38話 綾乃のお弁当を食べる&動き出す刺客

 昼休憩。教室に戻った俺と成田はいつものように弁当を広げていた。


「いやー、今日の弁当、母ちゃんが頑張ったらしくてさ。唐揚げがデカいんだよ」

「へぇ、じゃあ食いごたえありそうだな」


 そんな会話をしていると、突如、俺の視界に影が差し込んできた。


「城咲さん、今日もお弁当作ってきました。一緒に食べませんか?」


 顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべる綾乃がいた。


「お、おう。ありがとな」


 俺がそう答えると、綾乃は勝手に机をガタガタと引き寄せ、俺の隣にぴたりと座った。いや、至近距離すぎないか?


「ほら、城咲さん。今日のおかず、どうですか?」

「……あ、ああ、うまい」


 ひとくち頬張ると、甘めの卵焼きが口の中でふわっと広がる。味付け、俺好みに寄せてきてるな……。


「よかった! 今日も作った甲斐がありました!」


 綾乃は嬉しそうに笑い、俺の方をじっと見つめる。うん、近い。めちゃくちゃ近い。


「くそぉ……。なんでアイツが篠宮さんお手製のお弁当を……」

「しかもなんか、距離近くね……?」

「処す?処す?」

 

 教室にいる男子たちが、歯ぎしりしながらこっちを見てて食べずらいんだけど……。


「ちょっと待て、篠宮。お前は自分の弁当食べないのか?」

「城咲さんが食べてくれるなら、それだけで満足です」

「お前はどこのおかんだよ……」


 そんな俺たちのやり取りを見ていた成田が、ニヤニヤしながら口を挟んできた。


「へぇ〜、ラブラブだな、お前ら」

「はぁ!?」

「えっ!?」


 俺と綾乃の声が重なった。


「ち、違うからな!?  俺はただ弁当を食わせてもらってるだけで……」

「そ、そうですよ!  別にそういうのじゃ……」

「いやいや、言い訳が完全にカップルのそれなんだよなぁ」


 ニヤニヤが止まらない成田。俺と綾乃が同時に睨みを利かせるが、全く効いていない。


「くっそ、成田、お前は黙ってろ!」

「ははっ、やれるもんならやってみろよ」

「……おい、成田。篠宮の弁当、食っていいぞ」

「まじで!? じゃあ遠慮なく!」

「城咲さん!?」


 俺が成田に弁当を差し出すと、綾乃が慌てて弁当箱を抱え込んだ。


「これは城咲さんのために作ったものですから! 成田さんにあげるつもりはありません!」

「おお、すげぇ独占欲……」

「なんだと?」

「なんでもないです」


 俺が睨むと、成田はヒュッと顔を背けた。


「ふふっ。仲がいいんですね、城咲さんと成田さん」


 呆れたように笑う綾乃。


「いや、これは仲がいいとかじゃなくてだな……」


 俺が言いかけたところで、成田がニヤつきながら肩を叩いた。


「お前ら、もう付き合っちまえよ」

「うるせぇ!!!」


 今日の昼休みも、やっぱり騒がしいのだった。





麗奈視点


 「い、痛ぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 悠斗の叫び声が救護班のテントに響き渡った。


「はいはい、じっとしてなさいって」


 笑いを噛み殺しながら、私は彼のすねに消毒液を塗る。赤くすりむけた傷にシュワッと泡が立ち、悠斗は椅子の上でぴくんと跳ねた。


「お前、絶対わざと多めにかけただろ……!」

「そんなことないって。ただ、ちょっと……反応が面白かっただけ」

「くそ……!」


 悠斗は顔を逸らし、耳まで赤くなっている。かわいい。


「よし、終わり。次は私の番ね」


 悠斗はぶつぶつ言いながらも、私の足を膝に乗せ、消毒液を手に取る。


「よし、麗奈。お前もちゃんと耐えろよ?」

「へ? ……きゃあぁぁぁぁっ!!」


 沁みる! 予想以上に沁みる!!


「っつ……!」


 思わず足を引っ込めそうになるが、悠斗がしっかり押さえてくる。


「ほらほら、笑ってる場合じゃないだろ?」

「くっ……ぐぬぬ……!」


 悠斗がニヤリと笑う。さっきの仕返しってこと!?


