第35話 孤児院稼働・人間遊び
アルファは木々を選別する。垂直に伸びて且つ頑丈な樹木を選んで根本から浸透切断。馬車道側に倒して、全ての木の枝を浸透切断、丸太に加工。
構築魔力で糸を作り、切り落とした木の枝を束ねて板に加工。さらに構築魔力で、板が接地する箇所に金属製の保護具を嵌め込む。
丸太の両脇に一定の間隔で板を取り付けて、丸太が転がらないよう固定。余った木の枝を丸太の四隅に突き刺して、構築魔力のワイヤーを四隅の木の枝に括りつけ、手すりを作成。
最後に構築魔力で二本の手綱を作成。
「完成! 名づけて丸太ソリ! 手綱はラタチルガとピュラメチアが付けて、この丸太ソリを引っ張ってくれ! さぁお前ら乗った乗った! 構築魔力は長く続かない。物質で居られる時間は充填した魔力量に比例する。たぶん五分も走ってられねぇから早く乗り込め置いてくぞ!」
アルファは飛び乗る。発射まで「残り十秒! 九!」と数え出す。慌てて子供たちは手すりを潜って丸太に乗り込む。コルトシアやルイム、伝さんも乗り込んで、いざ出発。ラタチルガとピュラメチアは疾走飛翔。丸太の接地部分がガリガリと怖い音を立てながら左右に揺れ跳ねて馬車道を疾走する。
「フッフゥ~! 初めてにしては中々いい乗り物なんじゃないのー?! いつブッ壊れるか分かりませんけどー! まぁスリル満点の便利な乗り物と思っていただければー! 風を感じろー! 生きているなら走りきれー!」
丸太の接地部分が削れて平らになってきたのか、徐々に左右に揺れることはなくなりバランスが安定する。子供たちの中には、自然と笑顔になっている子がいた。丸太ソリの疾走感が爽快で楽しくなってきている。
やがて丸太ソリは、馬より速い鳥より速い妖精・ラタチルガとピュラメチアによって、五分と経たず森林地帯を突破。焼け焦げた大草原に飛び出して、始まりの街パルマノの城郭が見えてくる。砂道を高速疾走。どうやら村を蹂躙した魔族部隊は、そのままパルマノに襲撃を仕掛けたようだ。
あちこちに魔族の死体が転がっている。パルマノ側の圧勝に終わったようだが、少なからず冒険者や衛兵の死体も転がっていた。死体を掃除する衛兵たちは、丸太ソリを目にしておっかなびっくり槍を構える。そこでアルファは、草原に立つセザリンドの背中を見つけて呼びかけた。
「ラタ、ピュラ、減速停止ぃ~! ──おーいセザリンド! 祭りのあと何があったんだ~?」
セザリンドは振り返って大声で返す。
「魔族の一個中隊に襲われたのだ! 祭りで警備が手薄になった隙を突かれた! ところでアルファ! 貴様、どんな優勝景品をもらったのだ!」
「神様になる権利だってー! よくわかんないから保留してきたー!」
「なるほど! 基本的に神々の催す祭りはろくでもない景品が多い! あまり当てにするな!」
「そのようだな! 身にしみたよー! んじゃあ俺たち街に帰るわ! お疲れ様ですー! ──はい! ラタ、ピュラ、しゅっぱーつ!」
全速前進。あっという間に城門が見えてくる。
「城門手前の道端に停車するぞー。そろそろ減速だー。──……はいそこ右折ぅー。徐々に停止ぃー! ──よくやったラタチルガ! ピュラめっちゃん!」
「ラタァ!」
「恐悦でございます」
「そんじゃあガキどもー! こっからちょっとだけ肉体労働の時間だぞー! 丸太から降りろー!」
アルファは丸太ソリに浸透切断魔力を通す。次の瞬間、等間隔に切り飛ばされる丸太。瞬く間に角材の山が積み上がった。子供一人が持てるサイズだけ拾い集めて糸で束ねる。それを子供達とコルトとルイムに持たせた。残る木材は八割ほど。アルファは五割を束ねて背負い、残り三割を伝さんにお願いした。
「伝さん頼めるか?」
「お安い御用だ」
「ラタラタ!」
「ラタチルガも運びたいのか? じゃあガキどものお守りを任せた。倒れそうになったら支えてやって、重くて持ち歩けなかったら代わりに持ってやってくれ。はいというわけで出発進行! もう魔力少ないから五分持つかも怪しいぞ!」
アルファは組合カードを見せて衛兵に通してもらい、中央広場を通って施設街に入る。そこで男の子が問いかけた。
「なぁ兄ちゃん……俺たちをどこに連れて行くつもりだよ? なんか勢いに釣られて付いてきちまったけど……」
