2幕

2幕


§5 町での暮らし


アレンとシング、命からがら城を逃げ出し生き延びる。アレンは怪我を負っている。


歌 町での暮らし


町人たち:

今日も忙しく、あくせく働き

雀の涙程の給与を得る

冬はもうすぐ、今年も凶作

必死になって蓄えろ

蓄えたって越えられやしない

厳しい冬がやってくる

毎日忙しく、あくせく働き

それでも生活は豊かにならない

流行病、飢饉、兵役

私達の疲れ果てた毎日が今日も始まる


○アレンとシング、川沿いで横たわっている、明け方


アレン:はあ、はあ……。

シング:アレン様、アレン様……。

アレン:水、……水はあるかい……?

シング:はい、すぐお持ちします。(町へ向かう)

花屋:誰だおめぇは!

シング:アレン様……弟が酷い怪我をしています。どうかお水を。

花屋:このご時世どこに他人に情けをかけるやつがいるんでぃ!よく見るとお前、上等そうな布を纏っているな?

シング:こ、この腕輪を差し上げます。どうかお水を、お水をください……。(お水を1杯貰って去る)

花屋の夫人:変わった子だね、あの子。どこから来たんだろう?

花屋:どこかの貴族の落ちぶれだろう。今やこの国もかつてほどの勢いは無い……。


アレン:(水を飲んで)はあ……ありがとう、シング……。

シング:ひどい怪我をしておられます。今夜眠る場所を探して参ります。

アレン:ははは……。(微笑む)

シング:アレン様……?


歌 2人でいれば


アレン:

こんなにも寒く こんなにも汚い

見たこともないような 景色が目の前に広がる

夢か 悪夢か ひどい痛みだ

不思議と平気と思えるのはなぜ

城にいた時に 知らなかったことばかり

全てが辛いのに 身体は痛むのに

不思議と平気と思える

シング、お前と2人でいられるならば

寒空の下 凍えていても

今夜眠る場所を探そう……(アレン眠りにつく)


シング:アレン様、アレン様!!


○掘っ建て小屋にて、夜


シング:アレン様の具合もだいぶ良くなられましたね。(額のタオルを替えながら)

アレン:ああ、もう明日には歩くことが出来よう……。シング、君の看病のおかげだよ。ありがとう。

シング:とんでもございません……。

アレン:なにか、食べるものはあるか?治ってきたら腹が減ってきたみたいだ。

シング:……(ツボの中にある僅かな薬草と木の実を見つめて)今はこんなものしか……。明日の朝までに食べ物を調達して参ります。

アレン:ああ、ありがとう。城からもっと金になりそうなものを持ってくるんだったな……。


○シング出かけようとする、真夜中


アレン:……シング、シングかい?

シング:(ビクッと肩を震わせ)はい。

アレン:こんな時間からどこに行くんだ?

シング:少し……夜道を散歩しようと思って。

アレン:こんな雨の中をか……?今夜はやめて置いた方がいい。明日になれば僕も歩ける、明日の夜2人で散歩しよう。

シング:今日でなければ、今宵でなければ……。

アレン:シング?シング、どうか本当のことを言って欲しい。僕は町での暮らしをしたことがない。こんな夜中にどこに……。

シング:身体を売りに行くのです。

アレン:身体を……売りに……?

シング:身につけていたものはもうほとんど売ってしまいました。明日の朝、アレン様に使う薬草を使えば全て無くなってしまいます。清潔なお水ももうありません。

アレン:身体を、身体を売るってシング、それって……。

シング:売春です。この国で平民たちは金に困れば皆そうしています。男は兵役を志願し、それでも金は足りませんから、女は身体を売るのです。職がなければ皆そうします。冬を超えるためにそうします。では。

アレン:待て、シング!(シングの腕を捕まえる)ダメだそれじゃ、そんなことしちゃダメだ……そんなことをしないと生活できないほどこの国の人達は困っているのか……身体を売ることが普通、だと……?そんなことシングにさせない。

シング:ではどうやって。

アレン:は?

