バタフライエフェクト・アプリ
ちびまるフォイ
恋を応援するなら読まないでください
『インストールありがとうございます。
このアプリではバタフライエフェクトの
結果をお知らせするアプリです!』
「はは……。わけわかんね。明日のネタにちょうどいいや」
酔いの勢いにまかせて入れた謎アプリ。
インストールが終わった頃にはちょっと覚めてしまった。
アプリを消そうとしたとき、通知が届く。
>アプリを消すと、アマゾンで雨が降ります
「いやなんでだよ!」
ツッコみたくなるほどのバタフライエフェクト。
蝶の羽ばたきで台風が起きるのなら、
自分がアプリを消すことで地球の反対側で気候変動が起きるらしい。
「やれやれ。こんなの確かめようがないじゃないか」
それでも話題のネタになるかなとアプリはそのままにした。
翌日、家を出ると急にめっちゃお腹が痛くなる。
「やば……。トイレさがそう……!」
近くのコンビニに駆け込む。
店員は嫌そうな顔で答えた。
「あうちトイレ貸出してないんですよ」
「こんな切羽詰まった客を前にそれが言えるのか!?」
「まあ規則なんで」
「このひとでなしーー!」
アプリに通知が届く。
>あなたが腹痛になったのは、A国のXXさんが朝食を作ったからです
「知らんがな!! それどろこじゃねぇ!!!」
どこに行ってもトイレは行列。
なんとかみつけた最後のトイレは核戦争でも起きたのかというほど
さびれててディストピア極まりない汚さだった。
「ううう……背に腹は換えられない……!」
泣きそうになりながらトイレを済ませる。
>トイレの水が流れないのは、XXさんが道でタンを吐いたからです
「えええ!? 流れないの!?」
どっかの誰かが余計なことをしたせいで
トイレが故障して水を流せない状況となってしまった。
なんとかスマホで外に連絡して事なきを得た。
ハリウッド映画にでもしたくなるほどのピンチのラッシュだった。
「ひどいめにあった……。まったくみんな余計なことしやがって……」
どっかのXXさんが道にタンを吐きやがらなければ故障してなかった。
というかそもそもA国のXXさんが朝食を8時に作らなければ、
俺がこんな腹痛で苦しみもだえることもなかった。
>今手を洗うと、南極の氷が2%削れます
「っと、ちょっと待つか」
>今手を洗えば、日本人の給料25%上昇します
「よし洗おう」
自分はこんなにも良いバタフライエフェクトを起きるよう
微妙な乱数調整とかしているのに。
他の無神経な奴らは悪いバタフライエフェクトばかり起こしている。
手を洗いながら鏡の前にいる自分をみてふと考えた。
「……もしかして、良いバタフライエフェクトを狙って起こせるのかな」
アプリを開く。
バタフライエフェクト・アプリでは基本機能として
自分の周囲のバタフライエフェクトを通知してくれる。
しかし別の機能もあった。
「あった! 結果予測バタフライエフェクト!」
チョウの羽ばたきが、遠くで台風を起こすというのなら。
遠くで台風を起こすため、どこでチョウを羽ばたかせるか。
そんな逆引きのバタフライエフェクトを調べることができる。
「自分で好きにカスタムできるのか。
よし……できた!!」
カスタム・バタフライエフェクト
<自分とクラスのアイドルがカップルになる>
アプリで最終的なバタフライエフェクトを設定すると、
それに必要となるさまざまな前提行動がリストアップされた。
「こんなにあるのか……。でもやるしかない!」
現在クラスのアイドルと自分との接点はゼロ。
道ばたの石ころのほうがまだ地面という接点があるくらいだ。
しかしバタフライエフェクトにかかれば。
やることは多いけれど、最終的に間違いなく結ばれる。
絶対にバタフライエフェクトをやりとげてみせる。
「まずは公園のベンチで、ホットヨガ!? なんの意味が!?」
しかしバタフライエフェクトとしては必要。
恥と寒さを我慢するっきゃない。
道行く子連れが冷めた視線を送る。
「ママ、あの人……」
「しっ! 見ちゃだめ。かかわっちゃダメなタイプの人よ!」
「もう殺してくれ……」
耐え抜けたのはアイドルとのカップル成立の悲願成就。
そのためにはどれだけ多くの奇行だって耐えられる。
