第5話
今日初めて会って、初めて話したと思えないくらい私たちは意気投合して盛り上がった。
今日は新学期ということもあって授業はほとんどなく、毎回の授業で先生達に自己紹介をするだけで、後はほとんど自由時間だった。
一番初めの朝の自己紹介に比べれば、慣れもあるのか、まだ少し緊張はするが、焦って言葉に詰まることは無くなった。
「モモ〜、さっきの自己紹介、完璧だったよ!」
と言ってユナがグーサインを見せながら、席に座った私の方へ向けてきた。
初めに私が極度の人見知りであることをユナに伝えてから、毎回授業で自己紹介をする度に、すごくよかったよ、などと褒めてくれる。
そのおかげでいつもよりも緊張せずにできているのかもしれない。
ユナといると話の話題が尽きない。
しかもユナの話は面白いから、聞いていて飽きない。
ここ、セガン高校は、韓国で珍しい文武両道の学校で、全国から生徒が集まるため、学校の近くに寮が併設されていて、ユナもそこの寮に住んでいることや、スポーツエリートの生徒もいるため学食はメニューが豊富で美味しくて、それが一日の楽しみに毎日のメニューを書いたカレンダーを作っている生徒が多いこと、生徒全員部活動参加必須など、いろいろなことを教えてもらった。
「明日から部活始まるんだけど、モモはなんの部活入るか決めた?」
「小学校から中学校までテニスやってたから、テニス部にしようかなって思ってる。」
「マジで!私もテニス部だよ!」
なんという奇跡。
ユナも同じだったなんて。
「なんか私たちすごくない?今日会ったばかりなのに気が合いすぎて怖い。」
私がさっきまで思っていたことをユナが言ってきた。
「私も全く同じこと考えてた。」
そう言うと二人顔を合わせて笑い合う。
「はー、やばい。涙出てきた。」
そう言って目元を拭うユナ。
まさかこんなにいい友達ができるなんて、昨日の私が聞いたらびっくりするだろう。
朝の不安が嘘のように飛んでいき、今ではハッピーな気持ちで満ち溢れている。
「うちのテニス部の部長ね、超かっこいいんだよ。身長185cmのイケメンで、勉強もスポーツも完璧で、前回の模試ではどの進学校を抜いて全国一位だったの。前のテニスの大会でもさ、もう先輩のファンが応援にきて人数多し、歓声はうるさいしでもう大変だったんだよ。」
なんかすごい当たり前のように話してるけどさ、普通部活って男女別じゃないの?
「部活って男女別じゃないの?」
「部活も体育の授業も全部一緒だよ。日本では別々なの?」
「うん。男の子苦手だからちょっと不安だな。しかもイケメンだったら余計に緊張しちゃうし…」
そう。実は私は男の子が苦手だ。
別に過去に何かいじめられたとかそういうのではない。
ただ、話す時に緊張して、何を話したらいいのかわかなくなるという理由であまり男の子に関わってこなかった。
「意外すぎるんだけど!もう彼氏の二人や三人くらい余裕でいたことありそうとか思ってたわ。」
「い、いやいや何言ってんの。今まで彼氏なんていたことないし、なんなら初恋もまだっていうレベルなのに…」
今まで共学に通っていたけどほぼ女子と固まっていて、女子校と変わらないようなものだったし、小学校時代を思い返しても好きだった人の記憶もない。
「えー!こんなに可愛いのに!?それ男達目節穴すぎっ、」
ユナが急に目を見開いて大きな声で叫ぶものだから、すぐにユナの口を手で覆う。
それでも少し遅かったのか、あたりを見渡すと数人の生徒がこちらを向いていた。
その中の左斜め前にいた一人の男子と偶然バチっと目が合う。
すると慌てたような様子ですぐに目を逸らし、机に伏せてしまった。
「ちょっと急に何。」
ユナの口を覆ったままだった私の手をどかしながら、口を尖らせてわざとらしく不機嫌そうにするユナ。
「ちょっとユナ声大きいよ。恥ずかしいんだからやめてよ。」
「なんだそんなことだったのか。」
「まあ、その先輩は優しいから大丈夫だよ。あ、あとね、副部長は女子の先輩なんだけど、その先輩は気をつけて。部長のファンクラブの会長的な人なんだけど、もう超めんどくさくて、今まで何人か部長に近づこうとした女の子達をいじめて近づかせないようにしたって噂結構聞くから。」
そんなドラマみたいな話、本当にあったんだ。
そんな部活でうまくやっていけるのか、もう今から不安に駆られる。
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