「だ、大丈夫だから! もう終わりにしていいから!!」

「いやいや、もうちょっと丁寧に消毒しないと。お前、俺にやったときは遠慮なかったよな?」

「悠斗のバカぁぁぁ!!!」


 私が涙目になっていると、急に外から声が聞こえてきた。


「おいおい、こんなところにいたのかよ?」


 振り向くと、見覚えのない男子生徒が立っていた。


「なに?」


 悠斗が怪訝そうに眉をひそめる。


「いやさ、お前ら、玲司を邪魔しようとして自滅したバカコンビだろ? なんか気の毒になっちゃってさぁ」


 嫌な笑い方をするそいつに、悠斗が立ち上がる。


「……言い方、考えろよ?」

「悠斗君、やめといた方がいいよ」


 私は彼の腕を掴む。


「けど、こいつ……」

「どうせ言わせておけばいいの。ほら、私たちの足元見て。すりむいてるの、どっち?」


 悠斗がチラリと私の足を見て、ハッとした顔をした。


「そういうこと」


 結局、痛い思いをしたのはこっち。あいつは言葉だけでマウント取ろうとしてるだけ。そんなのに乗ってやる必要はない。


「……フン、まあいいや。俺らはこんな負け犬と遊んでる暇ねーし」


 そう吐き捨てて、そいつは去っていった。


「チッ……」


 悠斗はまだ納得いかない顔をしていたが、私はポンポンと彼の腕を叩いた。


「ほら、気にしない。私たちは治療に集中しましょう?」


 悠斗は少しだけ唇を噛みしめたあと、ふっと息を吐いた。


「……わかったよ。でも、次は俺、絶対容赦しねぇからな?」

「なにに対して?」

「お前の治療」

「や、やめてぇぇぇぇぇ!!!」


 救護班のテントには、再び悲鳴が響き渡るのだった。





 


「ったく……せっかく玲司を貶めようとしたのに、これじゃただのアホじゃねぇか……」


 悠斗は足の痛みを引きずりながら、ぶつぶつと愚痴りつつ救護班のテントを出ようとした。


「まあまあ、次に活かせばいいじゃん?」

「活かせるような次があるかよ……」

「ないとは限らないよ?」

「……?」


 悠斗が訝しげに私を見たちょうどその時だった。


「悠斗くん、ちょっと待って!」


 数人の女子がこちらに駆け寄ってきた。


 私は一瞬で警戒モードに入る。悠斗も眉をひそめ、ちらりと私に視線を送る。


「……なんだよ?」

「私たち、玲司を懲らしめたいの! 手伝ってくれない?」

「……は?」


 悠斗が思わず間抜けな声を上げる。


「だってさ、さっきの借りを返したいんでしょ? 私たち、琴音の友達なの。だからすごく玲司には恨みがあるのよ」


 やっぱり琴音の友達だった。茶髪のショートカットの女子、確か名前は高垣詩織たかがきしおりだっけ?いつものように一緒にいる所みたことあったし、嫌な予感がしてたのよね。

 

「……いや、俺は琴音みたいになるのはごめんだね」


 即答した。当然だ。あの事件を見ていた人間なら、普通は尻込みする。


「待ってよ!  そんな大それたことはしないから。ただちょっと、玲司を困らせるだけ」

「……だから嫌だって言ってるだろ」


 悠斗は立ち去ろうとしたが、詩織たちはなおも食い下がる。


「お願い!  退学になった琴音のためにも……悠斗くん自身のためにも、玲司には痛い目を見てもらうべきでしょ?」

「琴音の……ため?」


 悠斗の足が止まる。


「そうよ。琴音は今、玲司のせいであんな目にあってる。私たち、悔しくて……」


 私は悠斗の横顔を盗み見ると、悠斗の表情が少しだけ揺らいでいるのが見えた。


 アイツを貶めることに関しては、悠斗も私も完全に手を引いたわけじゃない。琴音の件だって、まだ納得できていない部分は多い。


「……麗奈、どうする?」

「……やんわり、なら?」


 しばし考え、悠斗はため息をついた。


「……分かったよ。けど、マジでヤバいことには手を出さねぇからな?」

「ありがとう!」


 詩織たちはパッと笑顔になった。


 こうして、私たちは再び玲司を貶めるために動くことになったのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます!少しでも面白いと思った方は応援コメントや☆を頂けるとモチベになりますので何卒宜しくお願い致します。


現在新作も連載中です。こちらも合わせて良ければ読んで頂けると嬉しいです。貴族たちの陰謀で左遷された俺は、呪いの館で再会した幼馴染に『もう二度と離さない』と囁かれる「https://kakuyomu.jp/works/16818622171398700224

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