エピローグ

 深夜。

 学舎の片隅の闘技場で、フランは仁王立ちしていた。


「寝てんじゃないの、あのばか……」


 苛立ちを露わに、指先で組んだ腕をトントン叩く。

 約束の時間まで、あと二分。すっかり焦れたところに、待ち望んだ相手がやってきた。

 第一階梯の、黒いローブを着て。


「待たせたわね」


「待ったわよ」


 本当に。

 フランはちらと横を見た。円形に区切られたコートの中央には、二人の少女が立っている。レティシアとロゼリアだ。

 レティシアが視線で頷き、コートの外に出た。

 今夜、二人は立会人としてここにいる。

 これは私闘ではなく、正式なルールに沿った決闘だ。名目上は、模範生であるフランによるクルーエルの指導、ということになっている。

 あくまで名目上は、だ。

 形なんてどうでもよかった。

 フランは足元の、掠れた白線を爪先で踏む。

 クルーエルもまた、十五歩の距離を挟んで白線を踏んでいた。


「星々の導きにより、我らこの場に立つ」


 立会人たるレティシアが、玲瓏たる声で口上を詠い上げる。


「魔道の章典に従い、己の名誉とオドに賭けて、その身果つるまで互いに競い、深奥に至る道を歩むと誓いますか?」


「誓います」


「……誓います」


 二人揃って、ホルダーから杖を引き抜いた。

 不意に、クルーエルが口を開く。


「約束を覚えている?」


 それだけで、何を言いたいのか伝わった。


「わたしが勝ったら全力謝罪。アンタが勝ったら──そういえば、あのときなんて言おうとしたの?」


「友達になって」


 レティシアが手にした銀貨を魔法で宙に飛ばした。

 くるくると銀貨が回転する。裏と表を目まぐるしく入れ替えながら、高く昇っていく。

 フランは思わず叫んだ。


「それ、今言う⁉︎」


「嫌なら結構よ」


「ばか。貴族は──わたしは、約束を破らないのよ」


「知ってるわ」


 コインが落ちる。


【火よ風よ】【氷よ風よ光よ】


 魔法が弾ける。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【謝辞】

ありがとうございました。

コンテスト応募作につき、本作は一旦ここまでです。


 

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