鍋と星座の地図

忌みが亡い

第1話

占いで生計を立てている。立てているといっても、裕福な暮らしなんて全くできていない。その日食べる分のパンが買えるくらいで、料理屋に行くほど儲かる日なんて年に数回あるかないかだ。


ある日、おかしな客がきた。だいたい私の客というのはその辺の奥さんだとか、ちょっと恋に落ちそうな村娘だとか、酔っぱらった兵士だとか、そんなところだ。なのにそいつは、ここらでは滅多に見ないカラス色のローブを身に纏って、頭まですっぽりとフードを被っていた。いかにもあやしげ。こんなことを言った。


「サマランの香のかおり……ここらでちゃんと魔力を使って占いをしているのはあなたくらいのようですね。どうか、『鍋と星座の地図』がこの国のどこにあるのかを示してもらえませんか」


「鍋と星座の地図」? 聞いたこともなかった。でもね、占い師に焦りはご法度。何を言われても堂々とやらないと、すぐに悪いうわさが広まって、パンすら買えなくなってしまう。


「ああ、『鍋と星座の地図』の場所ですね、情報の記された探し物となると料金表のこの探索Ⅲ種に該当するので少し値が張りますよ」


「いくらでも構いませんよ、むしろこんな安値で『鍋と星座の地図』が見つかるなら儲けものです」


「金払いのよいお客様は大歓迎ですよ。……あなた、かなり長い期間そちらを探していらっしゃる」


「ええ、そうなんです。かれこれ20年以上は探しているんです……ようやく3年前にこの国にあることを絞れたのです」


「ではナルタスの神に尋ねてみましょう」


パルラルッススの珠に魔力を込める。この国では魔力を占いに全振りする者はあまりおらず、それゆえになんとか生計を立てていられるというわけだ。インチキ占いをする同業者も多くいる。にしても、なかなか魔力振りを見抜ける者はいないはず。どうしてこのカラス色のフードは見抜けたのか……


パルラルッススの珠に結果が出力されはじめた。魔力を込めるとパルラルッススに含まれる半固体の結晶部分が珠の中に遊離して映像が出るという仕組みである。その映像は魔力を込めたものの目にしか映らないので、魔力を占いに全振りしていなくても占い師を名乗れてしまうわけだ。込めたものの魔力の質や量に応じて、出力される映像の様子も異なり、私の場合でいうと、ひどく抽象的なセピア色の地図に血のような鮮やかなポイントが明滅するようなイメージだ。だが、これは……


「この……店……?」


「こちらのお店に……やはりそうでしたか」


「え? 『やはり?』」


「『鍋と星座の地図』、それはあなたのことなのです」


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鍋と星座の地図 忌みが亡い @makenosensei

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