Column4 「スコーン」の名前の由来(中編)

 前回のColumnに引き続き、「スコーン」の名前の由来のお話です。


 ここでは、前回登場した説の、①の説について考えます。一応その内容をこちらにも提示しておきますね。


①「良質な白いパン」を意味するオランダ語の「schoonbroot」と、ドイツ語の「sconbrot」から、スコットランドで「scone」になった説。


     ☆


 まず①に登場する、オランダ語とドイツ語を私の手元にある辞書を引いて確認してみました。


 すると、オランダ語の「schoonbroot」も、ドイツ語の「sconbrot」も、現在は使われていない言葉であることが分かりました。

「『現在』使われていない」ということであれば、「過去に使われていた経緯があるのではないか」という疑問が浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私は「どちらとも言えない」としか言えないのです。


 古い文献には載っているような記述がある書籍があるようなのですが、私はその書籍を持っておりませんし、古い文献を確認したわけではないからです。


 ただ、オランダ語の「schoonbroot」と、ドイツ語の「sconbrot」をより細かい単語にしてみると、あることが分かります。


 オランダ語の「schoonbroot」を最小限の単語に分けることのできる部分で区切ると、「schoon」と「broot」と分けることができます。

 この二つの単語を調べると「schoon」は「美しい」、「broot」は「パン」という意味です。ですから、直訳すると「美しいパン」ということになりそうです。


 ドイツ語の「sconbrot」のほうも同じように考えることができまして、「scone」と「brot」に分けることができます。

「scone」は「スコーン」、「brot」は「パン」という意味ですから、直訳すると「sconbrot」は「スコーンパン」ということになります。


 しかし調べてみると、「scone」というのは英語由来の「スコーン」のことであるため、ドイツ語ではないのです。

 となると、別の単語が「scone」に置き換わってしまったと考えられそうです。


「scone」に形が似たドイツ語の単語を探してみると「schön」があります。「schön」の意味は「美しい」です。

 そのため「scone」の部分が「schön」だったのであれば、オランダ語の「schoonbroot」と同じく「美しいパン」という意味になるので、「スコーン」の名前の由来とされるオランダ語とドイツ語の単語それぞれには共通点があることが言えそうです。


 しかし、どちらも直訳で「美しいパン」ですから、『増補改訂 イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』にあったように「良質な真っ白いパン」とは全く意味が違います。

 百歩譲って「良質な真っ白いパン」を見たら「美しいパン」と思わなくもないですが、もしそうなったのであれば、「『良質な白いパン』を『美しいパン』と思ったことからこのような名前がついた」という説明をしてもらわないと、間がすっぽ抜けたような感じがします。

 それぞれの単語には「パン」を意味する単語はあっても、「良質な白い」はないですからね。


 さらにこの件についてネットで調べたところ、面白いものを見つけました。


「レファレンス共同データベース」というHPの中に、「スコーンの起源を知りたい」という質問があります。

 その回答として「スコーンの英語文献初出は1513年で、もともとスコットランドでカラスムギから作られたもので、素晴らしい、旨いパンを意味する14~15世紀の低地ドイツ語schonbrot、同期のオランダ語schoonbroot(スコーンブロート)から短縮されたものとある」とありました。この内容は「内林政夫『西洋たべもの語源辞典』 東京堂出版」の書籍から調べ、「レファレンス共同データベース」で回答したもののようです。


 この回答を見る限り、ドイツ語は「schonbrot」とあり、『増補改訂 イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』に記載してある「sconbrot」とスペルが違うことが分かります。


 また、オランダ語の「schoonbroot」と、ドイツ語の「sconbrot」の元の意味として、『西洋たべもの語源辞典』では「素晴らしい、旨いパン」と書かれているようです。個人的には、こちらのほうが「良質な白いパン」という意味よりも、本来の単語の意味に近いのではないかなと思います。


(「後編」に続きます)

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