シング:ではどうやって明日から生きていくのです。

アレン:それは……。

シング:今は追っ手がかかっていませんが、アレン様のお立場は簡単に人にはばらせません。涙で人が慈悲を与える時代は当の昔に終わりました。綺麗事は言っていられません。では。

アレン:待て、シング!(ほっぺたを引っぱたく)

シング:……。

アレン:ダメだよそんなこと、そんなことしちゃダメなんだ……お願いだからもっと自分を大切にしてくれシング……。ここにはイチゴもパンも無いかもしれない、けれどきっと僕が何とかするから……明日になればふたりで仕事を探そう、僕が何とかするから……。


○翌朝、町にて


アレン:お願いします!どうか働かせてください!

魚屋:うるさいガキだね、人は足りてるんだよ。

アレン:お願いします!どうか、なんでもしますから!仕事をください!

奴隷商人:よう、若いの。ふん、少し痩せてるが奴隷には悪くないな、嬢ちゃん助けるために金持ちの奴隷になるってのはどうだい?

アレン:うっ……。

奴隷商人:嬢ちゃんもべっぴんさんだなあ、おめぇさんも高く買値がつくよ、さあどうだい?

アレン:やめろ!この子は、この子は行かせないぞ。行こう、シング。(駆け巡るアレンたち)


歌 国民よ立ち上がれ


町人A:隣国との紛争が悪化した

町人B:徴兵の号令がまたかかる

町人C:あの子も、この子も、みんな国に取られる

町人D:夫は先の戦争で脚を無くしたわ

町人E:10歳以下の子も集められるそうよ

町人たち:

こんな国はもううんざり いっそ隣国が統治してくれた方が(しっ!)

国王陛下は何もしちゃくれない 私たち国民は飢える一方

徴兵に徴収、飢饉に紛争、度重なる争いと国王の気まぐれ

今こそ立ち上がれ 国民たちよ立ち上がれ


§6 2人だけの平和


アレンが城を出て1年が経つ。国の経済は更に傾き、国民たちの不満は高まっていた。


○城にて、昼間


メープル:アレン王子が出奔されて、はや1年……。

大佐:国王陛下の前で、よもやその話をするでないぞ、メープル。

メープル:はい、心得ております……。しかし国王陛下も何も、見つけた瞬間殺せとまで……。

大佐:良いでは無いか小僧の1人。国王陛下の機嫌さえ良ければ。(大佐、退室)

メープル:アレン王子はまだ16歳でした……これからもっと、学ぶことも知ることもありましたのに……。


歌 善悪とは


メープル:

善悪とは なんだろう

いつからこの国はこんなことに

町では流行病に、飢えと死が漂う

ああ、アレン様あの子は今どこに

純粋な目、子供らしい表情

少しひねくれたところもあったけれど

いつかあの子が、この国を建て直してくれる

そう信じてこの私は、付き添っておりました

奴隷の少女が来てから アレン様は

よく笑うようになりました

せめてあの少女と どこかで2人、幸せに

落ち延びていて欲しい


○町の広場にて、夕方


花屋:よう、アレン、戻ってきたか。今日もよく働いてくれたな。

アレン:おっちゃん!ああ、今日はこんないっぱい。だけどこんなにもたくさんのケシの花、何に使うの?

花屋:おめぇさんはンなこと知らなくていいんだ。なんだ、辞めたいのか?

アレン:まさか。あの時、俺にもできる仕事を与えてくれたあなたは恩人だ。

花屋:妙なお坊ちゃんだよ。俺にもおめぇさんくらいの娘がいてな。もう結婚するって手筈だったのによ……。相手が戦死して、娘も後を追ったのさ。もう生きてけないってな……。

アレン:そう、だったんだ……。

花屋:それでも俺は女房を食わしていかにゃならん。ああ、ありがとう、そこに置いておいておくれ。

アレン:ああ!今日は町が一段と賑やかだったよ。

花屋:……ああ、そろそろなんだろ。

アレン:そろそろ?

花屋:おめぇさんも、恋人さん連れて逃げ出す準備をしとくんだぞ。おめぇさんは少しおっとりしたところがあるからな。

アレン:逃げ出す……ここを……?

花屋:ああ、俺らも冬が来ればここを立ち退くつもりだ。あっち側だと思われたかねぇからな。あんたらもどこかへ逃げ延びな。

アレン:ああ……。


○アレン、掘っ建て小屋に戻る


アレン:ただいま、シング。

シング:おかえりなさいませ、アレン様。

アレン:アレンでいいって。

シング:……。(困った顔)

アレン:あはは、慣れたらでいいよ。いい匂いだな、今日はなんのスープ?