「あぁそういや説明してなかったな! まぁ行けば分かるさ! というわけで到着デース!」
アルファが手を広げて紹介したもの。それは明らかな新築物件。住宅にしては公共的で、公共的にしては教会の面影を残す学校・民宿・屋敷。さて、なんと言ったものか。基本白色で塗装され、薄浅葱の装飾が施された建造物。アルファは両扉を開けて中に入る。玄関先は広間になっていた。前方に三昧の扉と、吹き抜けとなる上階に続く二つの階段、左右に四枚の扉。
「とりま壁に木材置いとけ。これでしばらく暖炉の木材費用は節約できるだろ」
「え……暖炉って……」
「そうです! ここは俺が建てさせた孤児院です! みなさんにはここに住んでもらおうと思います! ただし困ったことに院長が存在しない! 代表は俺ですが、俺はガキの面倒なんか見たくないネ! これから修道女でも口説いて、そっから戦災孤児でも拾ってこようかと思ってたのに……まさかの孤児の方を先に見つけちゃったよ! というわけで誰か院長やってくれないかな~? そういえばルイムはなんで付いてきたの?」
アルファは期待の眼差しを送る。いきなり名指しされたルイムは、さすがに言わんとするところを理解した。
「えっ……そりゃ、子供達が心配で……私では当てがなかったが、アルファにはありそうだったから……本当に子供達が大丈夫なところに連れて行かれるのか確認するために……」
「で、そのあとは? つーかルイムって旅してるの? どこ行くつもりだったの?」
「……まぁ、どこでもいいから、落ち着ける場所に居を構えるつもりだったが……」
「あらまぁなんということでしょう! これは僥倖、渡りに船! ルイムシュタルット。この孤児院を経営してみませんか!?」
「──……ちょ、ちょっと考えさせてくれ!」
「えー? あんな必死に子供を助けようとしてて、しかも責任感があるそんな奴こそ、院長に相応しいと思うんだけどなー。お前らどう思うー? ルイムは親代わりに相応しくないと思うー?」
男の子は呆れて言う。
「こっちに振るなよ……」
「なんでさ! これはお前らの問題だぜ!? ぶっちゃけ俺は今ここでサヨナラしてもいいんだぜ? 盗賊に入ってこられた時にお前らを守ってくれる奴いるかなー? あ、そうだ。伝さんは居を構える予定あったりする?」
「わしは気ままな旅を続けている。用心棒くらいなら請け負うが、永久の住処は頭にないな」
「なら用心棒でお願いします! で、ピュラめっちゃん。お前とりまここに住め。ガキどもの面倒よろしくな」
「承知しました。しっかりと責任を持って、アルファ様とのお子を子育ていたします」
ルイムが焦ったように待ったをかける。
「まてまて! 妖精に子育てなんかさせたらとんでもない奴が育つぞ!?」
「そんなん分かってらぁ。ピュラは家事をこなす家政婦みたいな働きを期待している。こいつらに教育は施すな。ただ経営者すなわち保護者と、別枠で教育者は絶対に必要だからなー。教育者の当てはあるんだが、経営者がいないんだよなー。誰か保護者になってくれないかなー? というわけで!」
アルファは懐から数十枚の小切手と羽ペンを取り出す。小切手に金額と名義を執筆してルイムや子供達に配った。
「子供一人につき金貨百枚……経営者に金貨一千枚の初期投資費用っと……はいこれ銀行に持っていけば貰えるから、あとはよろしく~。ピュラと伝さん雇うかどうかはルイムの経営手腕に任せるぜ」
「は? ……──ハァッ!? なんだこの大金!! おい、ちょ、アルファぁああ!?」
「暇になったらまた来るから~。もしルイムが逃げても気にすんなー。なるべく早く保護者を見つけてくっから~。じゃーなー。元気で生きろよー。困ったことあったら魔道図書館のチェルって人に俺の名前出して頼めば大体なんとかしてくれっからー」
そう言ってアルファは立ち去った。慌ててコルトシアとラタチルガは追いかける。伝さんも孤児院から外に出て別れの手を挙げた。
「アルファよ! お前のおかげでようやく迷子ではなくなった。礼を言う! さらばだ! また縁があれば!」
「おう! またな~!」
アルファたちと伝さんは、それぞれ別の道に分かれて帰路に就く。そしてルイムは孤児院から飛び出し、アルファに向かって叫んだ。
