『光と影の鑑定人』 美術30億円の密室
ソコニ
第1話血塗られたオークション
プロローグ 「新たな一歩」- 探偵 御堂美咲の記録
神宮寺探偵事務所から独立して一ヶ月。銀座の小さな事務所で新たなスタートを切った矢先、一通の依頼状が届く。
クリスティーズ・ジャパンのオークション責任者、クレア・ウィリアムズからだ。モネの未公開作品「霧のセーヌ」の真贋鑑定を、第三者の立場で依頼したいという。
作品は防犯システム完備の特別保管室で24時間監視下にある。にもかかわらず、匿名の告発状が届いているという。「あの絵は贋作だ」と。
第1話 「密室の予感」- オークション責任者 クレア・ウィリアムズの証言
「この保管室は完全な監視体制下にあります」
クレアは自信を持って説明した。24時間稼働の監視カメラ、生体認証による入退室管理、赤外線センサー。出入りできるのは、クレア、主任鑑定人の山田優子、そして修復担当のマリー・ルノワールの3名のみ。
にもかかわらず、山田が「絵具の様子が昨日と違う」と報告してきた。しかし、監視カメラには不審な動きは一切記録されていない。
そして事態は思わぬ方向へ。主任鑑定人の山田が、保管室で毒殺体となって発見された。防犯システムは正常で、不正アクセスの形跡もない。
完全な密室殺人。そして、「霧のセーヌ」の真贋を巡る新たな疑惑。
第2話 「揺らぐ証拠」- 修復師 マリー・ルノワールの証言
絵画修復の専門家として、私はこの作品に違和感を覚えていた。
モネの真作なら、下層に特徴的な素描の跡が残っているはず。紫外線検査でそれは確認できるはずだった。
しかし、山田さんは最後の検査を一人で行うと言い、その直後に...。
御堂探偵の「光の入射角による分析」という提案に、私は心を揺さぶられた。それは、かつて師匠から教わった特殊な鑑定技術だった。
第3話 「消えた90分」- 美術商 ヴィクトル・イワノフの証言
私は「霧のセーヌ」の売却を依頼された代理人だ。オークション予想額は30億円。
確かに、昨日の午後2時から3時30分まで、システムメンテナンスで監視カメラは停止していた。だが、その間も警備員が常駐していたはずだ。
なぜ山田が死に、絵が贋作にすり替えられたのか。いや、そもそもすり替えられたという証拠はあるのか。
第4話 「光と影の対話」- 探偵 御堂美咲の調査
私は保管室の光源に注目した。蛍光灯の位置、自然光の入り方、そして...美術品専用の特殊ライトの角度。
山田さんが最後に残したメモには、「光が教えてくれる」という意味深な言葉が。
そして、防犯カメラの映像に映る影の動きが、決定的な矛盾を示していた。
第5話 「封印された技法」- 神宮寺竜司の推理
「美咲、君の光の分析は正しい」
私は顧問探偵として、この事件に一つの見解を示そう。
犯人は修復師のマリー・ルノワールだ。彼女は亡き師匠から受け継いだ特殊な修復技術で、贋作制作のスキルを持っている。
そして、システムメンテナンス中の90分。これは完璧なアリバイトリックだ。
しかし...。
第6話 「母なる光」- 探偵 御堂美咲の推理
神宮寺先生の推理は、今回も惜しくも外れました。
犯人は、オークション責任者のクレア・ウィリアムズ。
決め手は三つ。
一つ目は、防犯カメラに映る影の動き。メンテナンス前後で、「霧のセーヌ」に当たる光の角度が微妙に異なっていた。これは絵の位置が変えられた証拠。
二つ目は、山田さんの最期の言葉。「光が教えてくれる」。これは、特殊ライトの角度を変えることで、贋作の証拠が見えるというメッセージだった。
そして三つ目。クレアの母は、20年前に破産した美術商。「霧のセーヌ」の元々の所有者でもあった。彼女は母の復讐のために、本物の絵を持ち去り、完璧な贋作とすり替えた。
システムメンテナンス中の90分は、まさに完璧な密室トリック。責任者である彼女にとって、システムの一時停止など造作もないこと。そして、その間に山田さんは、真相に気付いてしまった...。
エピローグ 「真実の行方」
クレアは全てを認めた。本物の「霧のセーヌ」は、母が隠した場所で見つかった。
「母は、不当な取引で絵を奪われ、人生を破壊された。私は、母の名誉を回復したかっただけ...」
母娘の愛憎が生んだ贋作事件。そして、その闇に気付いてしまった鑑定人の死。
芸術とは、時に光のように人を照らし、時に影のように人を惑わせる。
事件の後、神宮寺先生は言った。
「美咲、君の『光の目』は、確実に進化している」
その言葉に、私は静かに頷いた。これも、芸術と探偵の道を共に歩んできたからこそ。
そう思った矢先、新たな依頼が舞い込んできた。今度は、肖像画専門の画廊で起きた失踪事件...。
-完-
『光と影の鑑定人』 美術30億円の密室 ソコニ @mi33x
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