第15話

「ご馳走様でしたー!」


「ご馳走様でした。」


トッポギを完食し、代金を払い終えた私たちは身支度を整えて店を出る準備をする。

てっきり割り勘だと思っていたが、モモのウェルカムパーティーも兼ねてる、といったユナの言葉によって三人が払ってくれることになった。

流石に申し訳ないと食い下がったが、最終的には皆んなに甘えることにした。


「モモちゃんも、また一緒においでね。」


おばちゃんがそう言いながら私の両肩をパンパンと叩く。


なんか、このおばちゃんは保健室の先生のような包容感と安心感がある。


「はい。また来ます。ご馳走様でした。」


最後に挨拶をしてからみんなで店を出た。




店を出た頃には19時過ぎで、最近日の暮れが早くなったせいで外は既に暗かった。


「モモって家どの辺り?」


「ここから10分くらいかな。」


「もう暗いし危ないから送っていくよ。」


ハジンの提案により、四人で家までの道を歩く。

といってもハジンとユナが二人で先頭に立って、私とテグァンが後ろを着いていくような感じだった。

そして曲がり道がある時にハジンが後ろを振り返って「これどっち〜?」と聞いてくる。


前からハジンとユナの楽しそうな声が聞こえてくる。

対照的に私たちの間には透明な壁があるように微妙な距離が空いていて、気まずい空気が流れっぱなしだった。


歩いている時もチラチラと上から視線を感じる。

ふとパッと見上げてみるとバチっと目が合う。


「っ、あ、ご、ごめっ、」


咄嗟のことで目を逸らされるよりも先に、言葉にならない言葉が出てくる。


「あ、い、いや…」


それにテグァンもなんだか気まずそうに言葉を返すだけだった。

どうしよう、気まず過ぎる。

何か話せる話題を作ろうと頭を必死にフル稼働させる。


「…あのさ、モモって、テ、テニス部、だよね、?」


びっくりした。

まさかテグァンの方から話しかけてくれるとは思わなかったから。

でも、それよりも、ずっと嫌われていると思っていた相手から話しかけて貰えたことで嬉しい感情の方が勝つ。


「う、うん…」


「テ、テニス、上手だね。あ、いや、ずっと見てたわけじゃなくて、そ、その、たっ、たまたま見えただ、で…」


あまりのテグァンの焦りように笑みが溢れる。

別にそんなことで怒ったりしないのに。


「ふふっ、ありがとう。」


そう言ってテグァンの方を見上げると、テグァンの耳は赤色に染まっていた。


今は夜になって肌寒さを感じるくらいで、耳が赤くなるほど寒い気温じゃないのに

もしかして、熱、とか?


「あ、耳、赤いけど、大丈夫、?」


そう聞いた瞬間に急に、バッと両手で両耳を押さえるテグァン。

そして顔を背けるように反対側を向いてしまった。


「えっ、!だ、大丈夫?」


駆け寄って顔を覗き込もうとするも、またも顔を背けられる。

どうしよう、次こそ本当に嫌われちゃったかも…


「あ、や、な、なんでもないからっ、、大丈夫。」


もうこれ以上何かして嫌われるのは嫌だから、もう何も言わないでおこう。


そこからまた私たちの間に気まずい重い空気が流れる。

さっきせっかく話しかけてくれたのに、私ってばなんであんなこと言ったんだろう。

もしあれを言ってなかったら、今頃ユナとハジンみたいに楽しく話せてたかもしれないのに。


一度考え始めたら止まらない性格から、悪い方向へ考えてしまって自己嫌悪に陥る。


「あ、あのさ、モモって、イ•ハニのこと好きなの、?」


急にそんなことを聞かれて驚きで一瞬声が出なくなる。

さっきもハジンにハニ先輩が彼氏なのかって聞かれたし。

どうしてみんなそんなにハニ先輩の名前ばかり出すんだろう。


「う、ううん。」


「じゃ、じゃあ、他にす、好きな人って、いたりする、?」


「う、ううん。いないよ。」


そう答えるとさっきよりは少し表情が明るくなったテグァン。

そんなに私の好きな人が気になるかな…









それから家まで、少しの気まずさは残るものの、最初と比べると確実に会話の量が増えた。

シンプルにそれが嬉しかった。


「みんな送ってくれてありがとう。」


「なーに言ってんの。女の子一人で帰すわけないじゃん。」


「そうだよモモー。こんなのお安い御用よ。」


「みんなありがとう。」


ユナとハジンの後ろに隠れるようにちょこんと立っているテグァン。

マンションの入り口の少し段差のあるところから見ているからか、190cmの高身長がちょこんと立っているのが、なんだか可愛く見えた。


「じゃあまた月曜日な。」


ハジンのその言葉でエントランスに入ろうとする。


「みんなも気をつけて帰ってね。おやすみ。」


ふとテグァンの方を見ると、ユナとハジンとは違って、控えめに小さく手を振っていた。

その仕草があまりにも身長と体格にあっていなくて、つい笑みが溢れてしまう。


そして目が合ったにも関わらず、この時は目を逸らされることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る