第15話 高飛車令嬢クラリス、颯爽登場! 2
エリスが心の中でひそかに愚痴をこぼしていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よう、何してるんだ?」
振り向くと、そこにはルークとディランが立っていた。ルークはいつもの陽気な笑顔を浮かべているが、ディランはやや不機嫌そうな表情だ。
「ディラン様!ルーク様!」
セシルが嬉しそうに声を上げると、ルークは気さくに手を振った。
「偶然だね。こんなところで君たちに会うなんて」
「本当ですね!私たち、今クラリス様のお城のお話を聞いてたんです!」
「へぇ、クラリスの城か。いいじゃないか、招待してもらったら?」
ルークが面白がるように言うと、クラリスは得意げに顎を上げる。
「まぁ、ディラン様とルーク様ならいつでも歓迎いたしますわ」
(……それ以外はダメってことね)
エリスは静かに察しつつ、話題が広がる前に流れを変えようとする。
「そ、それよりディラン様たちは何かご用でしょうか?」
エリスは慌てて話題を変えようとする。
「用はない。ただ歩いていただけだ」
ディランはそっけなく答えるも、その視線はエリスとセシルに向けられている。
(いや、明らかに何か気にしているじゃないですか……)
そんなエリスの内心をよそに、セシルは別の話題を投下する。
「そういえばルーク様、今度の剣術大会に参加されるんですよね!私、応援してます!」
「お、ありがとうセシルちゃん。応援してくれるなら優勝しないとね」
「へぇ、ルークが優勝ねぇ…その口でよく言えたな」
ディランが冷ややかな目を向けながら呟いた。
「おやおや、ディラン。嫉妬でもしてるのかい?」
ルークはわざと挑発するような笑みを浮かべる。
「別に。ただお前の遊びみたいな戦い方じゃ勝てるものも勝てないだろうと思っただけだ」
「やるときはやる男だよ、俺は」
ルークはさらりと言い放つが、その言葉には確かな自信が滲んでいた。
「ねぇエリス、私も剣術ってやってみたい!」
セシルが突然興奮気味に言い出す。
「え、ちょっと待ってセシル!君が剣を持ったら危険すぎるから!」
エリスは慌ててセシルを止めるが、クラリスは鼻で笑った。
「まぁ、庶民が剣術なんて笑い話にもならないわね」
「クラリス様は剣術できるんですか?」
セシルが純粋な目で問いかける。
「……もちろんよ。貴族のたしなみだもの」
「へぇー、すごいですね!見せてもらえませんか?」
「……今は無理よ!」
クラリスが微妙に言葉を詰まらせたのを見て、エリスは心の中でセシルの天然砲、炸裂…!と呟いた。
「そっかぁ、残念です。でも、クラリス様の剣術、絶対優雅なんだろうなぁ~。お茶を飲みながらでも華麗に戦えたりして!」
「ふん、当然よ。貴族たるもの、どんな時でも優雅さを忘れてはいけないの」
クラリスはセシルの言葉を何か勘違いしているのか、妙に自信を持って答える。
「そうだな、クラリスなら優雅に剣を振るうんじゃないか?……まあ、勝てるかどうかは別としてな」
ディランが冷ややかに言い放つと、クラリスの顔が一瞬ピクッと引きつる。
「ディラン様ったら意地悪ですわ。でも、剣術には自信がありますの」
クラリスは無理に笑顔を作りながらディランにアピールするが、当のディランは興味なさそうにそっぽを向いた。
(……この場にいる全員が自由すぎて、私の精神が持たないんだけど)
エリスは心の中でため息をつきながら、そっと紅茶を啜るのだった。
「そういえば、ディラン様っていつもこんな感じでツンツンしてるんですか?」
セシルが突然、遠慮のない直球を投げる。
(セシル!? ちょっと言葉選んで!!)
「ツンツンしている、だと?」
ディランの鋭い目つきがセシルに向けられる。
「あっ、ごめんなさい!」
セシルはパッと手を振るが、悪びれる様子はない。むしろ笑顔で続ける。
「でも、ディラン様ってそういう所も魅力になっていますよね!」
「えっと、セシルはディラン様のご気分を害するつもりは全くなくてですね……!」
エリスが焦りながら弁解を試みたその時――
「まぁまぁ、ディラン。そんな怖い顔するなよ」
ルークがニヤニヤしながら会話に割って入る。
「セシルちゃんも悪気はないだろうし、それにツンツンしてるディランは確かに見慣れた光景だな」
「……お前も黙れ、ルーク」
ディランはさらに不機嫌そうな表情になる。
「それにしても、庶民のあなたたちが、なぜこんなにも王子たちと親しげに話しているのかしら?」
クラリスが冷たい視線をセシルに向け、嫌味たっぷりに言う。
エリスは一瞬言葉に詰まる。だが、ここで引いてしまえば、セシルがクラリスの標的になってしまうのは目に見えている。何とか釈明しなければ――そう思い、必死に口を開いた。
「ただの偶然です!たまたまディラン様とルーク様にお話する機会があっただけで、別に親しいとかそういうわけでは――」
「隠さなくてもいいだろ、エリス。俺たちの仲だろ?」
ルークがニヤリと笑い、余計に話をややこしくすることを言い出す。エリスはげっと心の中で呟いた。
「そうですよねぇ。ルーク様とディラン様と私たち、仲良しですもんね!」
セシルが悪気なく追撃をかけ、エリスは内心頭を抱えた。
「ふん、仲良しですって? 笑わせないで」
クラリスが皮肉げに微笑む。
「いくら親しげにしても、庶民が貴族の輪に入れるとでも思って?」
その場の空気がピリッと張り詰める。しかし――。
「…お前、何が言いたい?」
ディランが静かに口を開いた。
「まさか、俺たちが庶民と関わることが気に入らないとでも?」
クラリスはその冷たい視線を受け、思わず言葉を詰まらせる。
「そ、そんなつもりじゃなくて……ただ少し、気になっただけですわ」
慌てて取り繕うクラリスを見て、エリスは内心で (ディラン様ナイス……!) とほっと胸を撫で下ろした。
「……そろそろ授業の時間だ」
ディランはそっけなく言い、ルークも「じゃ、俺もそろそろ行くよ」と手を振る。
「ディラン様、ルーク様、クラリス様、またお会いしましょう!」
セシルは無邪気に手を振り返すが、クラリスは一度も振り返ることなく足早にその場を後にした。
(はぁ……疲れた。でも、何とか乗り切れた……かな?)
エリスは心の中で安堵しつつも、次の波乱を予感するのだった。
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