「よし次は……道に手袋の片方を置く、ね」
「今度はスーパーのカートに乗って山道をくだる」
「ろうそくを頭につけて……神社でよさこい」
だんだん感覚もマヒしてきた。
もうとにかくやり遂げることしか頭にない。
気がつけば、あれだけ大量にあったリストもわずか。
あと1つだけ行えばバタフライエフェクトは成立。
憧れのクラスのアイドルとカップルになれるだろう。
「最後はどんな変な要求を……?」
おそるおそるアプリを開く。
>最終バタフライ
>19:00の電車に乗る
「え……なんだちょろいじゃん」
これまで幾度と不審者通報された奇行をしていた。
最後のはごく普通で安心した。
さっそく電車のホームへと向かう。
「ちょっと早く来すぎたかな。待つか」
ベンチで待っているとホームがざわつく。
「……なんだ?」
なんとホームで酔っ払いの集団が
クラスのアイドルに声をかけているようだった。
「君かわいいねえ~~。どこの学校?」
「や、やめてくださいっ!」
周囲の人は認識こそすれ、関わりたくないと距離を取っている。
スマホでこっそり動画を撮っている人もいる。
貧弱もやし陰キャの自分が割って入る勇気もない。
ただ早くおさまれと神に祈るばかりだったが、通知がそれを許さない。
>ホームの酔っぱらいにより、電車が5分遅れます
「ふっざけんな!!!」
5分遅れる。それ自体は大したことではない。
しかし問題は5分遅れれば、19時に電車に乗れない。
ということは、バタフライエフェクトが完成しない。
ここまで積み上げてきたバタフライエフェクトが崩壊する。
みると酔っぱらいは動画の撮影に気づいてキレ始める。
すでにトラブルの火種は大きくなりつつある。
この先駅員がやってきたりで騒ぎが大きくなり
あまつさえ線路に転落すれば5分以上の遅延は間違いない。
これまでのバタフライエフェクトは……。
せっかくここまで積み上げてきたすべては……。
「そ、そうはさせるかぁーー!!」
「なんだてめぇ!!」
初めて大人の男にタックルした。
酔っ払いは不意をつかれて転倒。アイドルはやっと逃げられる。
「俺は19時の電車に乗るんだ!! ぜったいに!」
「な、何言ってんだこいつ!?」
「ぜったいに邪魔はさせねぇーー!!!」
鬼の形相でまったく関係ない人が、意味のわからない理由で襲ってくる。
酔っ払いはその珍妙な状況にあわてて逃げてしまった。
「はぁ……はぁ……危なかった……」
アプリを見る。
酔っぱらいによる電車の5分遅れは、
俺の武力介入によりバタフライエフェクトが消失した。
バタフライエフェクトはほんの数秒。
ごくわずかな違いで簡単に消滅するほどもろい。
『まもなく、1番線に19時発の電車がまいります』
「ああ……よかった。あとはこれに乗るだけだ……」
これまでの努力がすべて報われる。
この電車に乗りさえすれば自分は晴れて幸せカップルになれる。
そのときだった。
絡まれていたクラスのアイドルが戻ってきた。
「お、同じクラスの〇〇くん……だよね?」
「え? あ、うん」
電車が到着した。ドアが開く。
「さっきは……本当にありがとう…… ///
私、こういうの初めてだったからすごく怖かった……」
「そ、そうか」
電車から人が降りてくる。
待っていた人が乗り込み始める。
「でも、〇〇くんが助けくれて…… ///」
「あ……あ……!」
電車に人が乗り込み終わるとアナウンスが流れる。
発車のジングルが鳴り始める。もう19時だ。
「こんな気持ちはじめて……。
私、◯◯くんのことが……!」
言いかけたとき、もうたまらずその言葉をさえぎった。
「うるせぇ! いいから19時の電車に乗せてくれ!!
じゃないと君とカップルになれないんだよぉぉ!!」
俺は彼女をおいて、19時の電車に滑り込んだ。
ギリギリセーフ。
電車は発車し、窓からは頬を赤らめていたアイドルが遠ざかっていった。
バタフライ通知
あなたが最後まで読んだせいで、恋の成就が失敗しました。
バタフライエフェクト・アプリ ちびまるフォイ @firestorage
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