「ちょっと待てェエエエエ! おいぃいいいいいい!? ……──え……ちょ……ねぇ……これマジで言ってんの? うぉおおおおおおおおーっ!? 身動きが取れんンンンンッ!!」
頭を抱えたルイムシュタルットは、その場でぺたんと座ってうなだれる。混迷の極みにあるようだ。葛藤している。
対するアルファは手を叩いて笑っていた。となりを歩くコルトは呆れ気味に困惑。
「ふはっはっ! 俺の見立て通り、あいつ責任感ありすぎるから断れないんだな! 家出娘らしいが、おおかたどっかの貴族の令嬢なんじゃねぇか? 言葉遣いや礼儀作法は庶民的な感じに誤魔化しているが、端々からノブレスな風味を感じてたんだよ!」
「……だ、だからって、あんなふうに押し付けていいんですか……?」
「よくねぇな! でもほかに大事なことがあるならそれを理由に断ってるだろ。でも特にないから断る理由が思いつかないんだ。あー真面目さんはつらいね~。妖精メイドを雇うなら、それの監視もしないといけないだろ? ちょっとブラック企業だな……あとひとり従業員を増やした方がいいなこれ……コルトはどうする? お前ラタチルガの宝石買って金ないだろ。俺の孤児院で働けば?」
「あ、それいいですね! 仕事は嫌ですけど、子供達の面倒を見る程度なら簡単でしょう!」
アルファは「あっ」と悟る。この女神、子育ての過酷さを何一つ知らない小娘である。世間知らずにもほどがあろう。ならば子供の波に揉まれるが良い。おそらくコルトシアの最低身長が更新される憂き目に遭うことだろう。
「じゃあハイ小切手」
「わぁあああ! 金貨百枚だぁあああああ! 小金持ちだぁあああああ! 今すぐ銀行に行ってきますね! ありがとうございますアルファさん!」
「うーん……そうだねー……たぶん次会った時は愚痴を聞くことになるだろうけどねー。解雇通知は受け取らねぇぞ。──ってもう居ねぇや」
コルトシアは風のように走って銀行に向かった。
アルファは魔道図書館にお邪魔する。
「ただいまー」
「おかえりー。──じゃないって! ここ職場だから!!」
受付で本を読むチェルが出迎えてくれる。
「なぁチェル。この前の夜さ。孤児院について話したよな?」
「……えぇ。私に家庭教師を務めろって話でしょ?」
「そうそう。ガキどもには、文系の道を拓くために国語の読み書き、理系の道を拓くために算数の四則演算、体育会系の道を拓くために筋トレと護身術と魔道。で、筋トレと護身術は俺が担当するから気にするな。ただし魔道はチェルに担当してほしい」
「……なに? 本当に孤児院を開いたの? まだ経営者と従業員が揃わないって話じゃなかった?」
「それが急に揃ってさー! ガキなんて十人も入ってきちまったんだぜ!? で、ワンチャン経営者には逃げられるかもしれないけど、たぶん大丈夫だ! そんで急なんだけどさ。今からとは言わない。明日から授業お願いできない?」
「…………ごめんなさい。ハッキリ言って無理よ。前も断ったけど、私、兼業する余裕はないの」
チェルはそっぽを向く。アルファは訝しんだ。
「えぇ~? ただ受付に座ってるだけの仕事でぇ~? 余裕がない~?」
「ッ……! あんた……今! 禁句を口にしたわよ……!!」
「しからば聞かせてもらいまひょか」
「こちとら受付だけじゃなくて経営してんのよ経営! 大量の書物を運んでは降ろして運んでは降ろして! ハシゴに昇り降りしては木箱開けて何冊という本を取り出しては棚にしまって開けてしまって開けてしまって! 本が虫に食われないように毎日! この広大な図書館すべてを! ひとりで! 掃除して! そこらへんのムキムキマッチョマンな肉体労働者でも裸足で逃げ出すほどの過労死案件なのよぉおおおおお!?」
「じゃあ助手でも雇えばいいじゃん」
「ムッキー! だから経営難なんだってば! 金がないっ!」
「あっそう。ところでさ────」
アルファは以前から気になっていたことを問いかける。
「なんで借金したの?」
「──……え?」
「いや、図書館の経営で経営難って、なんかイメージ湧かないなって。お前の几帳面な性格から考えても、そんな下手打って破産とかしないだろ。なに? 災害に遭ったとか? ここ労災とかないの? なんで経営難に陥ったの? そもそも大量の金貨が必要なほど借金する理由って何? なんか高価な本でも買おうとしたの? ん?」
