第2話
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「実はな、8月から韓国に転勤になった。だから家族みんなで韓国に引っ越そうと思う。」
高校2年生の6月のもうすぐ一学期期末テストのテスト期間に入ろうとしている頃。
田村家初の家族会議でお父さんの面持ちはありがちな神妙さではなく、何処となく新生活にワクワクが抑えきれない子供を彷彿とさせた。
「あ、家とか車とかは会社が手配してくれるから心配しなくて大丈夫だぞ。写真見せてもらったけどな、綺麗で結構広くて良さげな部屋だったよ。しかもちゃんと駐車場完備で。あ、そういえば左ハンドルにも慣れないとだな。」
え、いやまって。まだ誰も行くなんて言ってないし、なんで目キラキラさせて、左ハンドルにも慣れないとだな、とか言っちゃってんの。
もう行く前提で話してるじゃん。
やっと新しいクラスで友達もできて慣れてきた頃だったのに。こんなのありえない。
「韓国だって!私若い頃に行ったのが最後でもう一回行きたかったのよ!」
え、なんでお母さんもそんなに乗り気なの?
「ほら、モモもずっと韓国行きたいって言ってただろう?遂に念願の韓国だぞ〜。しかも旅行じゃなくて住めるんだからな!」
お父さんも本気で言ってるの?私が反対するとかは考えられてないの?
「いやいやいやいや、ちょっと待って。私まだ行くって言ってない。それにやっとクラスで友達できてきたのに行きたくないよ。」
そういうと一瞬シュンと落ち込んだ表情になるお父さん。
ちょっと言い過ぎちゃったかも。
「そうか、そうだったか。ごめんな、モモ。お父さんな、みんな韓国行きたいって言ってたし喜んでもらえると思って即答OKしちゃったよ。」
そう言い終えるとわざとらしくテヘペロってやってきたお父さん。
「えーーーーーもうなにやってんの。そういうのって大体一回家に持ち帰って話し合ってからOKするのが普通じゃないの!?」
「まあまあ、モモ落ち着いて。お父さんちょっと抜けてるとこあるから。」
いやこれって抜けてる抜けてないの問題じゃない気が…
ということで、最初から拒否権なんてなかった私は強制的に韓国への引っ越しと転校が決まった。
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「そういえば、引っ越す家の近くに韓国では珍しいスポーツに力を入れてる学校があるんだって。えー、確かセガン高校って言ったけな。」
「良いじゃない!ちょうど小学校からテニスやってたんだし。その大会で出会った他校の男の子とフォーリンラブ♡なんてことあったりして。」
「ちょっとやめてよ、お母さん。」
うちのお母さんは考え方が若いし乙女だ。
昔テニスをやっていたというお母さんの影響で小学校から高校に入るまでテニスを続けていた。
今でもたまに打ったりするが頻度は格段に下がっていて腕も落ちてきていたので、またできるのは嬉しかった。
そして何より、あの有名な韓国の勉強競争についていける気がしなかったから、スポーツ系の学校にいけるのは自分にとってすごく良かった。
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お父さんの会社が手配してくれたのは新築のマンションで、綺麗で広々としていて、駅からも学校からも近くて、とても良いところだった。
自分の荷物が入ったダンボールを自分の部屋へ運び入れていく。
そしてひと段落ついた後、窓の外の景色を眺める。
5階からは、自分の家よりも低い建物があったり、高い建物があったり、あそこにコンビニがあるんだ、あそこにはスーパーらしきもの、奥の方には高速道路など、立地が良いおかげで街をある程度は見渡せた。
最初は反対だった私だけど、こんなところに住めるんだったら引っ越して良かったかも、なんて思ったりして。
部屋の真ん中でまだなにも敷いていない床に大の字で寝転がって天井を見上げる。
床のひんやりとした冷たさがTシャツ越しに伝わってきて気持ち良い。
そのまま目を瞑って部屋の静けさに身を預ける。
そして次に目を開けた時には30分が過ぎていた。
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韓国へ来てからもずっと勉強の毎日だった。
やっと念願の韓国に来れてすごく喜んでいたお母さんは、持ち前のコミュニケーションの能力でご近所さん、スーパーの店員さん、お肉屋さんの店主さんなど、顔見知りがどんどん増えていっていた。
なので一緒にスーパーへ買い出しに行った時に立ち止まって世間話をすることも少なくなかった。
はあ、私にもお母さんみたいな社交性があったらなあ、、
一方のお父さんは、テストを受けるだけで日本の運転免許を韓国のものに変えられたらしく、初めての左ハンドルでテンションが上がっているのか、頻繁にドライブに出掛けていた。
「これからは毎日学校まで送っていってやるからな。」
なんてドヤ顔で言ってきた。
はあ、私なんてひたすら家と図書館の往復しかしてないっていうのに。
2人とも私よりも充実していて羨ましい。
まあ街に出るなんてまだ怖くてできないんだけどね。
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