16話 冤罪

 部屋に戻ると、俺はどっと疲れが押し寄せた。


「はぁ……やっと解放された……」


 肝試し中、篠宮さんにしがみつかれっぱなしだったせいで、変な汗をかいた気がする。いや、別に嫌じゃなかったけど……むしろ、あの密着は理性が試されすぎた。


「おーい、城咲」


 ベッドに腰を下ろした瞬間、隣のベッドに座っていた成田がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「お前、篠宮さんと一緒だったんだろ? どうだったんだよ?」

「どうだったって……普通に肝試ししただけだ」

「へぇ~? そんなわけねぇだろ。お前らめっちゃ密着してたって噂になってるぞ?」

「……誰だよ、そんなこと言いふらしてんのは」

「で? 実際どうだったんだよ?」

「……まぁ、正直、肝試しどころじゃなかったな」

「おお!? それってまさか、そういう展開が――」

「違えよ」


 成田の期待に満ちた目を一蹴する。


「篠宮さんが怖がりすぎて、ずっと俺の腕にしがみついてただけだ」

「それ、めっちゃおいしいシチュエーションじゃねぇか……!!」

「……お前さ、ちょっとは黙ってくれないか?」


 疲れた体をベッドに沈めながら、俺は再びため息をつく。


 その時だった。外が急に騒がしくなった。部屋の外から、何か大きな声が聞こえてくる。


「……なんだ?」


 成田と顔を見合わせ、俺たちは立ち上がる。


 廊下に出ると、廊下に生徒達が集まっているのが見えた。


「おいおい、何かあったっぽいな……」


 成田が眉をひそめながら呟く。俺も気になって、足を向けた。


 そして、人混みをかき分けて前に出た瞬間――目の前の光景に、思わず息をのんだ。


 生徒達の輪の中心には琴音が地面に座り込んで、泣いていたのだ。そして、その手には黒く焦げたジャージの切れ端を持っていた。


「ひどい……誰かが……私のジャージを燃やした……!」


 琴音の震える声が耳に入る。周囲には同じ学年の連中が集まり、騒然としていた。


 そして――。


「おい、これってもしかして……」

「火を扱えるのって、キャンプファイヤー班のやつらだよな?」

「そういえば、城咲……キャンプファイヤー係じゃなかった?」


 琴音の近くにいた男子の一言にざわ……と、周囲の視線が俺に集まる。


「……は?」


 思わず、声が漏れた。


「おいおい、冗談だろ? 俺がやったって言いたいのか?」

「でもさ、中学生の時の噂とか聞いてるとさ、ありえない話じゃなくね?」

「そうそう、昔何人もの生徒を苦しめたんでしょ?」

「それに、キャンプファイヤーの準備で火を扱えるの、こいつくらいじゃね?」

「……っ!」


 思わず拳を握りしめる。


 ふざけるな。何の証拠もないくせに、俺がやったって決めつけるのか?


「おい、待てよ。俺はそんなことしてねぇ」

「でも、他に誰がやるんだよ?」

「昔の事もあるし、疑われても仕方なくね?」


 周囲の視線がどんどん冷たくなっていく。


 まるで、俺が犯人であることが決まったかのような雰囲気だった。


「はぁ……マジかよ……」


 俺は頭を掻きむしった。どう説明しても、こいつらは聞く耳を持たない気がする。


「お前ら、何勝手に決めつけて――」

「ちょっと待ちなさい!」


 その時、鋭い声が響いた。


 振り向くと、麗奈が人混みをかき分けてこちらにやってきた。


「麗奈……?」


 彼女は鋭い視線でジャージの燃え跡を見つめ、すぐに周囲の状況を把握したようだった。


「……城咲君。貴方がやったのね?」

「……は?」


 まさか、麗奈まで疑ってんのか?


「俺がやった証拠があんのかよ」

「だって、火を扱えるのは城咲しかいないよね?」

「……っ!」


 俺は言葉に詰まった。


 まるで、麗奈までもが俺が犯人だと決めつけてるような口ぶりだった。


「とにかく、これは大問題よ。先生に報告するわ」


 その言葉で、周囲がさらにざわめいた。誰かが先生を呼びに走り、場はますます騒然となる。


 ……クソッ。


 俺は唇を噛みしめた。誰も、俺の言葉を信じてくれない。


 ただ、俺が「火を扱える」という理由という理由だけで、俺が犯人だと決めつけられている。


 確かに昔、こいつの素行が悪かったっていう肩書はあるけど、最近はずっとおとなしくしてただろ……。


 マジで、やってらんねぇ……。


 この状況をどう切り抜けるか、それを考えながら、俺は静かに拳を握りしめた。


——— ——— ——— ———


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