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第4話

お父さんが運転する車の中。

なんとなく気分で座った後部座席から、緊張で吐きそうな気分を紛らわすように学校までの街並みを眺める。


学校が近づいてくるにつれて、私と一緒の制服を来た生徒たちが多くなってくる。

そしてそれに比例するかのように私の心臓もドクドクと大きな音を立てた。


ふぅ、と深呼吸をしてみるがあまり効果はなかった。


「モモの韓国語は上手だよ。だからそんなに緊張しないで、リラックスしな。」


口数の少ない私に気づいたのか、お父さんか優しい声で言葉を掛けてくれた。

その優しさから、登校前にも関わらず、涙が出てきてしまいそうになる。




「それじゃあ、頑張ってな、モモ。お父さんもこれから初出勤だよ。いやー、モモの緊張が移ってきたな。」


学校の正門から少しずれて、人通りがそこまで多くないところに車と止めたお父さんが私の方に振り返って笑いながらそう言った。


「ありがとう。お父さんこそ仕事頑張ってね。」


「おう、ありがとな。」


そう挨拶をして車を出る。


お父さんが車の中で和ましてくれたおかげか、少し心が楽だった。





いよいよ始まるんだ。

引っ越しが決まってから今日まで一瞬だったな。

過去のことを振り返りながら、これからの時を過ごす学校へ足を踏み入れた。








「に、日本から引っ越してきた田村モモです。よ、よろしくお願いしますっ、、」


教卓の前に立って自己紹介をする。

もうすでに両手は手汗で濡れていて、あまりの緊張で声がか細く、言葉がもたついてしまい、そのせいで両手だけでなく、背中からも冷たい汗が流れていくのがわかった。


そもそもこの学校に転校してくる生徒が少なく転校生は珍しい存在らしく、この話を聞いたからか、心なしか教室中の生徒から好奇の目を向けられている気がする。

そしてそれは私をさらに緊張させた。


「席はあそこだから。」


先生が教室の窓際の一番後ろのポツンと開いた席を指差す。


「あ、はい。」


窓際の一番後ろの席。

あまり誰からも見られない最高の席。

内心ホッとしたのは言うまでもない。

もし私の席がクラスのど真ん中の席だったりしたら、それに慣れるのには最低でも1ヶ月はかかっていただろう。


緊張で顔を上げることができずに、俯き気味で席まで移動する。


うっ、


教室中からの視線がまだ私に向けられているような気がする。

少し、いや、だいぶ気まずい思いで席に着く。









「ねね、私ユナ!モモ、だよね。よろしく!」


席について一息ついた後、隣の席の女の子がくるっと私の方を向いてそう言った。


う、嘘だ…

話しかけてくれた…

まさかの展開で嬉しすぎて、なんだかその子がキラキラして見えてきた。


「うんっ!よろしくっ!」


話しかけてもらえた喜びから思わず大きい声が出てしまった。

あ、やばい。引かれたかも。

ふとユナの方へ目を向けると、ユナは一瞬驚いた表情をしたが、その後に


「そんな大きい声出るんだね。」


と笑ってくれた。


ひとまず引かれてないようで安心だ。


「今日の朝から日本から転校生が来るって、その話で持ちきりだったの。ほら、この学校に転校してくる人なんて少ないから余計に。だからどんな子なんだろうと思って楽しみにしてたらすっごい可愛い子が入ってきたからびっくりしたよ!」


と聞いてなんだかこそばゆい気持ちになる。


「私日本語の授業取ってるからちょっとだけ日本語わかるよ。えーと、アリガト、ゴザイマスと、イタダキマス、、?」


「すごい!めっちゃ上手だね。」


日本とは違って第二外国語の授業がある韓国。

日本語の授業をとってる生徒は多いって聞いてたけど、実際に日本語まで話してくれるのはすごく嬉しい。





不安と憂鬱で始まった私の新しい学校生活はたった30分程度で幕を閉じ、ユナが楽しい、明るいものにしてくれた。

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