シング:うさぎが安く売っていましたので。

アレン:シングはなんでも出来るんだな。いつもありがとう。

シング:アレン様、手が……。

アレン:ああ、仕事だよ。ちょっとかぶれたかな……。

シング:すぐに薬を作ります。

アレン:いいんだ、少しするとマシになるから。(手をさすりながら)それより、花屋のおっちゃんが妙なことを言っていたんだ。

シング:妙なこと?

アレン:ああ、"もうすぐだ"って……何がもうすぐなんだろう。それに僕たちも逃げる準備をしておけって……。

シング:……(スープをかき混ぜながら)

アレン:まあ大丈夫、なんとかなるさ。

シング:ふふふ(微笑む)

アレン:なんだい?

シング:不思議と、

アレン:不思議と?

シング:アレン様のお話を聞いていると、そうなるような気がするのです。

アレン:それが不思議かい?

シング:……ええ。私は、優しさや希望を知らないところで育ちました。


歌 心の檻


シング:

生まれは隣国 母はダンサー

貧しい暮らし 母子ふたりで

母が亡くなり 国境近くの村へ

あったのは やはり貧しい暮らし

あったのは母の 温かい微笑み

人の親切 知らずに生きてきた

いつしか母の 笑顔も消えた

飢えと寒さは私の心を凍らせた

ある日村が 焼かれて私も

奴隷として車に乗せられた

売られる日を 待つ毎日

月明かりだけが永遠の時間を知らせる

あの日初めて 私は人から

食べるものを貰った

何も知らない、その人は

私に食べ物をくださった


シング:私は希望も優しさも、人の心も当の昔に無くしました。アレン様といると、不思議と何とかなるように思えるのです。

アレン:シング……。なんとかなるさ、城を出てふたりでこうやって、今も暮らしているじゃないか。(シングを抱き寄せて)温かい部屋も広いベッドも要らない、ふたりで生きていこう……。


§7 止まらない戦争


ノーム国でいよいよ冬が始まる。3年に及ぶ飢饉と凶作、ひどさを増す隣国との紛争に奴隷狩り、国民たちの不満は爆発した。


歌 今こそ戦え


町民たち:

冬は目前 さあ立ち上がれ今こそ

国王陛下の悪政には飽き飽きだ

子供が死んだ 親が死んだ

夫は帰ってこない

息子は殺された

この国に未来などない

町民A:手筈はどうなっているんだ

兵士A:ああ、明日の朝決行だそうだ

隣国と手を取り合い、今こそ我らに勝利を


○城の王室にて、昼間


家臣:国王陛下!申し上げます!国民たちが反乱を起こしました!

ジェンカ:それがどうしたと言うのじゃ、国民共など武を持って、

家臣:恐れ多くも陛下、今我々の兵力の9割が国境にて隣国との戦争に!

ジェンカ:黙れ黙れ!誰かおらんのか、名案を出せるやつは!余の満足のいく答えを出せるものは!!

右大臣:恐れ多くも陛下、今回ばかりは国民たち総出で……。

家臣:恐れ多くも陛下!申し上げます!

ジェンカ:なんじゃ次から次へと……!

家臣:国境西側の門が破られました……!

ジェンカ:なに?

家臣:隣国の兵士たちは、明日の朝にも城に到達するかとのことで……。

ジェンカ:ええいええい!もう良い。私は今夜にでも城を抜ける。者ども、城中の兵力をここに集結させ、儂を守らせるのだ。さあ、ボケっと突っ立ってずに用意を始めろ!

大佐:無理です陛下、城前には武装した国民たちが。明日の朝には隣国の兵士たちがこの城に攻め入ります。落ち延びるには時間が……。

ジェンカ:時間、時間さえあれば良いのだな。良い考えがある。バカ息子がいたでは無いか。

大佐:は……?

ジェンカ:あのバカ息子を使う時が来たと言っておるのだ!アレンよ、この日のためにお前は生まれてきたのだ。大佐、すぐに国中にお触れを出せ、全てはバカ息子の行き過ぎた贅沢が招いた国難だとな。

メープル:気が狂いましたか国王!

ジェンカ:黙れメープル!誰かこの者を牢に閉じ込めい!

メープル:どうか、どうかアレン王子にご慈悲を!!(メープル、連れ去られる)

ジェンカ:儂に刃向かったバカ息子などどうでも良い。最後に儂の役に立てて嬉しかろう。


○掘っ建て小屋にて、昼間


アレン:シング、シング!町の様子がおかしいんだ。町に誰もいない、花屋のおっちゃんも!

