終章 3 はじめてのファンたち

「あれ?」

 ふと、気付いた。ちょっと離れた向こうに、女の子2人が寄り添って、何かこっちにスマホ向けている様な気がする。

「ねぇ……」

 ボクは他の人に声かけ、そっちの方を小さく指で示す。

「…………」

 思わず山本さんが立ち上がろうとするのを、花江さんが制して自分が先に動いた。ささっと小走りで、その達の所まで行って、何か話している。


「……」

 山本さんは何か言いたそうにしていたが、

「ここは花江さんに任せましょ。本当にヤバそうな時は、お願い」

と、お姉ちゃんに言われて、肩の力を抜いた。

 暴力的厄介事には、山本さんはとても頼りになると思うが、その代わり口下手で不器用だから。


 あ、でもあの人達、さっき会場でキャーキャー言っていた人の様な気がする。

 しばらくして花江さんは、こっちに戻ってきた。その達も連れて。


「ごめーん。隠し撮りはやめてって言ったついでに、ちゃんと声かけてくれたら撮ってもいいよって言っちゃった。いいよね?」

「あー……」絶句する山本さん。

「いいんじゃない? 悪用しなければ」と、お姉ちゃん。

 こういう場合の悪用って何だろう?


 と、そのタイミングで

「あー!、こんな所にいるやん。ってみんな、おそろいして」

 破れジーンズに、狙っているのか豹柄のジャンバー姿の紗妃さんが、こっちを見つけてやって来た。


「「あー!!」」

 その達は紗妃さん見て、びっくりしている。

 その感じは、紗妃さんが金平糖の精だったことに気付いたという事だろう。紗妃さんは、ここにいる自分達より1クラス上の大物だし。

 あ、とりあえず誤解無い様に説明しないといけない。


「えと、さっきの舞台観て、ファンになっちゃったみたい。写真、撮ってもいいか?って」

「ファンって、ウチの?」

「えーっと、みんなの」

 そう言うと彼女達も、うんうんとうなづいた。

 雰囲気に飲まれたのかな?


 とりあえず、とっさに声にでちゃったけど、隠し撮りしようとしてたは黙っておいた方が良さそうだよね。紗妃さん正義感、強いタイプだから。


「そーかそーか、しゃあないなぁ」

 紗妃さんは、そう言って、その達からスマホを取り上げて、こっちに渡した。


「よし、ほんじゃ」

 そう言って、その2人の間に入って「こう」って、手の平内側に胸の位置で交差させて、2人にも同じポーズをする様に指示した。

 戸惑いながら、そのポーズを取る2人。

「えーよ」

 そう言って紗妃さんは、こっちを向く。

 つまり、取り上げたそのスマホで、この写真を撮れ、と。

 仕方なく、花江さんはそのスマホで3人の写真を撮った。


「じゃ、皆の集合写真もいるか?」

 紗妃さんは、そのスマホを彼女たちに返して、今度はボク達集まっているテーブルの中心に来て座った。順番的には、お姉ちゃん、ボク、花江さん、紗妃さん、山本さん、キーちゃんで並んでいる。

「え、いいんですか?」

 考えてみたら、さっき花江さんの「いいよね?」の後、誰も「いいよ」とは言っていない。でも、既に「ダメ」などと言っていい雰囲気ではない。まぁボク的には良いけど。

 横を見たら、お姉ちゃんも苦笑いしている。まぁOKという事だろう。


 彼女達は、何枚かその集合の写真を撮った後、明らかにこっち、ボクとお姉ちゃんの2ショットだろう写真を何枚か撮っている。

 やっぱり、ボク達を撮りたかったのだろうか。2人並んでいて、良かった。


「ところで、あの……」

 こっちの方に向かって話しかけられた。

 ボク? お姉ちゃん?


「あの、カーテンコールの時に軍服の胸のところが濡れていたんですが、アレって……」

 あ~、やっぱり気付かれていた。


 ボクはそれを聞いて、顔を真っ赤にしたし、お姉ちゃんも苦笑いしていた。

 返事はしなかったけど、肯定で取られたよね。


 2人向かい合って、うふうふ 笑い合っている。

 まぁいいか、それで2人を幸せにしたなら。


 その女の子達は、何度も何度もお辞儀して去って行った。


嗚呼ああ、これを機会に、彼女達もバレエ好きになってくれたら良いなぁ」

 紗妃さんは、手を振りながら、しみじみと呟いた。

 ある意味、紗妃さん的にもバレエの促進活動の一つだったのかなぁ。


「来年も、また来てくれたら良いですね」

 そう何気なく言ってしまったが、その言葉にネギお姉ちゃんは言葉を詰まらせた。

 来年の発表会には、もうお姉ちゃんは出ないし、ボクもそんな目立つ役は貰えない可能性が高い。

 いきなり沈んでしまったボクを察してか、お姉ちゃんは肩をパンパンと叩いて

「次まで、まだ1年あるよ。それまで頑張れ!」

と、わざと明るく励ましてくれた。

 そうだよね。まだ来年の事だから、それまでやらないといけない事、たくさんあるよね。


 気を取り直してボク達もまた、お昼を再開し始めた。 



  ――― 終章 4 に、続く ―――

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