2021年
2021年1月1日。「彼」は正月ということもあり、のんびりとコタツに潜りながらTwitterを眺めていた。すると、ボリスのツイートが流れてきた。
4か月ほど前に初めてボリスを見て以降、久し振りにみたこともあり、ふとボリスのプロフィールに飛んでみた。すると驚いたことに、数々のツイートのいいねがとても多いではないか。それにリプ欄を見てみると、他のなりきりも何人かいて、とても賑やかで楽しそうだ。自分は元々ポルトガルが好きだったし、この際便乗して仲間に入ろう。幸いポルトガルは大統領も国自体もネタが豊富だ。
こうしてその日のうちに「彼」はポルトガルの大統領、マルセロ・レベロ・デ・ソウザのなりきりアカウントを作成し、さっそくよろしくとツイートをした。すると即座にボリスから引用リツイートされ、なりきり達や他の多くの人からフォローされ、1日が経過するころにはフォロワーが100人を超えた。
ソウザはこれを見てモチベーションを上げ、面白そうなネタを見つけてはツイートし、1週間経つころにはフォロワーが400人となっていた。
このころソウザは「国連」なる、首脳なりきりが集うグループに参加した。金正恩がミサイルを発射する旨の発言をしたり、習近平がいろいろ不謹慎なことを言ったりするこのグループに参加したソウザは、一言「カオス」と感想を漏らした。しかしこのカオスは良いカオスだ、みな楽しそうにウキウキしている。
ソウザも「ブラジル併合しちゃうぞ」などと、このグループの輪にすぐに溶け込んでいった。
首脳なりきりアカウントの総数はまもなく20に達するとみられ、そのうち10近くはアクティブであった。まだ当時ははっきりと名前が決まっているわけでは無かったが、みなが「ひとつの界隈」としての意識を、朧げながらも持ち始めた。みんな勢いがあり、前途は開かれ明るかった。
「にぎやかになったね」とボリス。「TwitterG7の時より賑やかになるなんじゃないか?」とロシア。当時を知るなりきり達は多くが音信不通となってしまっていたが、それでも多くの新たななりきり達を迎え、未来は希望に満ちていた。
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元々「彼」は、同性愛者向けの映像作品である「真夏の夜の淫夢」をネタにして仲間うちで盛り上がる、いわゆる「ホモガキ」の一人であった。だから「彼」は、2020年5月に淫夢ネタで盛り上がって架空人物の名前を使って選挙を行う「日本淫主主義国」、日淫という界隈が形成された時は、一も二もなく参加した。「彼」はイク原彰晃を名乗り、淫理党を結成し、仲間うちのネタ選挙で見事当選を果たした。
日淫においてイク原は多数当選を重ね、仲間うちからの信頼も厚くなり、やがて文部科学大臣なる役職を任せられるまでになった。
そんな中、2021年1月9日、イク原はふとタイムラインにソウザのツイートが流れてくるのを見た。このような斬新なアカウントがあったのか。感銘を受けた彼は、かつてポルトガルの植民地となっていたこともあるマカオの、初代行政長官であるエドモンドホーのなりきりアカウントを開設した。
最初の挨拶のツイートは即座にソウザによって引用リツイートされ、それを見たボリスがさらにホーをリツイートし、彼もまたフォロワーが順調に伸び、なりきり界隈の仲間入りを果たした。
この時はまだ、わずか数か月後にホーとモン安倍が引き起こす数々の出来事は、まだ誰も想像すらしていなかったのである。
なりきり界隈記 大暮楼蓮 @wargrave_justice
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