雷装戦士Ωストライダー
清泪(せいな)
走れ、雷光。お前の目指すその先へ。
オレには、ヒーローがいる。
だからこそ、オレは今ブチ切れている。
自身でも抑えられないほどこの身体は怒りに満ち溢れ、目の前に立つかつて人間だった、かつて友だった男を殴りたくて仕方がなかった。
「永倉ぁっっ! テメェは最低な男だっっ!」
かつて永倉と呼ばれたソイツは、背中に大きな翼を持ち、頭にはいくつもの角が生えていた。
硬質な黒い腕の先から、触手の様なモノを伸ばしオレを手招きしている。
「アァーアァー……まだ、しっくリと来ないナァ。私ハ、ちゃんと魔物になれたカァ、摂津?」
口元は動かないのに、その声はオレに届いた。
まともに喋れてもいないのに、オレの名前だけはハッキリと言いやがる。
「さぁ、実験をシヨウ。私が造り上げたシステムが、どれほどの物か、どれほど君がそのシステムの力を引き出せてイルカ。実験をシヨウ」
永倉は当たり前の様な動作でその触手でオレを殴った。
弾けるような音が響き、オレは研究室の壁に叩きつけられる。
資材が崩れ、埃が舞った。
全て、馬鹿らしい話だ。
オレが求めていたのは、ヒーローで正義だったのに。
永倉が求めていたのは、力と科学の発展、そして、栄誉だった。
「雷っ……装っっ!!」
ベルトのバックルを叩き、オレは倒れた身体を起こし立ち上がった。
バックルからナノマシンが排出され、オレの全身を包み出す。
ライダースーツに良く似ている見た目の軽さとは裏腹に確かな装甲を誇示する、メタリックブラックのフルアームドスーツ。
Ωを象るフェイスアーマーに顔を覆い尽くされ、オレは、オレが憧れた唯一無二のヒーローへと変身する。
全身から雷光をスパークさせ、オレは右腕を眼前に構えた。
右手首についたアクセルブースターを左手で勢いよく捻る。
バイクのエンジンの様にアクセルブースターが唸りを上げ、オレは走った。
「行くぞっっ、永倉ぁぁっっ!!」
右腕を大きく引き、弓のように力を溜める。
右手首、アクセルブースターから眩いばかりの雷光が迸る。
距離にして数歩の時点で、オレは左足を深く踏み込んだ。
研究室の床は、メキッ、と音を立てひび割れた。
オレはその力の反動を使い天井すれすれまで跳び上がった。
「突き刺されっっ、雷電っっ!!」
雷の矢を解き放つ。
上半身を捻り、重力に加速する正拳を繰り出す。
永倉の左肩に突き刺さるオレの雷電、右拳。
永倉の身体を突き抜け、地面へと雷電は走る。
しかし、永倉はそれをものともしなかった。
右の触手でオレの身体を掴み、宙へと持ち上げた。
「摂津っっ!! そんなものかっ? そんなものなのかっっ!? 私と君の渇望は!」
触手が締め付け、スーツが軋む。
オレに走る痛みなど、この際気にしてる場合じゃない。
オレは、オレを掴む触手に左手首のアクセルブースターを滑らせる。
アクセルブースターが回転し、雷光を放つ。
「んなわけねぇっだろっっっっ!!」
左手を刀に、手刀を繰り出す。
掴んでいた触手をぶった切る。
派手に体液をぶちまけ、触手は空を舞い、オレは地面に着地した。
しゃがみ、地面に両手をつける。
左足首についたアクセルブースターを地面で滑らす。
逆立ちの要領で、両手を軸に立つ。
足を上げる勢いを殺さず、そのまま雷光放つ左足の踵落としをお見舞いする。
「叩っ切れっっ、雷斧っっ!」
永倉の右肩から腕をもぎ取る雷斧。
同時に、今度は永倉の身体で滑らし右足首のアクセルブースターを起動させる。
逆立ちから前に倒れ込み、踵落としを叩き込む。
その勢いのまま両足を着地させ、ブリッジの体勢を取る。
そして、再び蹴り上げるように逆立ちへと戻った。
右足は雷光を放ち、永倉の左腕を切断した。
両腕を奪った事に余裕を感じたオレは、油断した。
オレの身体は永倉に蹴られ、再び研究室の壁へと叩きつけられる。
特別頑丈にできた壁なだけに、衝撃は大きかった。
「悪魔というのはスゴいなぁ、摂津。私達が倒そうと、力でねじ伏せてやろうと、闘い続けてきた力。こうして、我が身を持って体感すると想像以上だよ」
表情は変わらないのに、永倉は笑ってるように見えた。
雷光にかろうじて切断されなかった背中の翼が大きく広がると、焼け焦げた切り口から腕が生えてきた。
それは、これまでの闘いで何度と見てきた光景だ。
人が悪魔に憧れて、悪魔になってしまったのも、オレは何度と見てきた。
わかっている。
もう、後戻りはできない。
永倉は自身の命を懸けて、このシステムを試しているんだ。
このオレを試しているんだ。
ベルトのバックルを叩く。
身体中から雷光が迸る。
JAMシステムが雄叫びを上げる様に、閃光を放つ。
一撃、オレの決意の一撃。
一撃、永倉との最期の一撃。
オレは、走った。
オレの身体は速さを増し、稲妻そのものになった。
雷装戦士Ωストライダー 清泪(せいな) @seina35
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