第13話

金曜日の放課後、トッポギが楽しみで仕方がない私たちは急いで部活から帰る準備をする。


「あ、ハニ先輩お疲れ様でーす。」

「お疲れ様です。」


帰り際にハニ先輩とすれ違う。

やばい、顔見ただけで思い出してしまう。


「なんか二人ともウキウキしてるね。」


「実はこの後トッポギ食べに行くんです🎶」


ユナがルンルンでハニ先輩の質問に答える。


「いいなー。僕も一緒に行っちゃおうかな〜。」


なんて言いながら俯きがちだった私の方を覗いてくる。

また近くに来られたことに戸惑ってしまって、言葉が出なくなる。


「なんて、冗談だよ。楽しんできてね。」


ずっと口をパクパクさせて金魚みたいだった私に微笑みながら、お疲れ様、と言って先輩は部室の方へ行ってしまった。

なんだったのあれ。

しかもなんで最近あんなに距離が近いんだろう。

無理だ、心臓がもたない。


まだジス先輩が私たちが一緒にいるところを見ていないのが幸いだ。


「ていうか最近なんであんなにハニ先輩と距離近いの?」


トッポギ屋さんに行く途中、聞かれるであろうと思っていた質問を案の定聞いてくるユナ。

こんなの、私が一番聞きたいことなのに。


「だって最近よく朝も一緒に登校してきてるじゃん。え、もしかして付き合ったとか?」


「い、いやいやいやなんでそうなるの!一緒に登校してるのは意図的なやつじゃなくて、いつもたまたま校門らへんで会うってだけで、」


「本当に〜?」


ニヤニヤした顔で近寄ってくるユナ。

本当に何もないのに。


「本当に。本当に何もないから。」


「それだったらいいんだけどね。ハニ先輩と何かあったってなったらもう危険すぎて気が気じゃないよ。しかもモモの彼氏になる人は私が一回審査しないとだからね。」


「なにそれ、お母さんみたい。」


ユナの過保護ぶりに思わず笑ってしまう。


「こんな可愛い子が自分の子だったら一生お嫁に行かさないけどな。」


なんて本人は腕を組んでドヤ顔で言ってるけど。

それがさらに私の笑いを加速させる。


「お母さんっていうよりか、お父さんみたい。」


「もうなんて可愛い子!絶対離しません!」


そう言ってバッと抱きついてくるユナ。

勢い余って倒れそうになるのをグッと耐える。

やっぱりユナってお父さん側なんだ。










「あら〜、ユナちゃんじゃないの!いらっしゃい!」


お店に入った瞬間、小柄で髪の毛の毛先の大きなパーマが印象的なおばちゃんが出迎えてくれる。


「久しぶりだね〜。あ、この子モモ。最近日本から引っ越してきたの。」


「ア、アニョハセヨ。」


そう言ってそのおばちゃんに向かって頭を下げる。

やっぱり初めて会う人に挨拶するのはまだまだ緊張する。


「モモちゃんね!すごい綺麗な顔してるわね〜。アイドルの練習生か何かやってるの?」


「あ、あの、いや、」


おばちゃんに緊張してうまく言葉が出てこない。

ユナに助け舟してもらおうと、横目でちらっとユナを見る。


「モモは何もやってないよ、おばちゃん。でも一般人とは思えないくらい可愛いよね、わかる。」


その私の視線に気づいたユナが私の代わりに言ってくれる。

でもやっぱりスタンスがお父さん、というかオタク。

こう言われた時に恥ずかしくてなんて言ったらいいのかわからなくて、結局黙ってしまう。


「あ、ごめんねずっと立ったままで。ささ、座って座って。」


そう言って席に案内してくれる。

店全体が暖かい空気に包まれていて、まるで家に帰った時のような、ほっこりした気分になる。


席に着くとお腹が空いていたこともあってか、メニューをかぶりつくように見る。

メニューにはいろんな種類のトッポギがあってどれもすごく美味しそう。

全部美味しそうに見えて、全部食べられそうな気がする空腹時特有の思考になる。


パラッとページを捲った時にふとチョコチーズボールが目に入る。

すごく美味しそう。


結局ユナのおすすめのトッポギ何種類かと、私がどうしても食べたくなったチョコチーズボールを頼んだ。




「はーい、おまちどうさま。」


そう言っておばちゃんと背が高いガッチリした男の人が運んできてくれた。


「あ、まだ紹介してなかったわね。この子、私の息子。」


「さあさあ、いっぱい食べて、スタミナつけろよ。」


どうやらおばちゃんの息子さんはキッチンで調理師として働いているらしい。

家族経営の店だから、家に帰ってきた時のようなほっこりした気分になるのかな、なんて思ったり。

すごくいいお店に出会えたな。

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