あー

@1232_2525

第1話

酔った



これは物語じゃねえよ。



人は死ぬね、俺の父は白血病だから。

次の正月を迎えられないんだって。

死ぬまでにやりたいことリストなんて作っちゃってさ、なに?受け入れてんの?死ぬことを。


頭おかしいと思われるかもしれないけど、俺って昔は不老不死になりたかったんだ。研究者になってさ。


死ぬのが怖くって、どんなに成果を出したって『無』になれば文字通り無意味だって思ってから生きるために生きようと思って、死を誰よりも恐れたよ。


そんな俺だから誰よりも死の恐怖が分かる、なのに何故?父は何故死を受け入れてる?いや、受け入れてないのか?俺達を安心させるために。

聞きてえよ、今なに考えてるって?死が怖くないのかって。


怖いだろ、なあ、じゃあ怖いって言えよ、そしたら俺が泣いてやるよ。


もう泣いてるよ、今だって。家族で一番泣いてるの俺なんだからな。


頭いてえ、れもんどう一本しか飲んでねえのに。俺はあんま酒強くねえんだ、父譲りかもな。


そういや父が酒飲んでるとこ全然みたことなかったな。一緒に酒飲みたいな。父と、弟と。


けど嫌がるんだろうな、あんま酒好きそうじゃねーし。


なあ、お前がな?死ぬまでにやりたいことリストがあるようにな?俺にだってお前が死ぬまでにおまえとやりたいことリストがあんだよ。とりあえず俺と将棋させよ、勝ち逃げすんな、100回させ。


なあ、なんで死ぬんだよ。まだ60手前だろ。平均寿命まで生きると思ってたよ、生きろよ、何が白血病だよ、ふざけんなよ。お前は残された側の気持ちを考えたことはあるか?俺はなかったよ。何度も死にたくなって自殺未遂して、自分のことばっかで残される側の気持ちなんて考えたこと無かったよ。けど頭のいいお前は違うんだろうな、思慮深い父は残された側が辛くならないように明るくなんともないように振る舞ってるんだろうな。



ふざけんなよ、ああ、神様。俺のせいだ。

これは『罰』なんだ。


今まで俺が怠惰に生きてきたから、火をつけるために父の命が天に登るんだ。


罰なら俺を殺せばよかっただろ。家族で一番いらねえのはこの俺だ。


なあ、なあ、どうして?どうして?


誰か俺を救ってくれよ。誰か父を救ってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る