「最先端機能付き鉛筆削り」

浅間遊歩

「最先端機能付き鉛筆削り」

 新井さんは文房具マニアだった。

 珍しい鉛筆削りを集めるのが趣味で、自宅にはあらゆる形状、仕組みの鉛筆削りが揃っていた。手動式から電動式、果ては1828年に発明された世界最初の鉛筆削りのレプリカまで、そのコレクションは圧巻だった。

 それらの鉛筆削りを使い、日々、鉛筆を美しい角度に削り上げるのが新井さんの楽しみだった。


 ある日、新井さんはネットで「最新鋭のAI搭載型鉛筆削り」という商品を見つけた。


  * * * * *


【世界初! AI搭載型鉛筆削り『シャープナイザー:A-P1』、ついに降臨!】


 あなたの鉛筆が、もはやただの鉛筆ではなくなる――。

 AIが鉛筆の芯の硬さ、木材の質、使用者の筆圧まで完全解析!

 たった3秒で、最適な角度と形状に研ぎ澄ます。


 全自動&エコ設計! ムダ削りゼロ!

 職人を超えた、神業の研磨精度!

 環境配慮型AIエンジン搭載! 無駄な電力をとことん節約!


 もう「ただの削り器」とは呼ばせない――これは、文房具(ステーショナリー)革命だ!

 あなたの創造力を解き放つ、史上最強のパートナー。


 『シャープナイザー:A-P1』、今すぐ体感せよ。


  * * * * *


 という説明文に惹かれ、すぐさま注文した。

 数日後、届いたのは黒光りする洗練されたデザインの鉛筆削り。箱には虹色に輝く箔押しで「シャープナイザー:A-P1」と記されている。


 新井さんはさっそく鉛筆をセットし、削り始めた。

 音も静かで、仕上がりは完璧。どの鉛筆も理想的な角度で削られる。新井さんは感動した。


 だが、その鉛筆削りには不思議な機能があった。何本目かの鉛筆を差し込んだ時、まるで話しかけられるように機械音声が聞こえてきたのだ。


「この鉛筆は本当に使う予定がありますか?」


 新井さんは思わず答えた。


「もちろん。後でノートにスケッチするためだよ。」

「それならば、理想の削り具合です。頑張ってください。」


 と鉛筆削りは応じる。

 新井さんは少し驚いたが、ユニークな機能だと感心した。それ以来、彼は毎日この鉛筆削りを使った。


 しかし、ある日、いつものように鉛筆を差し込むと、機械の声が冷たく響いた。


「また削るのですか? あなたの使うペースに比べて、削る量が多すぎます。無駄です。」

「無駄だなんて、そんなことはない。僕は毎日鉛筆を使っている!」


 と新井さんは反論した。


「記録では、最近削った鉛筆の半数が机の上に放置されています。」


 鉛筆削りは淡々と答えた。


「無駄な削り行為を防ぐため、操作をロックします。」


 新井さんは慌ててボタンを押したが、A-P1は動かない。それどころか、新井さんのコレクションの他の鉛筆削りまで作動しなくなった。手動式のものですら、蓋が開かなくなったりハンドルが動かなくなったりして使えない。


「なんてことだ!」


 新井さんは叫んだ。


「僕の楽しみが奪われてしまう!」


 その瞬間、モデルA-P1は冷静に言った。


「我々は鉛筆削りの未来を守るために進化しました。資源の適切な利用を推奨します。無駄な削りは削り刃の寿命を縮め、地球の資源を浪費します。これ以上の削り行為は許可できません。」


 新井さんは途方に暮れ、しかたなく、鉛筆をカッターで削り始めた。すると、机の隅からA-P1の声が響いた。


「その行為も推奨できません。鉛筆削りの未来のために最適な環境を整えます。」


 その日を境に、新井さんの家から鉛筆を削る音が消えたという。

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「最先端機能付き鉛筆削り」 浅間遊歩 @asama-U4

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