19話 嘲笑う2人
琴音視点
朝のラジオ体操。
青空の下、涼しい朝の風が肌を撫でる。先生の掛け声に合わせ、クラスメイトたちは腕を大きく回したり、足を伸ばしたりと、淡々と体を動かしていた。
私はその流れに自然と溶け込みながらも、ふと、ちらりと視線を後ろの方へ向ける。
——いた。
城咲玲司。彼はまるで「隔離」でもされているかのように、一人だけ少し離れた場所で体操をしていた。近くには生徒指導の先生が監視するように立っていて、他の生徒たちとは距離を置かれている。
当然だ。玲司は"犯人"なのだから。
……ふふっ。無様ね。
自然と口元が緩んだ。まさか、本当にここまでうまくいくとは思っていなかった。
昨日、私のジャージが燃やされた時、あの場にいたみんなはすぐに玲司を疑った。玲司が今までやってきたことを考えれば、疑われるのも当然だ。それに、私の「かわいそうな被害者」アピールと、協力してくれた仲間たちの証言のおかげで、玲司がやったという空気はもう完全に出来上がっていた。
もはや誰も彼を疑おうとしない。むしろ、「やっぱりな」と納得している様子すらある。まったく、みんなチョロいんだから。
クラスメイトたちは次々と玲司を犯人扱いした。誰一人として、疑問を持つ者はいなかった。まるで当然のように、彼を非難する声が飛び交った。
おかげで、私が本当の犯人だなんて誰も思わない。
ラジオ体操をしながら、私は一人、心の中でほくそ笑む。
実際、玲司は昔から問題児扱いされていた。授業をサボったり、先生に反抗的な態度を取ったり、時にはクラスメイトと衝突することもあった。
だから、ほんの少し「誘導」してやるだけで、彼が"悪者"として扱われるのは時間の問題だったのだ。
(みんな、単純すぎる……)
あとは、私が涙を浮かべながら「怖かった……」と震えるだけで、クラスメイトは一斉に私の味方になった。
「琴音、大丈夫?」
「絶対に玲司を許せないよ!」
「先生にもちゃんと言おう!」
まるで正義の味方を気取るように、彼らは次々と玲司を非難していった。
私はその様子を眺めながら、心の中で笑っていた。
玲司がどんなに「やってない」と訴えたところで、誰も聞く耳を持たない。そもそも玲司が疑われる状況を作ったのは私なのだから、彼が反論すればするほど、「言い逃れをしようとしている」と思われるだけだ。
(これで、しばらくは玲司も大人しくなるかな)
彼がこの合宿での居場所を失えば、学校に戻ってからも今までのように強気な態度は取れなくなるだろう。
そうなれば、悠斗も少しは安心できるはず——。
悠斗のためにも、私はやらなきゃいけなかったのよ。
そう自分に言い聞かせながら、私は玲司の姿をもう一度見た。
玲司は無言で、ただ真面目に体を動かしていた。
クラスメイトたちがひそひそと彼を見て囁く声も、聞こえているはずなのに……。
意外としぶといわね。普通なら、この状況になれば反抗したり、苛立ちを見せたりするものなのに。玲司はただ静かに、周囲の視線を無視するように体操を続けていた。
その様子が少し気になったが——まあ、大した問題ではない。
彼はもう「犯人」として認識されているのだ。もし、万が一監視カメラの映像を確認されて私が怪しまれることになっても——その時はその時。玲司に脅されてやった……って言えばいいだけ。
私は自分の完璧な計画に、満足そうに微笑んだ。
悠斗視点
やっぱりな……。俺は心の中でほくそ笑む。
肝試しの夜、琴音のジャージが燃やされるという事件が起きた。その時点で、俺はもう確信していた。玲司の仕業だと。
だってそうだろう?たくさんの生徒をいじめていたような奴が、高校に入って大人しくしているなんて不自然すぎる。やっぱり裏で何かやっていたんだ。
やっぱりアイツは危険なやつだ。玲司がいなければ、綾乃は平穏に過ごせる。俺たちも余計な問題に巻き込まれずに済む。それなのに、何を血迷ったのか、綾乃は玲司に肩入れしようとしている。
このままだと、綾乃が玲司に騙される……いや、それだけじゃない。
綾乃は優しすぎる。だからこそ、玲司のような危険人物を「本当はいい人」とか「誤解されているだけ」とか思ってしまうのだろう。でも、そんな甘さが命取りになる。
俺が……綾乃を守らなきゃ。ラジオ体操が終わると同時に、俺はすぐに綾乃のもとへと向かった。
「綾乃」
「あ、お兄ちゃん」
「玲司には、もう二度と近づくな」
「……どうして? 玲司くんは、本当は悪い人じゃないの。今回のことだって、えん罪を着せられてるのよ!」
「そんなはずがあるか!」
俺の声が少し大きくなり、周囲の生徒がちらりとこちらを見るが、そんなことはどうでもいい。
「現に琴音のジャージが燃やされたんだぞ! 玲司がキャンプファイヤーの火を使える立場だったのは、誰だって知ってる! それに、普段の素行を見れば、疑われるのは当然だろ!」
「でも……玲司くんが本当にやった証拠はないし、彼だって必死に否定してた……」
「証拠がない? そんなの、玲司が上手くやったからに決まってる!」
綾乃は唇を噛みしめ、何か言いたそうにしていた。
だけど、俺はもう聞く耳を持つつもりはなかった。
「綾乃、お前は甘すぎる。そんなだから、玲司みたいな奴に騙されるんだ」
「……お兄ちゃん」
「もう二度と、玲司とは関わるな」
そう言い残し、俺は綾乃の前から立ち去った。
これでいい。これで……綾乃を守れるはずだ。
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