シング:戦争です。

アレン:戦争……?隣国との、かい?

シング:いいえ。おそらく国民たちは反旗を翻したのでしょう。この国に反乱を起こすつもりでいます。

アレン:そんなバカな、父王がそれを放っておくはずが無い!たくさんの血が流れるぞ!

シング:無論。それでも立ち上がらなければならないほど、窮地に陥っているのです。

アレン:確かに……この国の人たちの暮らしは貧しすぎる。冬もろくに越えられない……城にいた時は知らなかった……。


歌 いつか夕日を


アレン:

城でいた時 僕には孤独だけが

シングと出会って 孤独は去った

城を出るとこんな暮らしが待っていると 何知らずに育った

城の中でも、外でも 皆父上を敬い

平和に、温かく、大切な人たちと生きていると

とんだ勘違い 飢え、寒さ、暴力に人を搾取する商売

平和などとは程遠い どこにも温まる場所など無い

いつか太平が戻るならば その時きっと、血で染ることの無い

空を 赤い夕日を ふたりでいつか


アレン:僕たちも逃げよう。

シング:ええ。


§8 The sacrifice


○メープル、地下牢にて


メープル:くそっ……アレン様になんとしてでも知らせなければ……

大佐:準備は整った!城中の兵士を集め、国王陛下の護衛に当たれ!(叫んだ後、地下に走ってくる)

メープル:大佐!ショーホイル大佐!!

大佐:うるさいやつだな、騒ぐな、メープル殿。

メープル:大佐……。(大佐が地下牢の鍵を開ける)

大佐:今宵は負け戦だ、誰の目にも明らか。国民たちの怒号がこの城の地下にいても聞こえよう。聞こえていないのはジェンカ国王、あの方だけだ。我々はそれでも精一杯陛下をお守りするが、半分は我らが招いた今夜。メープル、お主も好きに生きろ。

メープル:感謝します、大佐。あの、最後にもうひとつ。

大佐:なんだ。

メープル:馬を1頭、借りられませんか?


歌 全会一致


隣国の兵士/ジェンカ国の国民と兵士たち:

今こそジェンカ国王を撃ち殺せ

私たちが奪われてきた全て 1人の命では償い切れない

誰のせいでこうなった(ジェンカ国王!)

いつかこんなにも貧しくなった(ジェンカ国王!)

共に戦い、共に歌おう

今夜が明ける時、希望の朝は私たちの手に

女:子供を返せ!

女:夫を返せ!

男:息子を返せ!

男:友達を返せ!

今こそ戦おう ノーム王国を建て直そう

兵士:皆に告げる!この国難は我らがジェンカ国王のご子息、アレン王子の贅沢癖が引き起こしたもの。王子は国民たちの怒りを知って城を抜け出した!アレン王子をひっ捕らえよ!

愚かな王様の、愚かな息子を捕まえ共に

焼き殺せ


○メープル、町を馬で駆け抜ける


メープル:どこだ、どこにいるのですアレン王子……アレン王子の居場所……いや、あの娘、あの奴隷は確か国境付近西側の村出身だったはず……もしかすると……。


歌 今夜を生き抜け


ジェンカ:愚かな国民たちが、武器を持っただと。どいつもこいつも使えぬやつ、全てのものはこの儂のために

メープル:なんとかして、王子を。まだ幼かった王子様、貴方だけがこの国の希望。

アレン:なんとか生き延びよう、共にふたりで。未だ見ぬ太平の世を、見るまでは。

シング:生きていても仕方が無いと、せめて死ねぬなら心を無くしたいとばかり思っていたあの頃。今になって初めて思う、死にたくないと。生きたい、彼のそばで。

国民/兵士たち:

今夜を生き抜け ノーム王国を再建しろ

ジェンカ国王を、アレン王子を、ひっ捕らえよ


○メープル、国境につく。怒号と銃声をくぐり抜け、西側へ


メープル:どこだ、王子、アレン王子!!

アレン:メープル、メープルだなその声は!

メープル:アレン王子!ああ、良かった、こんなにもお姿が……

アレン:何とか生きていたよ。すごい混乱だ。もうノーム王国は終わったんだね。

メープル:そんなことありません。アレン王子、王子が生きている限り希望がございます。あなたは逃げるのです、今はこの混乱、時が満ちるまで隣国へ亡国を!さあ!

