オンリーワン

赤城ハル

オンリーワン

 一周忌は元クラスメート全員が出席していた。

 三回忌は私とわずかな元クラスメート。

 七回忌はまた皆が集まった。六年経った今では皆は大人になっていた。


美海みうな、三回忌も出てたなら言ってよ」


 七回忌の帰り道、のぞみがぼやく。


「話すことでもないでしょ? てか、出席すれば良かったじゃん」

「だって三回忌の時は受験だったじゃん。美海はどうして出席したのさ」

「そりゃあ……受験で忙しかったけど……希、言ってたじゃん。『行けたら行く』って。だから……」

「あー、美海は東京出身だっけ。関西ではね、それは行けないという意味よ」


 希が肩をすくめて言う。


「……そう」


 だったらはじめから行けないと言えばいいのに。


「でも、最後なのか」


 希が少し寂しそうに呟く。


 これ以降は家族のみの法事とすると悠くんの父親が言っていた。


「仕方ないじゃない。色々あるのよ」

「じゃあ、なんで七回忌までしたの?」

「色々よ」

「何よそれ?」


 私は黙った。少し考えたら分かるのだから。


 悠くんの母親は「あの子も生きていたら、皆のように大人になっていたのね」と言っていた。

 悠くんの母親は大人になった私達を見て、夢想しているのだ。


 信号が赤信号になり、私と希は立ち止まる。


 ◯


 天ヶ瀬悠。

 不治の病で亡くなった私の想い人。

 わずか16歳という人生。


 皆に好かれ、愛され、人気者だった。

 私は彼が亡くなる前に思い切って告白したかったが、それは希によって絶たれた。


 あれは見舞いの日だ。


 希が急に忘れ物と言って、私を先に帰して病室に戻った。すぐに分かった。希が何をしようとしているのか。だから私は帰るフリをしてこっそり病院へ戻った。


 予想通り、希は悠くんに告白したのだ。そしてフラれた。


 希が病室を出た後、私は病室に入った。

 まるで流れるかのように。


 足が勝手に進み、手がドアを開けていた。

 彼は私を見て、苦笑していた。明るい夕陽が彼の顔を照らしているが、彼の表情は曇っていた。


 私は彼の近くへと向かう。


 胸がうるさいくらいドキドキしていた。


 私が口を開く前に彼が口を開く。


「告白されて困っちゃったよ。まさか君も告白なんて考えてないよね?」


 出鼻をくじかれた。


「向こうはさ、自分の悔いがないように告白しているんだろうけど、こっちは悔いが残るんだよ」

「残る?」

「だって、フった彼女達を悲しませたことに罪悪感を抱いてね」

「別にフったていいじゃない。気に病むことはないよ」


 私もフっていいよ。


「好きな人をフることでも」

「好きな人はフる必要なくない?」

「ダメだよ。俺が死んだあと彼女は苦しんじゃう」


 彼は窓へと顔を向ける。


「死んだあと……なんて」

「……」

「それじゃあね」


 私はそう言って病室を出る。その時、悠くんのお姉さんとすれ違った。


 私は結局告白できなかった。


  ◯


「お姉さんが言っていた悠くんの想い人って誰だろう?」


 信号が青になり、私達は歩く。


「さあ?」


 悠くんのお姉さんは今日の法事で悠くんの想い人について言っていた。


「誰だろう? 告白出来なかったらしいけど」


 あの後、皆は誰だと想い人を探し出そうとしていた。


「告白が出来なかったってことは……その子は告白しなかったってことだよね」

「もしくは逆にその子は告白してきたけど、フった可能性もあるよね」


 悠くんは告白は出来なかった。

 けれど相手は違うかもしれない。

 なら、告白してフったとも考えられる。


 彼は言っていた。「彼女は苦しんじゃう」と。


「それはないね」

 希はきっぱりと言った。


「なんでもその子は告白してないらしい」

「どうして分かるの?」

「お姉さんが言ってたの。『悠は告白されそうになったけど止めた』って」

「じゃあ誰なんだろうね」

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オンリーワン 赤城ハル @akagi-haru

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