暖かいと眠たくなっちゃうね
いつものように勇太が真唯を見つけると声をかけていた。少し前と違ってしっかり眠れているらしい。寝不足気味な顔もかわいかったがやっぱり元気な方が良い。
「勉強ってやっぱり大変。あれ以降全然やってない」
睡眠時間を削ってまで勝とうとする真唯の姿を想像すると微笑ましい気持ちになる。
「まぁ確かに大変だよね」
勇太にはいつも元気な姉がいる。精神的支柱があるだけでも心構えが違う。
「僕の姉勉強教えるの上手だし、教えてもらえば?」
「いや、迷惑はかけれないから」
勇太の提案には乗ることはできない。勇太ならともかく、その姉とはほとんど関係性がない。
「そっか」
勇太が前を向きながら言葉を返す。
真唯の髪は結ばれていない。長く、綺麗な白髪が真唯の動きについて行くように揺れる。
今更だがかわいすぎるな。
学校に着き、勇太はしっかりと授業を聞いてノートを取っていた。しかし、真唯は寝てきたはずだというのにしっかりと眠っていた。今は暖房がついていて暖かい。
小さく口を開けてたまに口を動かしている。机と挟まれた頬は見るからに柔らかい。
口が狭くなり、また開く。その動きがそれなりの高頻度で起こる。
さすがに何を言っているかは聞こえないが、何かしら寝言を言っている。
あまりにも幸せそうな顔で寝るものだから勇太もつい見入ってしまう。
もう授業なんかどうでもいいのではないかという気になってくる。
今教師が証明終了とか言い出しても無視できる自信がある。
しかし、まぁ、ラブコメならそろそろヒロインがデレてきてもいいと思うんだよな。一方的な愛でしかない。何も言ってないし当然ではあるけど。
真唯が小さくあくびをして目を覚ます。目を覚ましてからも授業を全く聞かずに眠そうな目をしていた。授業はあと10分程度しかないのだが、また眠ってしまった。
やっぱかわいい。
授業が終わり、勇太は一応次の準備を済ませて真唯の下へ行ってみると、まだ眠ったままだ。
勇太が真唯の肩をつんつんと突く。
「依琴さ〜ん授業終わったよ〜」
「ぅ〜……むにゃ」
真唯の手がゆっくりと勇太の手首へと向かう。
にしてもむにゃなんて言う人いるのか。
「……?依琴さん?」
「…もぅちょっとぉ………」
真唯は夢の中にいる。多分勇太のことを妹か誰かだと思っているのだろう。
思ったそばからこの展開か。都合いいな。
「い、いや…起きて…」
勇太は葛藤していた。このまま起こさなければこのまま掴んでいてくれるのか。
…さすがに起こそう。
「ほら、依琴さん。起きて」
目を覚ました真唯は今自分の手が肩に伸びているのに気が付いた。
「あぁ…ごめん」
意外と反応が薄い。おそらく恋愛対象として見られていないのだろう。悲しきかな。
「授業…は…終わった…?次は………」
いまだに眠たそうな目をしている真唯はすぐにでも寝てしまいそうだ。
「ほら、伸びでもしたら?」
真唯は座ったまま固まった筋肉をほぐす。
真唯が小さく声を漏らす。無防備な姿に胸が少し高鳴る。
これはもうデレと考えてもいいのではないのだろうか。貴重なデレを記憶に刻み込んで当分のモチベーションとすることにした。
本当に突発的な思い出しだが、勇太はハロウィンの存在を完全に忘れていた。夢依が何かしら言い出さなければ大抵の行事は忘れている。
次はクリスマスとかか。冬休みもそろそろだ。
残念なことに未だに冬休み会いたいなんて言える勇太ではない。冬休みも姉と過ごすことになる。
それはそれで楽しいからいいだろう。
夢依は未だに勇太がサンタを信じていると思っている。律儀な夢依は気づいていようがいまいがクリスマスプレゼントを枕元に置くだろうが。
とってもかわいい。
クリスマスイブ。それは普通恋人と過ごすものではないのだろうか。
夜、どこかしらから夢依はサンタ帽を取り出してかぶっていた。
これならいっそ告白しておいたほうが良かったのではないのだろうか。ワンチャンないかな。
…ないな。
そう言った結論に落ち着いた勇太が眠りにつく。
隣に夢依はいない。隣に居てはプレゼントを置けないからね。起きると隣にいるのはあからさますぎる。
プレゼントが何かは正直なんだっていい。
姉からのプレゼントというだけで嬉しいものだ。
朝起きると案の定夢依は隣にいた。下手に抱きつかれると窒息死してしまいそうだ。少し視線を動かすと寝ている時に取れたであろうサンタ帽がクシャクシャに放置されていた。
丁寧に包まれた物が枕元に置かれている。
勇太が包みをはがすと中には数冊の本。勇太がいつも読んでいるシリーズだ。
「あれ…勇太…もう起きてたの?」
少し遅れて起きた夢依は少し残念そうな顔をしていた。真唯と違って感情の起伏が分かりやすくていい。
「待ったほうがよかった?」
「いや…別にいいんだけど」
夢依が微妙な反応をする。
「まぁいいや。…何があった?」
知っているであろう夢依は何故か演技をする。勇太に対して嘘をつくのが得意ではない夢依の嘘は分かりやすい。
夢依がわざわざ覗き込んでまで確認する。
「ホンカー。ヨカッタネー」
あまりにも棒読みが過ぎる。嘘が下手にも程がある。
「ありがと」
「エー、ナンデワタシニイウノー。サンタサンニイイナヨー」
これなら黙っていたほうがマシだ。
勇太は試しに夢依の頭を撫でてみる。
「えへ気付いてた?」
かわいい反応だ。頬を朱に染め、目をそらす。にっこにこだ。
「そりゃもちろん」
「むふーゆうただーいすきー」
夢依は勇太に飛びつく。暖かめな布団の中から空気が出てくる。
冬は寒い。しかし今は暖かい。全くやる気が起きないため、そのまま眠ることにする。
なんとか課題は終わらせたが、それ以降何もやる気が起きないまま今年の終わりが近付いてくる。
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