比例するように一般的にみて高すぎる190cmまで成長した。

そのおかげで街を歩いていても比較的避けてもらえるから、今まで人にぶつかったことはなかった。


だから初めて人にぶつかってしまったことでびっくりして、咄嗟に下を向く。


そこには150cmくらいの小柄な女の子がいた。


「あ、す、すすすみませんっ!」


するとすごい勢いでその女の子が謝ってきた。


「…あ、大丈夫ですか?」


その勢いに圧倒されながらも言葉を返す。


「あ、あの、はい、大丈夫です。すみませんでした。」


女の子がそう言った時、長い髪の毛の間からその子の顔が見えた。

彼女の顔は夏の暑さからかピンク色に火照っていて、くりっとした目には今にも溢れそうな程の涙が溜まっていた。


その瞬間、時が止まり、体に雷のような電流が走った。




一目惚れだった。




長い黒髪、長いまつ毛、ツンととんがった鼻先、ピンク色に火照った頬に、ピンク色の唇。

夕焼けのオレンジ色が彼女を照らし、元々白い肌に透明感が増し、火照りを余計に目立たせる。

まるで彼女の引力に吸い寄せられるように、彼女から目を離すことができない。


彼女ほど美しい人は初めて見た。


そして、


俺がこの人を守りたい、


そう感じたのだ。


その後彼女は足早に立ち去ってしまい、連絡先を聞く事さえできなかった。

でももし聞く時間があったとしても、どちらにせよ自信がなくて聞けなかったと思う。


その後どうやって寮まで帰ったのかは覚えていない。

ただずっと、頭の中で彼女だけを思い浮かべていた。


ハジンとユナ曰く、俺はずっと上の空だったらしい。

それに勘づかれてからこの事を二人に打ち明け、それから寮の共有スペースで話し合うことが多くなった。





新学期。


奇跡だと思った。

教室の前に、あの時の、もう会えないかもしれないと思っていた彼女がいた。

よほど緊張しているのだろう。

小さな声は少し震えて、あの時と同じように頬がピンク色に染まっていた。


可愛い。


名前、モモって言うんだ。

まるで彼女の頬の色みたいで、可愛い名前。


そして運がいいことに、ユナの隣がモモだった。

ユナと話している時の笑顔、驚いている顔、全てが可愛くて、目が離せない。


後ろの席のハジンと話している時も、彼女の方ばかりを見てしまう。

ハジンの茶化している声も聞こえない。


「えー!こんなに可愛いのに!?それ男達目節穴すぎっ、」


急にユナの大きな声が聞こえたかと思ったら、急いだようにユナの口を塞ぐモモ。

あ、モモの手が、、

正直言って羨ましい。


嫉妬の目線を送っていると、ふとバチっとモモと目が合った。

その瞬間パニックになった俺は慌てて目線を逸らし、机に顔を伏せる。


「え、なに急に。」


だいぶハジンはビックリしてたみたいだけど。

どうしよう。キモいって思われてないかな。

今の一瞬で何か変なことも言ってないよな。

やっぱり、さっきのモモも可愛かったな。

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