異常事態 ーアルカネイアの痕跡ー
アキラとアリアは、甲高い悲鳴と金属音のような戦闘音が響く森の奥へ駆けていた。緑の木々が徐々に密度を増し、日の光が届きにくくなっていく。湿った土の匂いと木々のざわめきが緊張感を高める中、アリアが声をかけた。
「急いで、アキラ!誰かがまだ戦っている音がする!」
「わかってる!」
やがて2人は戦闘の現場に辿り着いた。そこには地面に倒れ込んだ3人の冒険者たちと、未だ短剣を逆手に握りしめ戦い続ける1人の女冒険者の姿があった。彼女はシーフのような身軽な装備で、鋭い動きで2体のモンスターと渡り合っている。だが、その動きにも疲労の色が見え始めていた。
アキラの視線はすぐに2体のモンスターに釘付けになった。その姿――黒い金属製の装甲に覆われた機械の体。片方は右手に剣、左手に盾を装備している「ガーディアンナイト」、もう片方は両手に連射型の銃火器を持った「ガーディアンシューター」だ。
「ガーディアンナイトにガーディアンシューター……!」
アキラは目を見開き、額を押さえた。強烈な頭痛が突如として襲ってきたのだ。目の前のモンスターたちを見た瞬間、断片的な記憶が押し寄せてくる。彼らは本来、アルカネイアの遺跡やダンジョンを守るために存在しているはずだった。それが、なぜブレイドヘイムにいるのか?
そして俺は、記憶を失っているはずなのに、
「アキラ、大丈夫!?顔が真っ青よ!」
アリアの声が遠くに聞こえる。だが今はそれに応える余裕がなかった。
ガーディアンナイトの剣がシーフの女冒険者に振り下ろされようとしていた。アキラは反射的に杖を構え、小声で第四階梯の呪文を唱える。
「
透明な膜のようなバリアが女冒険者の体を包み込み、ガーディアンナイトの剣は膜に弾かれて「キンッ」と音を立てた。アキラはすぐに叫ぶ。
「簡易詠唱だからすぐに壊れる!後ろに下がれ!」
女冒険者はアキラの指示に従い、息を切らしながらアキラたちの背後に退避する。アリアは剣を構え、焦りの表情を浮かべた。
「物理攻撃は効かなそうだけど、どうするの?」
アキラはすぐさま判断を下した。
「今から全員に本格的な保護魔法をかける!あいつらは物理攻撃も生半可な魔法も効かない。攻撃魔法の準備に5分だけ時間をくれ!」
「わかったわ!」
「承知です!」
アリアと女冒険者がうなずき、ガーディアンナイトとガーディアンシューターの注意を引くように動き出す。その間、アキラは杖を振って長杖に変化させ、地面に一度叩きつけた。金色の魔法陣が半径3メートルほどの範囲に広がり、光の粒が周囲に舞う。
「光よ、聖域をもって守護せよ――
金色の光がアキラとアリア、シーフの女冒険者を包み込む。それは半径1メートルの不可視のバリアを生み出し、物理・魔法の攻撃を防ぐ第五階梯の光属性防御魔法だった。
アリアと女冒険者は、アキラが魔法を完成させるまでの5分間、ガーディアンナイトとガーディアンシューターの相手をすることになった。だが、モンスターたちの攻撃力は想像以上だった。ガーディアンシューターの銃弾がアリアの周囲を飛び交い、ガーディアンナイトの剣が女冒険者の聖域防御に向かって激しく叩きつけられる。
「速い!そして硬い……!」
アリアが歯を食いしばりながら剣を振るうも、モンスターたちの装甲は傷一つ付かない。彼女は回避を重視しながら、なんとかアキラの時間を稼ごうと動き続けた。
一方でアキラは、長めの詠唱を行いながら魔法陣をさらに展開していった。地面には黒色の魔法陣が1つ、さらに蒼色の魔法陣が右斜め後ろと左斜め後ろにそれぞれ1つずつ描かれていく。その光景は、まるで空間そのものが歪むかのようだった。
「アズール……力を貸してくれよ……」
呟く声は彼自身への励ましでもあった。そして最後の詠唱に入る。
「次元よ、我が言葉に応えろ。その存在を否定し、消滅せしめよ――
3つの魔法陣が光り輝き、ガーディアンナイトとガーディアンシューターの体を中心に空間が歪む。瞬間、モンスターたちの体は中心が"食われるように"消滅していき、わずかな手足の残骸だけを地面に残して消え去った
「ふう……」
魔法の発動後、アキラはその場に膝をついた。
使った魔法が高度なものばかりで、しかも得意ではない光属性も乱発したのだ。いかにアキラといえど体と魔力に対するダメージは大きかった。
呼吸を整えながら、頭の中で渦巻いた疑問について思考を巡らせる。
「こいつらはここに“いてはいけない”存在だ……なぜここにいる……それに、なぜ俺は記憶を失っているのにこいつらを
頭痛の残響が消えない中、アキラは自問自答を続けた。それは、自分の記憶の深奥に眠る真実への第一歩だった。
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