冒険者ギルド
冒険者ギルド──。
それは剣士やシーフ、商人などあらゆる冒険者が集う場所。クエストを受け、名を上げ、報酬を得るために誰もが足を踏み入れる拠点であり、戦士たちの社交場でもある。
アキラとアリアは、その冒険者ギルド -カルカソンヌ支部-の入り口をくぐった。
ギルドの内部は広く、重厚な木の柱が支える天井の下で、様々なタイプの冒険者たちが思い思いに過ごしていた。掲示板の前で依頼を物色する者、カウンターでギルド職員と話し込む者、酒を片手に仲間と談笑する者。
「にぎやかな場所だな」
アキラは辺りを見渡しながら呟いた。
「ここがカルカソンヌの冒険者ギルドよ。冒険者なら誰でも登録できるし、身分証もここで発行してもらえるわ」
アリアは自信ありげに言う。
「つまり、ここで俺の身分証を作れば、正式にこの世界の一員ってわけか」
「そういうこと。ただ、まずは登録申請の手続きが必要ね。身分証を作る前に、いくつか質問に答えてもらうことになるわ」
「なるほどな……」
アキラはアリアの話を聞きながら、興味を惹かれたのか依頼掲示板の前へと向かった。そこには数多くの依頼が貼られている。
「魔獣討伐」「護衛依頼」「古代遺跡の調査」「山賊退治」。様々なクエストが並ぶ中、アキラは一枚の紙を手に取った。
『カルカソンヌ南部にて謎の魔物が多数出現。討伐依頼』
「ふーん、結構物騒だな」
「ブレイドヘイムは剣がものを言う世界。戦えなければ生き残れないのよ」
アリアがそう言った瞬間、突然背後から声がかかった。
「邪魔だ」
低く、粗野な声だった。
アキラが振り向くと、そこには気性の荒そうな男が立っていた。冒険者風の装備に身を包み、無精髭を生やしたその男は、明らかに喧嘩腰だった。
(絡まれたか? まあ売られた喧嘩は買ってやるか)
そう思ったが、次の瞬間、男の視線がアキラではなくアリアに向けられていることに気づいた。
「お飾り副団長様じゃねえか。ギルドにまで顔出して何のつもりだ? 伯爵令嬢サマ?」
男は嘲笑しながら言った。周囲の冒険者たちも気づき、興味深そうに様子を伺っている。
アリアは悔しそうに睨み返した。
「私はお飾りなんかじゃない! ちゃんと実力で副団長になったのよ!」
「へえ? だったら剣の腕で証明してもらおうか? どうせ口先だけなんだろ?」
男が肩を揺らして笑う。
アキラはそれを黙って見ていた。
(こいつ、気に食わねえな……)
喧嘩腰の挑発、周囲の冷笑、そして何より、アリアが悔しそうにしているのが面白くなかった。
ふと、アキラは声に出ない程度に、軽く口を動かした。
(
目には見えない薄い氷の床を男の足元に作り出すと、男は突然バランスを崩して転んだ。
「うわっ!」
男は豪快に尻餅をついた。周囲の冒険者たちが驚き、ざわつく。アキラはすぐに魔法を解除し、まるで何事もなかったかのように静かに笑った。
「人のことを揶揄う割に、立ってることすらできないのか?見上げた冒険者サマだな」
男の顔が一瞬で怒りに染まる。
「てめぇ、ふざけるなッ!」
男は勢いよく立ち上がり、アキラに向かって突っ込んできた。しかし、アキラは余裕の表情で横にかわしながら、男の足に軽く引っ掛けた。
「ぐっ……!」
男は再び派手に転んだ。ギルド内に笑い声が漏れる。
「まだやるか?幾らでも付き合うぞ」
アキラは肩をすくめながら、転んだ男を見下ろした。
男は悔しそうに歯を食いしばったが、これ以上楯突くことなく、「覚えてろよ!」と吐き捨てながらギルドを足早に出ていった。
面倒な奴だったな、アキラは軽く息をつき、ふと周囲を見回した。この程度の事で人の集まりが良すぎるんだよな。
「さあ散った散った! お前ら野次馬根性で騒ぎすぎだ」
しかし、周囲の冒険者たちは誰も動こうとしなかった。むしろ、さらに注目が集まってしまっている。
(……しまった。騒ぎが大きくなりすぎたか?)
そんな時だった。
「なんの騒ぎだ?」
野太い声がギルド内に響いた。
ギルドの奥から現れたのは、屈強な体躯を持つスキンヘッドの男。鋭い目つきと無骨な装備、大きな両腕を組んで、辺りを見渡していた。
その男の姿を見た途端、冒険者たちはざわめきながら道を開ける。
「副ギルドマスター、ラグナルだ……」
「普段は出てこない癖になんで今日に限っているんだよ……」
誰かが小声で呟いた。
アキラは目を細め、その男──ラグナルをじっと見つめた。
「さて……どうしたもんかね」
アキラは小さく呟く。
彼の前に立ちはだかるように、ラグナルはゆっくりと歩み寄ってきた。
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