アレン:ああ、行こう、シング。

シング:ええ、行きましょう。

メープル:あなたは……シング、アレン王子を頼みましたよ!


国境西側の門は隣国の兵士たちに破られ、銃声が飛び交う。手を組んだノーム王国の国民と、隣国の兵士たちが国王と王子を血眼になって探していた。アレンとシングはボロ切れで身を隠し、混乱に乗じて隣国へ脱出する予定だった。

○布で顔を隠したアレンとシング、国境にたどり着く。


アレン:……ありがとう、シング。

シング:……センリーです。

アレン:センリー?

シング:私の、本当の名前。

アレン:センリー……センリー!シングよりも、ずっと良い。綺麗な名だ。

センリー:(ニコッと微笑み)ありがとう、アレン様。希望を、ありがとう。

アレン:さあ、行くよ。(アレン、センリーの手を取って駆けていく)


ジェンカ国王の手下兵が国境付近に追いつく。国民、隣国の兵士たちとの撃ち合いに。どちらが味方かも分からぬまま、メープルも応戦する。そんな時、1人の兵士が王子を見つけたぞ!と叫ぶ。


兵士:見たんだ!一瞬だが、別人みたいになっていたが王子だった!あれは王子だ!王子を捉えよ!

メープル:嘘だ!アレン王子はもう隣国へ逃げ延びてここにはいない!(兵士と剣を交わらす)

お前たちは行け!

兵士:あそこだ!あの子だ!

国民:アレン王子だって?

隣国の兵士:お前たちに何人の同胞を殺されたことか!!

国民:こんな苦しみ、味わったこともないだろう!

民衆:王子を逃がすな!王子を撃て!

メープル:やめろ!危ない!


パン、と1発の銃声が轟く。


アレン:(ゆっくり振り返って、自分を庇って心臓を撃たれているセンリーを見る)(声にならない叫び)(やめろ!)

民衆:どこだ!王子はどこに行った!

兵士:隣国へ行ったと聞いたぞ!続け!

センリー:アレン、アレン様……(アレンの腕に抱かれて。息も絶え絶え)

アレン:嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……嫌だ……行かないでくれ、センリー、僕たちふたりで、センリーの故郷で、生きていくんだろう?センリー……。

センリー:アレン、様……あなたと出会えて良かった……。楽しい、1年だった……。

アレン:嫌だ、嫌だ嫌だ……置いてかないでくれセンリー……僕には君が必要だ、センリー……

センリー:アレン、様……太平の世を、どうか……。(息絶える)

アレン:センリー……(絶望した様子で天を仰ぐ)

メープル:アレン様!アレン様気を確かに!(戦いながらアレンを振り返る)

アレン:(ゆっくりと地面を見て、落ちている短剣を拾う)

メープル:アレン様!アレン王子!!あなたが!あなたは生きなければならない!アレン王子!

アレン:ああ、こんなにも、こんなにもセンリーの手が冷たい……こんなにも……大丈夫、ひとりになんかしない。すぐ行くよ、センリー。君をひとりにはしない……君の故郷には行けなかったけれど、いつまでもふたりで。ふたりで夕日を見よう。


アレン、自分の腹を刺しセンリーの上に倒れる


メープル:アレン様!!!!


§9 The cage has gone


○歳をとったメープル、子供たちに本を読み聞かせている、夜


メープル:そしてその国境には見たこともないほどたくさんの、美しい月見草が咲き誇りましたとさ。

子供たち:えー、今日のはかなしいおはなしだったー。

子供たち:もっと明るいおはなしがいいー。

子供たち:おじいちゃんはこのお話がだいすきなのね。

メープル:ああ、悲しくて、可哀想な、幼いアレン様……今こうして皆が幸せに生きていられるのも、奇跡のようなものなんじゃよ……それを忘れずにな。

子供たち:はーい。

メープル:では、おやすみ……良い夢を……


歌 The cage has gone


メープル:

いつの世にもある 悪はある

そこに必ず 善もある

ふたりの 檻は今、取り払われた

ふたりは いつまでも あの、地平線を

美しい 夕日を、月を

見上げているのでしょう



Fin

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少年と奴隷 印子 跡彗 @Carina

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