第8話

「ハニ先輩どうだった?かっこよかったでしょ?」


先輩が離れて行った瞬間にニヤニヤした顔で聞いてきたユナ。


「確かにかっこよかったよ。ドラマから出てきた人かと思っちゃった。」


「いやー、モモカチコチだったね。すっごい緊張してたじゃん。」


やっぱり、ユナもわかってたんだ。

恥ずかしくて顔から火が出そうだ。





それからテニスコートに移動して練習に入る。

この学校のテニスコートは学校の裏側で、バスケ部の屋外用コートの隣に位置していた。

2コートずつネットで仕切られており、男女で分かれて練習する仕組みになっていた。

そしてユナが言っていた通り、何十人もの女子生徒たちの固まりが柵の外から一斉にハニ先輩を見つめている。

中にはイ•ハニと書かれたうちわやタオル、Tシャツまで着ている生徒も少なくはなかった。


過去にテニスをやっていた経験からか特に難しいと思うような練習は無かった。


男子コートの方に視線を向けると、ちょうどハニ先輩がラリーをしているところだった。

チャンスボールが上がった瞬間にスパッと打ち返すハニ先輩。

打ち返す時の腕の反動でウェアーの裾が少し捲れて、ハニ先輩の綺麗に引き締まったお腹が露わになる。

綺麗だな、と思うと同時に柵の外からも黄色い歓声が上がる。


「わー、今のは腹チラだな。」


そう言いながらユナがこちらへ近づいてきた。


「すごい。なんでわかったの?」


「慣れだよ、慣れ。てかなんで答え知ってるの?さては見てたな?」


またニヤニヤした顔をして目線を逸らした私に近づいてくる。


「ち、違うから!たまたまだよ。」


もう一度目線を先輩に戻すと、タイミングが良いのか悪いのか、視線がぶつかりニコッと微笑まれ、慌てて目線を逸らす。

幸いなことにこのことはユナには気づかれていなかった。

もし見られていたら今頃イジり倒されていたに違いない。


するとハニ先輩の横の方から女の人が来て何か話しかけているようだった。

話している時も一時もハニ先輩のそばから離れようとしない、なんならずっと肩が触れ合ったままだった。

すごいなあ、こんなことがサラッとできるなんてかっこいい。


「あの人がジス先輩。ほら、前に言っためんどくさいテニス部の副部長。ちょっと話すだけでもあんなにベトベトしてんの。まじできもいよね。」


私の視線の先に気づいたのか、嫌そうな顔全開でそう言ったユナ。

確かに。さすがボスって感じの人だな。



そういえばさっきから隣のバスケ部の方でもなんだか人だかりができている。


「あれは多分カン•テグァン目当ての女子。なんかバスケ部のエースとか言われてて、それに顔も良いから2年になってから急に人気になっちゃって。ほら、私たち一緒のクラスだよ!」


「え、そうなの?知らなかった。」


「うそでしょ、190cmでガタイもいいし目立つからとっくに知ってると思ってた。」


そのカン•テグァンには申し訳ないけど、昨日は緊張してユナ以外周りのことなんて見えてなかったし、今日見ていたとしてもまだクラスメイトの顔と名前が一致しない。

そんな人が一緒のクラスだったんだ。

思い返してみるが、それっぽい人も思い出せなかった。


「ユナってそのカン•テグァンって人と仲良いの?」


「ん〜、どうなんだろう。寮も去年のクラスも一緒だったから結構話す方ではあるかも。」


ユナは人見知りしないし、誰とでも話せるの羨ましいな。

私なんて話すどころか、見てるだけでも緊張する勢いなのに。

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