2 どだやづや
ベスプッチ帝国皇帝、ジーザス・クライスト・スーパースターが来秋したことは、日本のメディアでも報じられた。
ジーザス・クライスト・スーパースター帝が連れてきたマスメディアが、佐竹ルイ15世に日本酒を勧められハタハタ寿司を肴に気持ちよく酔っ払うジーザス・クライスト・スーパースター帝を写した結果、「秋田国」はベスプッチ帝国と友好的である……という印象を、世界中に植え付けたのである。
「フム。このサケとスシは非常にいい味わいだ。ベスプッチ帝国風に言えば『ベリー・テイスティ』、いやもっと根源的な……『ヤミー』だ」
ジーザス・クライスト・スーパースター帝は日本語が達者なのであった。佐竹ルイ15世も、秋田県民のわりには「ええはいできる」人だったので、あまり訛らずきちんと話す。
「どちらも秋田県、いや秋田国の素晴らしい産物です。陛下においしい、と言っていただけて、たいへん光栄であります」
それで、と佐竹ルイ15世は切り出す。
「いったいどんなご用で、秋田国サ……秋田国にいらっしゃったのですか?」
「いや? ただ、ハタハタ・ズシとニホンシュを嗜みたかっただけだよ。日本のカートゥーンであるじゃないか、ミソ・ラーメンを食べるためだけにホッカイドーに向かう金持ちの御曹司」
それはドラえもんのスネ夫だ。
「では……政治的なやり取りをするつもりではないと?」
「そうだよ。ああおいしかった……」
事実、ジーザス・クライスト・スーパースター帝は、それだけで帰ってしまった。
もちろん佐竹ルイ15世は叫んだ、「どだやづや!!!!」と。
◇◇◇◇
「は!?!? なんで秋田みたいなところに、ジーザス・クライスト・スーパースターが!?」
譲葉サユはキレていた。癇癪の赴くままに、ドアにゆめかわなパステルピンクのユニコーンのぬいぐるみをぶん投げ、ジタバタ暴れた。
いかに「機動戦士ガンダム」や「宇宙戦艦ヤマト」や「ショッカー」を量産できているとはいえ、ジーザス・クライスト・スーパースターの統べるベスプッチ帝国には「マーベル」や「ディズニー」などと呼ばれる特殊部隊が存在しており、彼らの手にかかれば「機動戦士ガンダム」など敵ではないと思われる。
「大統領閣下、いかがいたしますか」
「決まってるじゃん! 総攻撃だよ! 秋田を、滅ぼす!!!!」
まぁたティーンエイジャー特有の不安定なことを言い出した譲葉サユのいうことを間に受けるのだから大人は愚かである。
「しかし、秋田に手を出して……仮にベスプッチ帝国が『マーベル』や『ディズニー』を動かしてきたら……」
「そうなったら、こっちは『宮﨑駿』を発動すればいーんだよ。『巨神兵』で焼き払って『ラピュタ』で燃やす! これでよくない?」
「ははぁっ」
というわけで、秋田県から秋田国に変わった、追放された土地に、『機動戦士ガンダム』の大群が差し向けられることとなった。
◇◇◇◇
「どでんしたじゃ……!」
これは「びっくりしたなあ……!」という意味の秋田弁である。
県境の見張りをしていた秋田国の老マタギは、老いてなお鋭い瞳で「機動戦士ガンダム」を睨んでいた。
それがトランシーバーで、近くの秋田国の伝令所に連絡が送られた。
そして佐竹ルイ15世は、ひとつの決断をすることとなる。
「暗黒の縄文アーティファクト『笑う岩偶』を、召喚する!」
◇◇◇◇
秋田国に古くから残る「伊勢堂岱遺跡」や「大湯環状列石」から、光の柱が立ち上った。
そのとき、秋田の上空に、巨大なシルエットが、ずずず……と動き出す。
「こ ー ん ぬ ー ず ば ー !!!!」
暗黒の古代アーティファクト「笑う岩偶」が、その威容をあらわにした。
それを見た「機動戦士ガンダム」のパイロットたちは、「なんだ……あれは!?」と恐怖を覚えた。それはニュータイプであっても恐れてしまうような、そういう根源的な恐怖であった。
「構わん、撃て!!!!」
上官からの指示がくだり、「機動戦士ガンダム」のパイロットたちはトリガーに指をかける。
ばばばばばば!!!!
銃弾が激しく撃ち出された。しかし「笑う岩偶」にはなんのダメージも見受けられない。「笑う岩偶」はバカっぽいというか人のよさそうな笑みを浮かべて、すべての攻撃を無効化した。
それは、縄文人たちが「笑う岩偶」に望んだ、平和への祈りであった。他部族に侵略されず、平和に暮らしたい……という願いが込められていたに違いない。いや分からんけど。
笑っているということは平和だということだ。だからそれを守護することを、縄文時代の人々は「笑う岩偶」に望んだに違いないのだ。いや分からんけど。
こうして、最新兵器である「機動戦士ガンダム」による秋田への侵略は、古代の偶像「笑う岩偶」によって食い止められた。
譲葉サユは歯がみした。そしてベスプッチ帝国に動きがないのを、不審に思っていた。
(おかしい。ベスプッチ帝国のジーザス……なんだっけ。あいつが同盟国を守らないなんて。やる気になれば日本だって滅ぼせるのに)
譲葉サユは、さらに秋田県を沈没させる方法を考えていた。
(そうだ! あれを使おう! 秋田には列車なんてないはず!! それなら倒せない!!)
譲葉サユは、核兵器にも匹敵する狂気の兵器――「ゴジラ」を、旧秋田県に放つと決めた。(つづく)
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