見ていたから……だから、本気だって知ってる。

アレクサンドル

見ていたから……だから、本気だって知ってる。




 私はいつもそうだ。


  

 どんな時も逃げてばかりで勉強や対人関係……いつも適当だった。そう思っていた。




 「見ていたから」




 彼にそう言われるまでは。





ーーー





 私の名前は三好梢みよしこずえ。特に目立ったとこはない。少しモテるくらいかな。保育園の頃から高校二年の今まで十回ちょっと告白されてきた。



 それで、



 いきなりだけど短所は毎日が適当な所だ。特に部活も所属しておらず、勉強だってなんとなく、誰かと遊ぼうとか出かけようとかも特には決めておらず毎日自堕落に生きている。





 「三好」

 「ん?」




 そんな私に構ってくれるようになったのは高校入学して一年の時、一緒のクラスになった男子、久間祐正きゅうまゆうせい。キッカケは席が隣だったから。




 「昨日のライン見てくれよなー(笑)」

 「ん?………あ、ごめん。気づかなかった。通知オフにしてたわ」

 「ちゃんと見ろし!」

 「めんごめんご」




 久間はいつも私に構う。授業中、休み時間、放課後……必ず声を掛けてきたりちょっかいを出してくる。





 「何で私に構うの?」




 高一の夏休みに入る終業式の時、ふと聞いた。




 「え?…………好きだから」

 「」



 

 祐正はさも当然というように言ってきた。




 「え……好き?」

 「……おう。俺は…三好が好きだ////」

 「………あ………」



  

 私は乾いた声しか出なかった。















 「こーずえっ!!」

 「何?」




 私と祐正は付き合い始めて一年以上が経ち高二の冬になった。



  


 「梢ー、昨日はマジで撃ちまくってたよなー(笑)」

 「なんかむしゃくしゃしたからオーバーキルしたかった」

 「うわー、こういうのが社会に出たら面倒なことになりそうだわー」

 「面倒なことって?」



 「仲間内で揉めて会社をクビになる」



 「うるせ」





 祐正とそんな話をする時間が私にとって慣れた普通の時間となっていった。










 そして…高3の卒業式。




 「祐正」

 「ん?」

 「何で私が好きなの?」

 「え?」




 最後の高校生の日。私は誰もいない校舎裏で祐正に聞いていた。




 「別に特に理由はない」

 「……………」



  

 「見ていたかったから」




 「」

 「梢を見ていたいと思った」

 「」

 「何つーかな……ゾッコンは言い過ぎだけどさ……でも、梢が何かしてる所を見ていたいって………その、梢が本気出してる所を見たいって//////」

 「別に私は本気で何かしてる所なんて……」

 「出してるじゃん」

 「え?」





 「俺と接する時は"素の本気"じゃん(笑)?本気で俺と関わりたいって思ってるんじゃん?」





 「」



 祐正は"ニシッ!!"と歯を見せて笑い、




 「見ていたから」




 最後にそう言ってきた。






 「」






 その時の私は……、




 「………それじゃあ今後も責任取ってよ//////?」

 


 こんな脅迫じみたことしか言えなかった。



 





 








 25歳の秋。



 「こずえー」

 「ん?」

 「近いんだけど」

 「ダメ?」

 


 私と祐正はそれぞれ大学を卒業し社会人になった。



 「ソファーの隣に座って抱きついてくるのはちょっと近すぎるわ。俺、新聞読めない」



 そして、同棲をしていた。



 「私は常に本気で接してるだけだよ?私の本気が嬉しいんじゃないの?」

 「それを引き立てに使うなよ(笑)。脅しの道具にさせる為に言ったんじゃないんだけど?」

 「えーー?」

 「はぁ……仕方ねーな(笑)」

 



 祐正は折れて、結局私とイチャイチャしてくれた。



 

 そしてこれが……"結婚式前日"のことであり、







 祐正と"最後に会った"日でもあった。

















 『久間さんの自宅ですね?』

 「はい」

   



 結婚式当日の朝。警察から電話があった。その時私は早朝に走りにいっていつもより帰ってくるのが遅い祐正を心配していた。




 『非常に申し上げにくいことですが………久間祐正さんが亡くなりました』





 「」




 

 横断歩道で信号無視の車に轢かれたらしい。



 「……………」



 私はそこから記憶が……、




 「はぁ……はぁ……ぐっ!!!!!」




 曖昧になってしまっていた。















 「梢、これ」

 「」




 祐正の葬式の前日。




 祐正と私の共通の女性の友人からあるDVDを受け取った。




 「これさ、祐正が結婚式かその後かで見せたいって言っていた梢に向けてのメッセージの動画なんだ。祐正が絶対に見せたいって言ったやつ」

 「……………」





 その日の晩。



 カチャ。



 私はDVDを見始めた。





 『あ、あーー……これ撮れてる?大丈夫?』





 そんな祐正の間抜けな声が聞こえてくる。




 『えーーと……三好梢さん。俺はお前が好きだ。どこが好きかと言うと……えーー、んーー……その……』




 祐正は恐ろしく段取りが悪かった。




 『まぁ、とにかく全部好きなんだ』

 「」

 『それで言いたかったことがある』

 「」





 『見ていたから』





 「」




 祐正は卒業式の時に言ったあの言葉をまた言った。




 『俺がこんなに好きだって言うのはお前を……梢をずっと見ていたから…本気にさせたかったから。そう言ったと思う』


 

 「」



 『でも後一つ理由がある』



 「」



 『…………』






 祐正は黙ってしまった。何だ?





 『えーーと……これは言っていいのか分からない俺の我儘だけど……俺も言われたかった言葉があるから』

 「」

 『………それは…』


 

 「」

 








 『─────』








 「」

 








 

 





 『今日は息子の祐正に会いに来てくださり本当にありがとうございます』




 祐正のお父さんがマイクで参列者に語りかける。




 「」



 

 私は喪服で祐正の葬式会場の椅子に座っていた。




 そして、



 

 祐正の顔を最後に見る番が来た。







 スタ…スタ…スタ…。











 私は祐正の棺前に立ち、顔を見る。




 「」



  

 何でこんなことになってるんだろ……。祐正は私の本気をずっと見届けるんじゃなかったのかな?



 私はしばらく頭がグルグルしていた。





 「……ふぅー………」





 そして息を吐き、私は祐正の頬に手を伸ばす。





 






 「"見ていたよ"?」











 私は彼の棺の前でこれを言って……"笑顔"を送った。








 彼の頬はとても冷たかった。でも、




 『しゃあーー!!!!やっと聞けたな(笑)!!!』




 そんな声が聞こえてきた気がした。







 「うぐっ…!!!!!!」









 そして私は気づいたら座り込んで動けなくなっていた。





 祐正。




 私は本気で生きてくから。




 今まで……、



 ありがとうね。









 大好きだよ?









 「うぐっ!!ぐふっ……!!…ぐっ……!!」




 私は記憶にないくらい泣きまくった。






 あぁ……。


 私は感じた。





 確かに……本気だな。





 完

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見ていたから……だから、本気だって知ってる。 アレクサンドル @ovaore

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