先輩から聞いたこわい話

なつきはる。

第1話

 Aさんが入社してすぐ、直属の先輩からこんな話を聞いた。お姉さんから譲り受けたパソコンが深夜の同じ時間に必ず勝手に立ち上がると言うのだ。しっかり電源は落としているし、誰も触っていない。それでも毎日同じ時間に起動する音がする。

 「心霊現象じゃないですか?」と言うAさんに、一緒に話を聞いていた先輩の同僚が「そうゆう設定になっているんじゃないですか?」と笑った。結局先輩は気味が悪くなり電源コードを抜いてしまった。

 別の日にはこんな話をしてくれた。

 お姉さんが新しい部屋に引っ越したと言うので遊びに行った。しばらく話したあとでレコーダーの電源が使わないのにつけっぱなしになっていることに気づく。電気が勿体無いなと思って消したら、どうして消したのかと怒られた。理由を聞くと、そのレコーダーは一度電源を落とすとしばらく立ち上がらなくなると言うのだ。

 その部屋に引っ越してからというもの、やたらに電化製品が壊れる。新しく買ったものも調子が悪く、電源が入らなくなるのが嫌でつけっぱなしにしていた。先輩が譲り受けたパソコンは特に異常がなかったものだと言う。要らないからあげるよと言われて喜んで受け取ったら異常が起きた。

 なにかあるのだろうか。

 オカルトがすきなAさんは、時々先輩からお姉さんの話を聞くようになった。どうやらお姉さんは霊媒体質で、視えるわけではないが霊を引き寄せてしまうらしい。わりと気味が悪い体験をするようだが、本人が気にしていないので気のせいだということになってしまう。

 Aさんは不動産会社で働いている。ある日先輩がお客さまに霊やオーラが視えるという霊能者さんがいるという話をしてくれた。しばらくお姉さんの話をきいていなかったので、その話の流れで最近お姉さんどうですか?と聞いてみると、「最近足音が近づいてくるみたい」と言う。

 お姉さんはアパートの2階に住んでいるが、部屋に行くには階段を上がるしかない。その階段を深夜、上がってくる足音がすると言う。普通は階段を上がり切るまで聞こえるはずの足音が途中で消えてしまう。おかしいなと思って毎日聞いていると、足音が毎日一歩ずつ増えていることに気づいた。近づいてきている。

 流石に怖くなったお姉さんはお母さんに相談して玄関に盛り塩をすることにした。あと数歩で部屋に入ってくるというところで、足音はぴたりと止んだ。

 安心したお姉さんはそれから数日後、隣の部屋のドアの前になにかが置かれていることに気づいた。

 それは小さな丸い皿に円錐型に盛られた塩だった。


 お姉さんはそのあと実家に戻り、家を建て替えて先輩と共に何事もなく暮らしている。

 Aさんが「新しいお家は大丈夫ですか?」と聞くと、先輩は「大丈夫ですよ」と笑った。

 この先輩はお姉さんとは違って霊的なことにはまったく縁がないのだが、虫の災難によく遭う。

 押し入れからパリポリ音がするので恐る恐る開けたらパスタで作ったリースにゴキブリが群がっていたり、お母さんが淹れてくれたコーヒーを飲み干したらカップの底にゴキブリが沈んでいたりした。その中でもいちばん怖かったのが以下の話である。

 建て替えてる前、深夜クローゼットの中から壁を引っ掻く音がした。怪訝に思った先輩はお姉さんのこともあって心霊現象だろうかと疑った。あまりに毎日音がするので証拠を残すためにスマートフォンの動画を回しながら恐る恐るクローゼットの扉を開くことにした。

 Aさんは先輩がクローゼットから音がすると相談を受けていた。その数日後に原因が撮れたとこの動画を見せてもらった。

 クローゼットのドアが映る動画ではたしかにカリカリと壁を引っ掻く音がする。先輩の手がドアを開くと、外壁側の壁に穴が空いていた。そしてそこからスズメバチが顔を出している。壁を引っ掻く音は外壁側から侵入したスズメバチが巣を作るために内側の壁に穴を開けている音だった。

 ここで活躍したのが霊媒体質のお姉さんである。たまたま実家に帰っていたお姉さんは妹の悲鳴を聞きつけ、壁の異変に気づいた。そして殺虫剤を手に取り空いた穴の中へ噴射した。

 「大丈夫だったんですか?」と聞いたAさんに先輩は「びっくりしたけど大丈夫だった」と笑った。先輩が面白おかしく話してくれたのでAさんや同僚たちも笑ってしまったが、心霊現象よりも蜂のほうが怖い。


 ちなみに空いた穴はお父さんが透明のテープでふさいでくれたそうだ。

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