【浮気】明日の初夜のその前に

山親爺大将

第1話 夜遅くに愚痴らせて

 スマホの通知音がした。

 こんな遅くに誰だろう?


 通知相手を見る。


『今いい?』のメッセージ。


 あれ? 加奈子じゃん。


『どうしたの? 関係止めるんじゃなかった?』

 加奈子とはお互い身体だけの関係と割り切った付き合いをしていた。


 俺は特定の彼女を作らないで楽しみたいタイプだったし、加奈子は彼氏と結婚を前提としたお付き合いになったとの事で関係を止める事にした相手だ。


『うんそれなんだけど、喧嘩しちゃって』

『喧嘩って、明日結婚式じゃなかった?』

『うん、そうなんだけど』


『最後に会いたいって事?』

『そんな感じ』


『じゃあ、いつもの場所に行くよ』


 郊外に24hの大きめのスーパーがある。

 駐車場が大きくて夜中でもフリーで車を止めても特に何も言われないのでここを良く待ち合わせ場所に使ってた。


 彼女の車が隣に止まった。

 自分の車を降りた彼女が、俺の車の助手席に座る。


「久しぶり」

「うん、ごめんねこんな時間に」


「する事するし、したいから来たんだから、気にしなくて大丈夫」

「そっか、ごめんね」


「前にも言ったけど、『ごめんね』って言われたくないかな、それより『ありがとう』って言って欲しい」

「あ、ごめんね……じゃ無くてありがとう」


 思わず、プッて吹き出す。


「その性格だけは変わらないね」

「うん、ごめ……ダメだね、つい言っちゃう、口癖になってる」


 運転しながらたわいもない事を話していつものラブホに入る。


 ー シャワーを浴びるその前に ー


「で、突然どうしたんだ? あれか、マリッジブルーってやつ?」


「多分そう。 もう、何にも結婚式の準備手伝ってくれなくて、全部私と友人だけでやっててさ、旦那の友人とも私が連絡取ってるんだよね、信じられる?」


「キツイねぇ」

「これだけは絶対やってっていう奴もまだやってなくて」


「それって間に合うの?」

「本当は今日までにしないとダメ! でもやってないって言うから明日の朝までにお願いして、なのにさっき聞いたらまだやってないって言うし」


「それで頭きて俺と会ったんだ」

「うん」


「そういえば結婚っていうか、籍入れてからの不貞行為って罪になるんじゃ無かったっけ?」

「大丈夫、色々あってまだ婚姻届出せてないから」


「そういうもんなの?」

「普通はあり得ない。 それも喧嘩した理由の一つ」


「なるほどねぇ、それで、シャワー先に入る? 一緒に入る?」

「うーん……」


「今日はそっちじゃなくて、こっち使おうか?」

 そっち(ベッド)を指差した後にこっち(ソファ)を指差す。


「え? どういう事?」


「色々愚痴聞いたけどさ、なんだかノロケもいっぱい入ってたし、その気になれないなら、今日はこっちで話だけして帰らない?」

「え……でも、それじゃあ、わざわざ来てもらったのに悪いし……」


「ちょっと語って良い?」

「うん」


「俺はさ、下半身に節操が無いとか、俺の三大欲求は性欲と情欲と色欲とかさ、スケベの権化みたいな事言われるじゃん」

「そうだね」

 彼女も思わずクスッと笑いが溢れる。


「でもね、いちおーポリシーみたいなもんがあってね! 俺はエッチな事した相手に嫌な思い出として心に残りたくないの」

「ん?」


「俺としたエッチは気持ちよくて、楽しいものでありたいのさ!」

「なるほど」


「今、君とすると君の心の中には俺は後悔として残っちゃうでしょ?」

「……ごめんなさい」

 彼女は俺の言いたい事を察したようだ。


「ほらぁ、こういう時はごめんじゃなくて?」

「……ありがとう」

 一筋の涙と共に感謝の言葉が漏れた。


「……もしもだけどさ、俺が結婚しようって言ってた結婚してた?」

「うーん、無理かなぁ」


「えぇ、無理なの?」

「うん、だって貴方は浮気するでしょ」


「え、あー、うーん」

「私だけじゃ満足出来ないでしょ?」


「う、うーん」

「結婚しちゃったら、嫉妬しちゃうと思うのよね。 私は都合の良い女のまま貴方とさよならしたいの」


「そっかー」


 車に乗り、彼女の車を置いてきた駐車場に着く。

「ありがとう、会ってくれて嬉しかった!」

「うん、じゃあね」

「バイバイ!」

 最後の彼女の笑顔は驚くほど綺麗だった。


「うーん、カッコつけ過ぎたかな」

 少しだけ、ほんの少しだけ、やっぱりする事すれば良かったなぁという思いと共に俺は帰宅する。


 ー 一年後 ー

 SNSの通知が届く。


『娘が出来ました』


 ホッとしたような、残念なような、説明のつかない感情のまま。


『そうか、出産おめでとう』


 これだけを返事して、彼女のアカウントを削除した。

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