才能の相続

ちびまるフォイ

縁日のくじびき

「親父、死ぬな!!」

「親父……」

「こんな急に容態が悪化するなんて……」


「お前ら3兄弟……。これまでお見舞いにも来なかったくせに」


「それは仕事が……」

「プライベートが……」

「なんやかんやが……」


3人はそっぽを向いた。


「おおかた俺の財産目当てだろう」


「財産なんているか!」

「そうだ! 金の話じゃない!」

「ほしいのは才能相続のほうだ!」


「あそっち……」


息子たち3人の目は才能をクレクレと輝かせている。

人間は死ぬと持っている才能を選択して相続ができる。


お金は使えば減ってしまうが、才能は違う。

相続さえすれば一生モノとなるだろう。


「さあ親父!」

「はやく才能を!」

「相続させてくれ!」


「こんな瀬戸際で来たのはそれが目的か……」


「面会時間終了です」


「「「 チッ 」」」


医者にうながされて3人は病室を後にした。

父親も元気そうなので残念だった。

せっかく両親思いのポーズを取っただけ損。


しかし事態が急転したのはその翌日だった。


3兄弟は電話で呼び出されて病院へ急ぐ。

到着したのは病室ではなく霊安室だった。


「我々も手を尽くしたんですが……」


残念そうな医者の横には父親が白い布をかけられていた。


「急に容態が悪化して……」


医者が話を続けようとするが兄弟の興味はそっちにない。


「で、能力は?」

「相続は!?」

「できるんでしょうね!?」


「えっ……まあ……」


「焦ったぁ。能力相続できないかと思ったぁ……」


「……」


医者は色々言いたくはなったが、他人の家族なので口を謹んだ。

パソコンを立ち上げると生前に持っていた能力一覧が見える。


「こちらがお父様の所持していた能力です」


「こんなに……!」

「どれがいいんだ?」


「先生。親父はどんな人だったんです?

 何がすごい人だったんですか?」


「それは……」


「おいずるいぞ! その能力を相続する気だな!」

「当然だ! 一番いい能力が欲しいにきまってる!」

「能力を相続する順番もまだ決めてないだろう!?」


3人はお互いの髪や服を引っ張り合いながらのケンカ。


「私にもわかりません。死んでしまっては能力の評価ができませんから」


医者は嘘をついた。

兄弟よりも長い時間父親を見ていたので、なんの能力が優れていたのか。

医者はとっくに知っていたし手をうっている。


下手に一番いい才能を教えてしまえば、

今度はこの兄弟の中で殺し合いすら起きかねない。


「ようしじゃんけんで相続順を決めよう」


「「 じゃんけんぽん! 」」


3人は順番をきめて、相続する能力を選択していった。

まるで切り分けたパイでも分配するように。


「たぶん……これだろ。親父の"経営能力"の才能」


「数学の苦手な親父が経営? そんなわけない。

 優れていたのはこれさ。"運動能力"の才能」


「ぷぷっ。親父がカリスマ? ありえない。

 こっちが本当さ。"料理"の才能」


3人は父親の能力すべてを分かち合った。


「これですべて分配したな。もう会うこともないだろう」


「だな。連絡もしないでくれ」


「お前らが死んだときにだけは連絡してくれよ。

 父親の能力と、お前の能力を相続してやる」


「誰が渡すか!」


仲の悪い3兄弟はお互いに舌打ちをしながら去っていった。

いったい誰があたりの才能を引いたのか。


その答えは医者だけが知っていた。


経営能力を継承した長男はというと。


「うあああ! あ、赤字だぁぁぁ!!」


起業した会社がみごとに失敗。

父親の貧相な経営能力をアテにした結果に会社倒産となった。


次は運動能力を継承した次男。


「痛たたたた!! ひ、ひねったぁぁ!!」


父親に運動能力なんてない。

下手に他人の運動能力を継承したせいで、

自分の体を動かすことがますます下手になってしまった。


最後に「料理」の才能などを継承した三男。

息巻いてカフェなんかオープンさせたが。


「口コミ評価、マイナス★5個!?」


グルメサイトで聞いたこともない悪評を叩き出した。


3人は3人とも才能を継承した結果、不幸な人生を迎える。


ふたたび顔をそろえた場所は、

相続した才能を捨てる専門の才能フリマの窓口だった。


「あ」

「うっ」

「お前ら……」


死んだ父親よりも顔色が悪そうなお互いの顔。

その表情だけでどういう人生になったのか察しがつく。


「経営能力は失敗だった……」

「運動能力もハズれだ」

「料理なんて地獄だよ」


「「「 はあ……正解の才能はなんだったんだ 」」」


もしかしたら他に継承した能力があたりなのかもしれない。

まだ日の目を見ていない能力がアタリかもしれない。


でもそれは自分が継承している能力かどうかもわからない。


もし自分以外が継承している能力のどれかに

アタリ能力が引き当てられていたら……。


自分が行う真の才能発掘作業はひたすらに無意味な行為。


そのとき、長男がふとつぶやいた。


「なあ……俺たち、仲良くしろってことなんじゃないか」


「は?」

「仲良く? どう仲良くしろっていうんだ?」


「考えみてくれ。俺達は結局アタリの能力も知らずに相続した。

 この中の誰かが真の才能を持っているんだろう?」


「なにを今さら」

「それがわかったら苦労しない」


「だから、3人でこれからは協力してやっていくんだよ。

 親父の能力を継承した3人で協力すれば、

 誰かのアタリの能力で、みんなが幸せになるだろう!?」


長男の言葉に2人ははっとさせられた。


「まさか、親父は最初からこれを……」


「たしかに兄弟が仲良くないのをずっと悩んでいた」


「きっとそうだよ。3人が力を合わせれば

 親父……いやそれ以上の才能を発揮できる!」


「そうだ! やろうぜブラザー!」


「ああ! 俺達は3兄弟で成功するんだ!!」


父親の能力を継承した3人ははじめて手を取り合った。

誰が本当の才能を継承しているかはわからない。

だからこそ、誰がアタリを引いても良いように協力を約束した。


そして3人はお互いの才能を信じ、

新しい会社「サラリーマン・ブラザーズ」を作った。


3人の才能のすべてを捧げて協力をしていった。





その後、サラリーマン・ブラザーズの会社が

世紀の大失敗のすえに会社が爆発四散したニュースを医者は見ていた。


「バカだなぁ……、才能なんて無いのに」


医者にはどの才能がアタリだったのかを知っている。

それはまっさきに自分が選択して相続したから。


「せんせぇ~~今日はフレンチが食べたいなぁ」


「はっはっは。かまわないよ。食べに行こう」


「ちょっとーー! 今日の夜は私が約束してたのよ!」

「いいえ私よ! 先生ぇ! 私が一番よね!」


「子猫ちゃんたち。僕の身体はひとつしかないんだよ」



アタリの才能"モテモテ"を引いた医者はハーレム病棟を築き上げた。


あのとき容態の回復した父親に毒を注入したのは正解だった。


遺族が来ていればこの才能も誰かに渡すことになっていたのだから。

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