41話 自宅謹慎とまさかの訪問

「はぁ……」


 俺はベッドに寝転がり、天井を見つめる。二人三脚での妨害や麗奈を監禁、悠斗に暴力を振るったという事で一ヶ月の自宅謹慎。他の生徒も見ていただろうに城咲玲司なら、絶対にやりかねないとか思われてんだろうな。


 まぁ、学校に行かなくて済むのは楽といえば楽だが、そういう問題じゃない。まただ。またこんなことになった。俺は頭を抱える。


 どう考えても、あの騒動はただの偶然じゃない。悠斗単独の動きとも思えない。AIの映像と言い、誰かが裏で糸を引いてる。それが誰なのかを突き止めなきゃ、また同じことを繰り返すだけだ。


 だが……どうすればいい?とりあえず考えをまとめようとしたその時——


 ベッドの上のスマホが振動する。画面を見ると、成田の名前が表示されていた。


「……成田?」


 受話ボタンを押すと、間髪入れずに軽い声が飛び込んできた。


『よぉ、お前今、絶賛謹慎中だろ?』

「……なんで知ってんだよ」

『そりゃあ噂は広まるもんさ。お前が麗奈ちゃんを閉じ込めて、悠斗をボコボコにした極悪人ってな』

「……はっ、世間の評価ってのは実に都合よく作られるもんだな」

『まぁな。で、どうするよ?』

「どうするも何も、俺は何もできねぇよ。自宅謹慎ってのは、言い換えりゃ監禁みたいなもんだ。下手に動いたらそれこそ終わりだろ」

『おいおい、俺がお前をからかって終わるわけねぇだろ。……何があったか、全部話せよ』

「……え?」

『お前があのままやられっぱなしで終わるタマじゃねぇことくらい、俺は知ってる。バックに誰がいるのか、気にならねぇわけねぇよな?』


 俺はしばし黙った。そして、ゆっくりと口を開く。


「……聞いてくれるか?」

『ああ、全部な』


 俺は体育倉庫での出来事、麗奈の不可解な態度、悠斗の突発的な襲撃、女子たちの演技じみた悲鳴——そして、麗奈が何者かに脅されていると口にしたことを話した。


 成田は黙って聞いていたが——


『……お前、これヤバいな』

「だろ?」

『悠斗や麗奈だけならまだしも、高垣まで絡んでて、その裏に誰かいるかもしれない……。これ、お前をハメるために相当手の込んだ仕掛けを作ってるってことじゃねぇか?』

「俺もそう思う。AIなんて高垣って奴が作れるわけないしな……」

『……よし、分かった。とりあえず俺の方で調べてみる。誰が裏で糸を引いてるのか、何かしらの証拠を掴んでやる』

「成田、お前……」

『バカ言え。面白そうなネタを放っておくほど、俺は暇じゃねぇんだよ』


 そう言って笑った。だが、俺の中には嫌な予感が渦巻いていた。


「……気をつけろよ」

『言われなくても分かってるって』


 電話が切れると、俺は深く息を吐き、スマホをベッドに投げ出した。


 さて、何もすることがねぇな。とりあえず、二度寝でも決め込むか……。


 俺はベッドの中に潜り込んで目を瞑った。だが、胸の奥に広がる不安は、どうしても拭えなかった。





 

 目が覚めた時、部屋のカーテンの隙間からオレンジ色の夕焼けが差し込んでいた。


「……やべ、寝すぎた」


 スマホを見ると、もう夕方の五時を回っている。ちょっと横になったつもりが、まさかこんなに寝てしまうとは。


 仕方ない。晩飯でも買いに行くか——そう思い、布団から起き上がろうとした瞬間に玄関のチャイムが鳴った。


「……誰だ?」


 一瞬、成田か? と思ったが、いや、あいつが律儀にチャイムを鳴らすタイプとは思えない。警戒しつつインターホンを覗くと——


「——って、は!? 綾乃!?」


 画面には私服姿の綾乃が立っていた。白いコルセットスカートを着ていて、いつも制服姿しか見ていない俺は思わず心臓が跳ね上がっていた。


 いや、なんで綾乃がここに!? いや、住所はクラスの連絡網で知ってるだろうけど、それはそれとして、なぜ今日、このタイミングで!?


