第4話 【新しい朝】

コンコン、コン


「………」


コンコン、コン


「……はい」


「早朝に失礼します。お嬢様。お伝えしたい事がございます」


扉越しに聞こえた声は、執事の宮川さんだ。


「急ぎの用件ですね?」


「はい。申し訳ございません」


「分かりました」


『お嬢様』とはオーナーのサラの事だ。『奥様』と呼ばれるのを嫌がった、サラの我儘である。本当の『お嬢様』は娘のレイヤである。

宮川さんは先々代からの頼りになる執事だ。

穏やかなやり取りだが、部屋の電話を使っていない事と、何より先程のノックは緊急時のパターンであった。資産家であるローズ家には、それだけ生命を狙う敵が多いのである。


「レイヤ、動ける支度をしておきなさい。」


「わかったわ」


時間は午前4時を回ったところであった。この時期、夜明けまで後3時間はある。


サラは簡単に身仕度を整えると、ドアのカギを開ける。


「失礼します」


宮川さんはドアを閉めると、内側から更に3重のロックをした。


「ご報告いたします。4時間程前から停電、及び通信機器の使用が出来なくなっております。只今非常用電源に切り替えておりますが、通信機器は復帰しておりません。」


「続けなさい」


「上水道も供給されていないことも確認出来ました。現在貯水槽への供給を止め、検査しております。」


「テロの可能性はありますか。」


「状況から、テロの可能性は低いと見ております。」


「分かりました。」


「これをお使い下さい」


宮川さんは高性能インカムを二つテーブルに置く。ふと写真に目が止まり一礼した。


「柳を残しますのでお部屋から出られませんようにお願い致します。」


宮川の影からスッと柳が浮かび上がる様に現れ一礼する。


「後ほど朝食をお持ち致します」


そう言い残すと、宮川は急ぐでもなく退室していった。


サラは仕度をする為に奥の部屋へ走る。


レイヤは既に上下黒のアーミースタイルで武装までしていた。


「柳ちゃん。もう少し説明してくれる?」


「うん。夜中に空が紫に光ってね。電気が消えたの。スマホも電話も使えないから警備で非常体制をとったのよ。」


「その光は私も見たわ!」


「また襲撃だと思ったけど、形跡は何も見つけられなかった。昨日のゲストは監視しているから犯行は不可能。現在、ホテル外周を調査してるところね。」


「そう。現状、孤立させられた以上の被害は無いわけね。」


「宮川の報告を待ちましょう。」


ある組織との対立でパパは殺された。ママと私を守って目の前で。今回も彼奴等の犯行かもしれない。


でも、あの光は決して悪いものでは無いと、私は感じている。暖かな、パパみたいに優しい光だったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る