その後、いろんな人からめちゃくちゃ怒られた。

　あいだポリスへ話したのは、ほとんど全て。ダブルイがなぜこんなことをしたのか、あたしが知らず協力したことでタイソン女史はさらわれて、授賞式もザルもメチャクチャになり、そこにはマイクロマシン・ジェネレーターが関わっているということも。これが一番、説明に困った話かもしれない。

　唯一、嘘をついたことがあるとすればダブルイの探していた呪文の行方で、もうどこにあるのか、組んだ魔法使いは誰なのか、さっぱり分からないと伝えている。証言はタイソン女史も同じで、示し合わさなくても食い違うことのない事情聴衆の内容にポリスも信じてくれたみたいだった。

　だとしても丸くなんておさまらず、マイクロマシン・ジェネレーターの存在に大騒ぎしたのは世の中の方。だからってただちに商品化されるわけでもなく、この騒ぎも日を追うごとにおさまってゆくんだろうなって今は眺めてる。

　つまり全ての発端となったタイソン女史の研究が盗作だ、ということも公にならざるを得ず、事実は誘拐から救出までのニュースにもまして大きく報道されると、サイエンチスト協会なんてこの世の終わりみたいに大騒ぎしたそのあとでタイソン女史の除名を命じてる。

　でもタイソン女史があたしを責めたかというと、そんなことは起きなかった。きっとドラゴンに襲われた時から後悔していたんだろうと思う。本当はなにもかも台無しのハズなのに、むしろこうなってスッキリした、なんて少し疲れた顔で笑ってくれた。申し訳ないけれどあたしも同じ気持ちなのだからほっとして、ごめんなさい、と謝っただけで全てはおしまい、ってことになってる。もちろんこの埋め合わせはいつか必ずするつもり。いつか必ず、ね。

　地球のパパとママの所へポリスから連絡が入ったのは、あたしもダブルイも同じ頃合いだった様子。バツが悪いどころか、ポリスのお世話になっているなんてどれだけ驚かせてしまっただろうって罪悪感がとにかくあたしは辛くって、そのうえ魔法もなくなしてしまったのだから憂鬱は止まない。

　それもこれも血を持たない二人が相手だから、って思うことにしたのはずいぶん冷たい言い方かしら。でももし、もしここにおばあちゃんがいたら、そんな風に嘆いたりすることはないだろうって思えるのだから仕方ない。そう、きっとおばあちゃんなら「また別の魔法を使うため技を磨けばよいことです」、そんな風に言ってくれるだろうと思えてる。

　おごらない、ひねくれない、惑わされない。

　ずっと言い続けてきたのはおばあちゃんだもの。「魔法」が魔法ひとつだなんて、きっと思ってやしない。

　だからサバサンドを作る事でも、窓ガラスを磨く事でも、もしかしたらこんな具合にあたし以外の全ての魔法使いを実は助けちゃったかもしれないって大胆な事でも。血なんて関係なくなってしまえばなおさら血に縛られない「魔法」はいくらもあたしを待っていて、出会う日を思えば憂鬱だって少しは晴れた。

　ダブルイもいつか気づいてくれたらいいな。

　願う。

　ならその「いつか」は案外、早く訪れた様子。

　パパにママが、ダブルイのご両親と共にアルテミスシティのポリスステーションへ到着した後で、噓みたいなことは起きてダブルイに見せつけていた。ふるったのはダブルイのお父様で、うんとダブルイを叱るどころかとても優しく抱きしめると出迎えてる。ダブルイがそんなに思い詰めていたなんて想像もしてなかったようで、むしろ謝っていたくらいだった。

　そりゃあもしかすると事故のせいでこの世を去ってしまうかもしれないと一度は覚悟したろうから、こうして元気でいてくれたなら魔法があろうとなかろうとそれだけで十分だったんだと思う。ともかくダブルイを思いやる姿は、そんな風にかけることのできる「魔法」があるんだってことをダブルイへ十分、示してみせたようだった。

　あたしが最後に見かけたダブルイは、別の誰かみたいにすっかり穏やかな顔をしていて、憑きものが落ちたようだったことが忘れられない。

　のみならずさすがアフトワブ社の社長さんよね。ザルの抜けた天井や、ホテルの割れた窓に荒らされた部屋の修繕を、ダブルイのお父様は約束してる。盗作のせいでタイソン女史がサイエンス協会から追放されると決まった時も、女史のおじい様と同じ部門へ招待したいと申し出てた。ついでにあたしへも、本当に呪文も、それを組み上げた魔法使いも見つかってはいないんだね、と確かめてる。

　はい。

　答えかけたあたしは、待って、と自分へそのとき問いかけていた。

　だってそれはずいぶんおかしな話で、研究の後ろ盾をしていたアフトワブ社なら、あたしのおばあちゃんが女史のおじい様と一緒に研究していたことを知らないはずがない。だのにわざわざ確かめる意味はといえば、呪文の行方を知りたいからじゃなくて本当は……。

　気づいたあたしは返す「はい」へ別の気持ちを込める。

　きっとこれはずっと続く二人だけの秘密ね。

　ダブルイのお父様もおかげで満足そうな笑みを浮かべてた。

　きっとこの先、マイクロマシン・ジェネレーターが実用化されることがあったとしても、凡庸な魔法を吹き込んだらそれきりの使い捨てタイプだろうと思えてならない。それでいいと思うし、それぐらいがちょうどいいに決まっていた。

　あたしがポリスステーションから解放されたのは、回収されたマイクロマシン・ジェネレーターの残留呪文とあたしの呪文の照合鑑定が終わってから。

　と言っても実際はすっかり使い尽くされたジェネレーターらから十分な魔法は採取できず、当のあたしも魔法をなくして採れやしなかったせいで証拠不十分での解放。一致していればあたしこそキブツハソンとか、イリョクギョウムボウガイとか、罪を負わなきゃならないところだったけど、ダブルイのお父様が壊れたあれやこれやを補償することになっていたせいもあって全ては口頭での厳重注意に終わってる。

　ダブルイとお父様がステーションの外へ出た時は、それはもうものすごい数の記者さんたちが詰めかけていてフラッシュの嵐が吹き荒れてた。ところがお世話になったお巡りさんへ頭を下げてあたしとパパにママが通りへ出た時は、ウソみたいに人っ子一人いない有様。

　とにかくシャトルステーションまでのタクシーを呼びに離れたパパはもう怒るとかがっかりするとか通り越してぶっきらぼうで、ママは放心しきるとあたしみたいに地球までパパに連れて帰ってもらうつもりでいた。そんな二人にも慣れてしまったあたしはといえば、もういつもとおり。手持無沙汰と通りの向こうをぼんやり眺める。バス停の小さな時刻表に隠れてこちらをうかがう頭に気づいて目を凝らした。めがけて駆け出す。

「オーキュ、どこ行くの」

「先にパパと行っていて」