「…………」
突としてチェルは、何かを考え込むような表情を見せた。
「……どうした? 急に黙り込んで。まさか私事に使ったとか? お前に限ってそれはありえないだろ!」
「────それ、脅しで言ってんの?」
アルファは心の中で『ん?』と驚く。だが表情には一切出さない。とりあえず話の流れはよく分からないが、脅し。脅しときたか。脅しという言葉を使ってくるということは、すなわち何か秘密のようなものでも持っているのか。なるほど。ならば、このすれちがいを存分に使わせてもらおう。
「さぁ? ちょっと何を言っているのかよく分かりませんね~」
「……そうよね。あんた、人の心が読めるんだものね。信じられないほど勘が鋭い。そりゃ気づくわよね……」
「さすがに分からないこともあるよ? たとえば今のお前とか!」
「嘘おっしゃい」
「嘘じゃないんだよな~」
チェルの手が震えている。極度の恐怖と緊張を覚えている。これはいったいどうしたことか。まさか本当に私事に使ったのか。ならば具体的に、何に対して使ったのか。アルファは皆目見当がつかない。この手の話術は後が怖いものと知っているが、とりあえず面白そうなので流れに乗ることにした。
「……………………」
「……。あ、ちなみに魔道を教える時は当然、錬金協会の知識を教えることな!」
「ちょっバカっ! 声を静かに! ……そしたら私と子供達が異端者として処刑されるわよ……!」
「そんなこと俺がさせねぇよ。まぁ一応そのあたりのこともガキどもに警告しつつ、俺の持論も唱えることにしよう。たとえば水魔法の性質は変化じゃなくて変質な! 細かいようだけど、ここ大事だから! 名称は統一しとかないと連携が取れないからな!」
「……っ……」
チェルは奥歯を噛み締める。今日も魔道図書館に人はいない。アルファとチェルの二人きりである。突としてチェルは台パンした。机を叩いて怒り心頭の様子。そして泣きそうになりながらアルファの顔を指さした。
「このっ……惚れた弱みに付け込んで……ッ!! 分かったわよ! やればいいんでしょっ!! やれば……っ!!」
「マジっすかチェルさん!? ありがとうございます! ところで何に対して怒ってるのかマジで分かんないので、いつか教えてくださいね!」
「冗談よして! ……早く出て行って!」
アルファは目を丸くする。
「……もしかして人でも殺した?」
「え? ハァ!?」
「あるいはホストに貢いで破産したとか……」
「ハ……は? 干すと?」
「それか~……実はアイドルだったりぃ、クラスメイトをいじめていた過去があったりぃ……」
「よくわかんないこと言ってないで、出てってって言ったでしょ!」
「でてってっててってててー!」
チェルに本を投げられたアルファは脱兎のごとく逃げ出す。どうやらよほどのことで怒らせてしまった様子。アルファは魔道図書館を後にして大通りを歩き、腕を組んで唸り考える。
「ふむ……さっぱりわからん。──俺はよく、適当な奴に『俺はお前の秘密を知っている』と嘘を言って、別に断られても構わない頼み事をする悪癖が存在する。まぁ一種の人間遊びだな! で、大抵は『自分に秘密なんてないよ。むしろあるなら言ってみてよ』って返されて終わるんだけど、中にはめちゃくちゃキョドル奴が存在する。結果、実は人を殺した過去があって口封じに後ろから刺されそうになったり、実はホストに貢いだことがみんなにバレるの嫌だったとか、実はアイドルやってたとか、実は今では品行方正で売ってるけど別の学校ではクラスメイトいじめてた過去が俺にバラされるとヤバイから口封じに不良雇って俺をボコボコにしようとする奴がいた。まぁ暴力してくる奴は全部蹴散らして、ある程度は更正させましたけど。あーでも、さすがに包丁が背中にかすった時はヒヤッとしましたね~!」
アルファは、道端で踊るように跳ねていた小鳥の群れに話しかけている。
対する小鳥たちは首をかしげて「ピュピュイ?」と鳴いていた。
「さて……チェルの場合は、いったいどんな秘密があるのか……楽しみですネ!」
「乞うご期待!」
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