 考えている間にもチャイムは再度鳴らされ、俺は慌てて玄関へと向かう。


「えっと……お、おう、どうした?」


 ドアを開けると、綾乃が少し眉を寄せて俺を見つめた。


「城咲さん……もしかして、ずっと家にこもってるんじゃないですか?」

「まぁ、謹慎中だしな……」

「やっぱり……。心配になったので、様子を見に来ました」


 綾乃は困ったような表情を浮かべながら、そっと視線を落とした。そして、少し戸惑った様子で、静かに口を開く。


「……城咲さんは、女の子を監禁したり、お兄ちゃんに暴力なんて振るわないですよね?」


 そう言われた俺は息をのむ。


 綾乃のその問いかけには、不安と迷いが入り混じっていた。信じたい。でも、少しだけ疑ってしまう——そんな感情が透けて見える。


 俺は小さく息を吐き、まっすぐ彼女を見る。


「……篠宮、俺はそんなことする人間じゃない。信じてくれ」

「……!」

「それに、今回の件は全部仕組まれたことだ。俺がやったことなんて一つもない。詳しく話すから、ちゃんと聞いてくれ」


 綾乃はしばらく沈黙していたが、やがて小さく頷いた。


「……わかりました。聞かせてください」


 俺は体育倉庫で起きたことを、順を追って説明した。麗奈が何者かに脅されていたこと、悠斗が無理やり襲い掛かってきたこと、そして、それを女子たちが一方的に俺の暴力行為だと証言したことを綾乃は真剣な顔で話を聞いていた。


「……良かった」


 ふっと、安堵の表情を浮かべた。


「城咲さんがそんなことをするはずないって、私は思っていました。でも、もしも……万が一って考えたら、少しだけ怖くなって……ごめんなさい」

「……気にすんな」

「でも、聞けて安心しました」


 そう言って綾乃は微笑む。——その瞬間だった。


「……ところで玲司くん」

「ん?」

「これ、何ですか?」


 綾乃が指差したのは、部屋の隅に積み上げられたカップ麺の箱と、コンビニ弁当の空き容器の山。


「ちょっ、お前見ないでくれ……」

「城咲さん……これ……」


 呆れ顔の綾乃が、ため息をつきながら腕を組む。


「……城咲さん、不健康すぎます」

「いや、ほら、買い物行くのもめんどくさくて……」

「ダメです。もう決めました。私が夕ご飯を作ります。なので、今から買い物に行ってきます!」


 綾乃はピシッと指を突きつける。


「——は?」

「だから、城咲さんはここでおとなしく待っててください」

「いやいやいや、待て待て待て。急に何言い出してんだ?」

「だって、こんな食生活、見過ごせませんよ!」

「いや、それはそうかもしれんが……」

「決まりです。では、行ってきます」


 そう言って綾乃はさっさと玄関に向かう。——いや、マジか!? 本気かこいつ!?


「ちょ、待て! せめて買い物代くらい——」


 俺は財布を取り出し、綾乃に数千円を押し付ける。


「これ使え。で、お釣りは好きにしていいから」

「えっ、でも……」

「いいから。作ってもらうんだから、これくらいは当然だろ」

「……城咲さんって、意外とそういうところは律儀なんですね」

「なんだその意外とって」

「ふふっ。じゃあ、お言葉に甘えて……行ってきますね」


 そう言って、綾乃は笑顔で外へと出ていった。


 俺は、なんだかとんでもない展開に巻き込まれた気がしながら、彼女の背中を見送るのだった。


——— ——— ——— ———


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